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研究者のためのイラスト作成ツール

報告書や論文を書くことは研究業務の大きな部分を占めるものです。研究者は、ほとんどの時間を研究自体か研究について書くかに費やしています。

研究者が論文を書くのは、仲間や学術関係者あるいは一般の人々など、さまざまな読者に自分の研究内容を伝えるためですが、論文や報告書には普段あまり意識していない別の要素を含めることも必要です。それは、科学的な図表やイラストです。報告書や論文を読んだことのある人なら誰でも目にしたことがあるであろう、イラスト、図表、グラフ、インフォグラフィックは、研究のアイデアを明確に示すための貴重なコンテンツです。デジタル技術やグラフィック機能の進歩により、見た人に興味を持ってもらえ、わかりやすく内容を伝える科学的なイラストを簡単に作画できる優れたツールが入手できるようになっています。

この記事では、研究のアイデアや内容をより良く提示するために、詳細かつ有用なイラストを作成する方法を見ていきます。研究者が科学的なイラストを作成するのに便利なツールも紹介しますので、是非参考にしてみてください。

科学的なイラストの作成

科学的なイラストを作成するには、まずそのテーマを明確にすることから始めます。何かを描き出す前に、何を描こうとしているのか具体的にイメージしておく必要があります。

まず対象を部分ごとに分けて観察し、最適な表現方法を考えることが役立ちます。必要な情報がすべて揃ったら、紙に下絵を描いていきますが、この作業は、論文を執筆する際にアウトラインを作成するのと同じようなものだと考えれば良いでしょう。デジタル・イラスト作成ツールを使い始める前に、自分のイラストをどのように見せたいかをよく考えておきます。

イラストを作成するときは、ターゲットとする読者を念頭に置くことも大切です。そのイラストを、研究内容を理解している研究仲間や他の研究者に向けて作成するのか、それとも一般の人々に向けて作成するのか――対象を定めることで、どのような情報を盛り込み、どのような情報は省いてもよいかが明確になります。

デジタルツールに頼る前に、科学的なイラストの目的は、新しい資料を紹介することではないと覚えておいてください。

科学的なイラストや図解は、論文の情報を読者に分かりやすく提示するために使うものですので、研究の題材を分かりやすく示すものでなければなりません。例えば、閉塞した心臓の動脈にステントを挿入して広げる処置について図解するのであれば、主要な構成要素を示し、ステントの機能を強調したイラストを作成するようにします。

ここで留意しておきたいのは、科学的なイラストには大きく分けて以下の3つがあり、用途によって使い分ける必要があるということです。

  1. 平面図や地図、簡単な線図、視覚的な説明図
  2. 対象を正確に描写しつつ、色や模様など特定の表面的なディテールを取り入れたイラスト
  3. 上2つを含むが科学的な視点よりも美的な視点を重視したイラスト

科学的なイラスト作成デジタルツール

どのようなイラストを作成するかのアイデアが固まったら、次はデジタルツールを利用してみます。ほとんどの研究者は、MicrosoftのPower Point(パワーポイント)やAdobeのPhotoshop(フォトショップ)、Illustrator(イラストレーター)といったツールを使いこなしていることでしょう。

PowerPointは、イラストを描くのに最適とは言えませんが、スライドショーを作るのに適しています。PhotoshopやIllustratorは素晴らしいツールですが、ライセンスの購入が必要で、使いこなすには慣れが必要です。他にも、科学的なイラスト作成に適したソフトやツールが開発されていますので、自分の使いやすいものを探すと良いでしょう。

1. BioRender

最近話題になっているツールのひとつに、科学者のためのシンプルなイラストレーション・プログラムが必要だと考えたカナダの女性たちによって作られたBioRenderがあります。BioRenderはライフサイエンス分野の模式図などを描画するためのツールです。SARS-CoV-2ウイルスからミバエまで、3万以上のライフサイエンス関連のアイコンがライブラリに収められており、ドラッグ・アンド・ドロップで簡単に利用できるほか、描画ツールも用意されています。このツールの制作者たちは、工学や化学分野のようにイラスト作成のための標準的なツールがない免疫学や微生物学のような急拡大している分野にもツールが必要だと考え、このプログラムを制作しました。個人向けのFREE(無料)プランでも基本的な機能は利用できますが、商用利用または論文を含む出版物への利用は認められていませんのでご注意ください。有料プランには個人または5人以上の団体利用の2つの料金が設定されており、法人プランもあります。

2. EdrawMax

Edrawが提供しているEdrawMaxは、専門的な科学的な図やテンプレートを提供してくれるソフトで、物理学、数学、化学分野の描画を作成するのに適しています。包括的な描画ソフトEdrawMaxの他に、マインドマップ作成やブレインストーミング支援ツールEdrawMind、ガントチャート・ツールEdrawProjなども提供しています。無料サンプルも公開されているので、試してみるのも良いでしょう。

3. GIMP

GIMP(GNU Image Manipulation Program)も高品質な画像操作のためのツールを提供する人気のソフトです。GIMPは、多彩なツールやLinuxのようなプラットフォームで使えるだけではなく、フリーソフトウェアなのでソースコードを変更して配布することもできます。非常に有用なプログラムですが、初心者が使い始める場合は苦労するかもしれません。

4. InkScape、Cacoo

ベクター画像の編集用ソフトInkScapeも科学者に人気のある無料ツールです。また、クラウド作図ツールCacooは、作図だけでなく、チームプランならリアルタイムで共同編集したりコメントしたりできるので、共同作業を行うのに適しています。

以上は、高品質な画像や科学的なイラストを作成するために利用可能なソフトやツールの一部です。他にもさまざまなツールがあるので、自分の目的やスキルに適した使いやすいものを試してみてください。

目を引く科学的なイラストを作成する

目的に最適なイラスト作画ツールを見つけ、基本的な使い方が分かったら、次は良い科学的なイラストとは何かを考えましょう。

簡単に言えば、良い科学的なイラストとは、「人目を引く方法で科学的な情報を明確に提示すること」でしょう。見る人の理解を深めるものであって、混乱させるものであってはなりません。色を使うこともできますが、過剰に使うことは避けます。見る側の理解を助けるために、イラストの中にテキストを使用することも可能です。優れたイラストは、研究内容をわかりやすく表示し、プレゼンテーションを向上させることによって、読者・視聴者に強い印象を残すことができます。

より多くの学術雑誌(ジャーナル)が論文とともに図・イラストや写真などを受け入れるようになり、科学的なイラストの需要が高まるとともに、イラスト作成のスキルも求められるようになっています。数多くのツールが利用可能となっている今、この新しいスキルを学ぶために時間をかけることは、研究者のキャリアを多くの側面から後押しすることになるでしょう。

ジャーナルによっては、グラフィカルアブストラクト(論文の要約を図で示すもの)の作成が求められる場合も出てきているようです。例えば、アメリカ化学会(American Chemical Society)が発刊するほとんどのジャーナルでは、グラフィカルアブストラクトの添付が義務付けられています。

論文やプレゼン資料、研究ポスターなど、目的に応じて有用なイラスト作成ツールを見つけて、是非活用してください。

参考リンク

  1. What makes a good scientific illustration?
  2. 10 Best Free Online Drawing Software – 2024
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