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コンセプトペーパーとは?~構成要素と書き方のポイント~

コンセプトペーパーは、学術研究やその他の分野においても、本格的なプロジェクトの計画書を作成する前に、取り組もうとしているプロジェクトの概要を説明するための重要な文書です。コンセプトペーパーの特徴や意義を理解することは、研究のための強固な基礎を築くことを目指す研究者にとっても非常に重要です。

今回は、学術研究におけるコンセプトペーパーとはどのようなものか、その構成と書き方のポイントを解説します。

コンセプトペーパーとは

コンセプトペーパーとは、研究を実施するための承認申請や、助成金申請を行う際、研究の基本的な内容を概説する簡潔な文書です。取り組もうとしている研究プロジェクトの当初のアイデア、目的、理論的枠組みに関する説明を、数ページ程度の長さにまとめるのが一般的です(修士や博士課程で書く場合と助成金申請で書く場合などによっては長さが異なるので、指定の書式を確認するようにしてください)。研究計画書のように特定の研究の詳細な計画や方法論を書く必要がなく、原著論文のように完璧な研究プロジェクトの結果や分析の記載も不要である点がコンセプトペーパーの特徴です。基本的なアイデア、対象とするリサーチクエスチョン、研究の指針となるフレームワークを紹介することに主眼を置いて作成します。

コンセプトペーパーの目的

ビジネスにおいては、正式な提案書を提出する前に、上長らの承認や賛同を得るためにプロジェクトの目的や想定される成果について説明するいわゆる「企画書」がコンセプトペーパーに該当しますが、学術研究では、実施を予定している研究のプロジェクトの概要や研究の目的、実施方法について説明するための文書としてコンセプトペーパーが作成されます。コンセプトペーパーを書くことで、研究の方向性を明確にし、一貫性を持たせるためのロードマップの役割を果たすだけでなく、非公式に意見を聞くためのツールとしても活用できます。所属部署などにおける意思決定、承認、共同研究者からの参加の約束などを得るために使用され、関係者間での意思疎通を促進し、共同研究において私的なやりとりよりもフォーマルかつ丁寧なコミュニケーションをはかるツールとして機能するものです。

つまりコンセプトペーパーとは、研究の中核となる目的、理論的裏付け、潜在的な方法論に焦点を当てる助けとなるものであり、これを作成することによって、研究者は詳細な研究に取りかかる前に、フィードバックを得てアイデアを洗練させることができるのです。

コンセプトペーパーの主な構成要素

コンセプトペーパーの主な構成は、タイトルページ、背景説明、文献レビュー、問題提起、方法論、タイムライン、参考文献リストなどです。コンセプトペーパーは、助成金の申請において、提案する研究の妥当性と実現可能性を評価するのにも使われるので、研究者にとっては極めて大切なものです。

学術研究において効果的なコンセプトペーパーを書くには、必要不可欠な要素を理解し、それらの情報を上手く取り入れることが必要です。

上手く構成されたコンセプトペーパーは、上に挙げた要素をまとめ、提案する研究の概要を明確かつ包括的に概説し、研究テーマへの深い理解と、研究を実行するための構造化された計画を示すことができます。

コンセプトペーパーの書き方

コンセプトペーパーを効果的に仕上げるには、魅力的な研究テーマを選び、多数のリサーチクエスチョンを投げかけ、プロジェクトの根拠を裏付けるデータや数字を盛り込むことをお勧めします。内容を調整し、書式要件に従って簡潔な文書(長くても)に整える必要があります。さらに、インフォグラフィックや科学的な図解を用いれば、インパクトを高め、内容を読者に分かりやすく伝えることができます。以下にコンセプトペーパーを書く手順を記します。

1.簡潔なタイトルをつける

主要なアイデアを要約した、明確で説明的なタイトルをつけます。タイトルはペーパーの内容を直接的に表現するものである必要があります。読者に対してペーパーのプレビューとしての役割を果たします。

2.背景情報を提供する

研究における課題や関連する背景情報を提供します。重要な用語や概念を定義しておくと共に、その研究を行うことによって埋めようとしている研究ギャップを特定する既存の文献について言及します。

3.序論(イントロダクション)で内容を概説する

コンセプトペーパーでは、取り組んでいる課題やアイデアの概要を紹介し、その研究の意義を説明します。取り組むべき具体的な知識のギャップを特定し、取り組もうとしている研究課題と矛盾する理論があればふれておきます。

4.ミッション・ステートメント を定義する

コンセプトペーパーには、研究で取り組むべき課題や概念を簡潔に述べるミッション・ステートメントを含める必要があります。コンセプトペーパーを提出する目的は、研究プロジェクトに承認あるいは助成金を得るためなので、ミッション・ステートメントで研究目的を明確にし、プロジェクトの承認を得ることが研究分野に利益をもたらす理由を説明しましょう。

5.研究の目的と目標を説明する

コンセプトペーパーには、計画している研究の重要性と実施することで達成しようとする目的・目標についても言及する必要があります。なぜその研究が重要なのか、研究を通じてどのようなリサーチクエスチョンに答えようとしているのかを具体的に説明します。どのような研究で、どのような役割を果たし、どう特徴的なのか―研究内容の詳細を説明しましょう。

6.方法論を詳述する

研究の実施にあたって予定している方法 ―調査、実験、ケーススタディ、インタビュー、観察など について説明します。研究に関連する倫理的懸念があれば、このセクションで言及しておきます。

7.提案手法と潜在的な影響の概要を示す

研究の方法論を説明した後、その方法を採用してどのように研究を実施するかを記入します。専門的な設備を利用したり、共同作業を行ったりする場合には、このセクションに詳細を記載します。また、研究の潜在的な影響についても説明しておく必要があります。研究を実施することで期待される結果や影響についてできるだけ具体的に説明しましょう。社会的、経済的、その他の潜在的なメリットが得られるのであれば、その部分を強調します。

8.実現可能性について言及する

研究の実施に必要なリソースについて述べます。予想される研究期間と具体的なマイルストーンについても記述し、研究を進めるためのスケジュール案を示しておきます。

9.サポート(資金的援助)

このセクションでは、プロジェクトの予算、全体的な費用とその内訳を説明し、どのように資金が使われるかを読者が把握できるように示します。

10.結論

上述の重要なポイントをまとめ、研究内容の重要性を強調します。必要であれば、行動喚起や次のステップに向けた呼びかけも含めます。

コンセプトペーパーの構成や要素は具体的な要件によって若干の違いがあるので、指定されたガイドラインや指示に基づいて文書を作成するようにしましょう。

以下は、コンセプトペーパーを書くためのヒントです。

これらのヒントを意識することで、より良いコンセプトペーパーが書けるようになるでしょう。

コンセプトペーパーの例

コンセプトペーパーは、具体的な要件、ガイドライン、目的に沿って書かれなければなりません。ここで提示するのはあくまで一般的なコンセプトペーパーの一例ですので、これを参考に提案する取り組みで必要とすることや状況に合わせて、コンセプトペーパーを作成してください。
コンセプトペーパーの例(英語)はこちらからダウンロード できます。

コンセプトペーパーの重要性

コンセプトペーパーは、科学、社会科学、技術など、さまざまな分野の研究の方向性や可能性に影響を与えるものです。社会、経済、学術の各分野に影響を与える画期的な研究や斬新なアイデアの策定に貢献します。

コンセプトペーパーは、さまざまな分野で重要な役割を果たしています。

01.アイデアを明確にし、掘り下げる

02.戦略的な計画・意思決定を助ける

03.アイデアを洗練させる

04.詳細な提案の基礎となる

05.提案の発展と評価に役立つ

06.研究の第一歩となる

07.共同研究やフィードバック収集の機会となる

08.資金の分配とリスク管理に役立つ

よく練られたコンセプトペーパーは、新しいアイデアや提案の枠組みを明確、簡潔、かつ構造的に概説する上で不可欠なものであると言えます。コンセプトペーパーは、実現可能性、実行可能性、潜在的な影響力を評価するのに役立つのです。

コンセプトペーパー作成におけるAIの役割

AI、特に利用の広がる生成AIは、コンセプトペーパーの作成の補助ツールとしても使われるようになっています。責任のあるAIの利用には、研究の独創性と倫理基準を担保した上で、思考を促し、整理し、言語を洗練させることが求められます。AIの生成文を利用する場合には、十分注意しましょう。

コンセプトペーパーを作成する際、以下のような作業でAIを活用することが可能です。

1.アイデアの創出と整理

AIツールは、主要概念に基づくコンセプトペーパーの初期のアイデアのブレインストーミングや、情報の整理、アウトラインの作成、コンテンツの効果的な構造化に役立てることができます。

2.研究の要約とデータ分析

AI搭載のツールは、包括的な文献レビューの実施に加え、関連情報の収集・統合にも使えます。AIアルゴリズムは膨大な量のデータを処理・分析し、論文に書かれたコンセプトを裏付ける洞察や統計を提示することができます。

3.言語とスタイルの強化

AI文法チェッカーは、文法、スタイル、トーンに関する修正を提案してくれるので、専門的な文章レベルの質を確保するのに役立ちます。また、言語の異なる研究者間で共同研究を行うような場合には、AI翻訳ツールを活用することで、関係者間のコミュニケーションを促進することもできます。

4.共同作業とフィードバック

AIプラットフォームを使うと、複数の著者が同時にコンセプトペーパーの作業を進め、リアルタイムで投稿や編集、フィードバックをすることも可能です。

5.カスタマイズ/パーソナライズ

AIアルゴリズムは、コンセプトペーパーの特定の要件や文脈(前後関係)に基づき、個々の状況に応じた推奨事項を提示することができます。ターゲットとする読者に向けて、あるいは特定のガイドラインに準拠する形に、コンセプトペーパーをカスタマイズすることができます。

6.自動化と効率化

AIは、引用の書式設定、参考文献の作成、参考文献のチェックなど特定の作業を自動化し、著者の時間を節約することができます。

7.分析と予測

AIモデルは、提供された情報に基づいた潜在的な結果や影響の予測にも活用できます。

8.リアルタイム支援の提供

AIを活用したチャットボットは、コンセプトペーパー作成プロセスに関連する質問に対して、リアルタイムのサポートや回答を提供してくれます。

このようにAIは、コンセプトペーパー作成を大幅に合理化し、コンテンツの質を高め、さまざまな作成段階で著者をサポートし、最終文書を全体的に効果的なものとする役割を担ってくれるのです。
コンセプトペーパーは、研究アイデアを固め、しっかりとした研究提案書を作成するための足がかりとなるものです。コンセプトペーパーが研究の目的、プロセス、目標の概要を示すことでプロジェクトを提案するものであるのに対し、研究論文は実際に行った研究プロジェクトについて詳細を説明するものです。コンセプトペーパーは、アイデアのインパクトをそのままに、それを具現化させるための土台となる文書なので、学術研究に限らずビジネスなど幅広い場面で作成されます。コンセプトペーパーを作成することの意義は、利害関係者が画期的なコンセプトの内容と可能性を評価し、提案者・研究者がそのアイデアを実現するのを可能にすることにあります。

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