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地球沸騰化!我々が直面している地球温暖化―世界で今起きていること<気候変動編>

2023年夏の異常な暑さや、11月に入っても各地で25℃以上の夏日が続出したことを振り返れば、地球温暖化が身近に迫っていることを実感したことでしょう。今や気候変動という人類共通の問題について、実態を把握し将来を予測すべく、世界中の科学者がさまざまな研究を進めています。言語面から学術研究をサポートしているエナゴ学術アカデミーでも、今、世界が直面している環境問題や気候変動をとりあげるとともに、関連する研究を紹介したいと思い、このシリーズを立ち上げました。トピックの第一弾は「地球温暖化」です。


地球沸騰化の時代の始まり

2023年、日本は最高気温の更新、連続する猛暑日と記録ずくめの夏を経験しましたが、2024年に入って早々に、世界気象機関(World Meteorological Organization : WMO)や欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービスといった世界的な気象機関が、2023年の世界の気温記録が更新され、産業革命前の1850~1900年の平均より1.5℃近く上昇しているとの観測結果を発表しました。国連のグテーレス事務総長が2023年7月27日の記者会見にて「地球温暖化(global warming)の時代は終わった。 地球沸騰化の時代(the era of global boiling)が始まった」と発言し、日本では「地球沸騰化」という言葉だけが独り歩きしたように同年の流行語大賞に選ばれましたが、今、地球温暖化はまさに待ったなしの状況に突入しています。

地球温暖化に関する科学的な見解

  • 世界の平均気温が記録を更新
  • 海水温の上昇や海氷面積の最小記録更新など、海洋にも変化が
  • 気候変動は人為的な活動が原因
  • 異常気象(極端な天候)は温暖化すると激しくなる

参照:Reports — IPCC

地球温暖化とは-科学的な警告

近年、天気予報や災害報道で「気候変動」「地球温暖化」という言葉が取り上げられることが増えてきました。しかし科学者の間では、地球温暖化―二酸化炭素、メタンやフロンなどの温室効果ガス(Greenhouse Gas: GHG)の大気濃度が上昇することで地球の温度が上昇する現象―は、はやくも1970年代から注目されていました。

科学が進歩し、地球の大気のしくみについての理解が進むにつれ、地球の平均気温が実際に上昇していることが判明しました。その原因については長年議論されてきましたが、2021年8月、国連は気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)の報告書* 「第6次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)」(以下、AR6)の中で、地球温暖化の原因について「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている」と踏み込み、「今後数十年の間に二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に、地球温暖化は1.5℃及び2℃を超える」との警告を発しました。

*IPCCは、1990年に第1次報告書を発表して以降、5年~8年に一回程度のサイクルで、各国政府の気候変動政策に科学的知見を提供することを目的とした報告書を発表しています。2021~2022年にかけて世界各国の科学者が、地球温暖化の自然科学的根拠、影響・適応・脆弱性、気候変動の緩和などに関する研究結果をまとめた3つの作業部会からの報告書をまとめ、2023年3月に評価報告書の知見を統合したAR6を公表しました。

2023年の世界平均気温は観測史上最高、今後は?

2023年、年間世界平均気温が記録を更新しました。WMOは国際的な6つの気象データを検証し、2023年の世界平均気温は1850~1900年に比べて1.45℃前後(1.33~1.57℃)上昇していると示しました(図1)。アメリカ海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Administration: NOAA)によれば、気温だけでなく、水深2,000メートルまでの海水の温度も過去最高を記録しており、2023年6月から南米ペルー沖の海面水温が平年より高くなる「エルニーニョ現象」と気候変動が組み合わさったことが平均気温を押し上げたと分析しています。

2023年までの世界の気温データセット(6種)による平均気温の変化

図1.2023年までの世界の気温データセット(6種)による平均気温の変化(縦軸は1850~1900年の平均と比較した気温の変化量)
出典:世界気象機関(WMO)Provisional State of the Global Climate 2023

アメリカ航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration: NASA)が気候変動に関する情報発信を行うYouTubeチャンネルNASA Climate Change (@nasaclimatechange) では、世界の平均気温の上昇や北極圏の海氷面積の減少、2023年夏の記録的な気温の高さなどを図解する動画が公開されています。

WMOのセレステ・サウロ事務局長は「エルニーニョ現象は、ピークを迎えた後に世界の気温に最も大きな影響を与えることから、2024年はさらに暑くなる可能性がある」と警告を発しています。「また今年の夏も暑くなるの」とウンザリするだけではすみません。

現在、今以上に地球温暖化が悪化するのを抑えるべく、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比較して2℃より充分に低く、1.5℃に抑えることを目標とする「1.5℃目標」に向け、世界各国が温暖化の主原因とされるGHGの排出を削減しようと取り組んでいます。この目標は、2015年12月にパリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択され、翌2016年に発効された気候変動問題に関する国際的な枠組みである「パリ協定」に示されています。

IPCCが2018年に発表した1.5℃特別報告書(SR1.5)によれば、既に世界の平均気温は産業革命前と比較して約1℃上昇しており、このままだと早ければ2030年に1.5℃の上昇に達し、2050年には4℃程度に上昇すると予測されていました。

ところが、今回のWMOの報告で、2023年の今、既に1.45℃前後上昇していることが示されたわけですから、非常に危険な域に入りつつあるということです。たった0.5℃の違いでしょ?と思われるかもしれませんが、温度の変化は場所によって大きな差があり、極域など一部の地域では甚大な変化が現れています。そして、気温の変化は、直接的あるいは間接的に全世界に影響をおよぼしています。

WMOは「世界はパリ協定で定められた限界にますます近づいている」と評しており、2023年から2027年にかけて世界の地表付近の年間平均気温が、一時的でも1.5℃を超えてしまう確率が66%にのぼると予測しています。つまり、このままでは今年も来年も、ずっと暑い夏が続く可能性があるだけでなく、世界各地で森林火災や洪水、干ばつなどの異常気象が頻発する可能性が昨年以上に高くなるということを意味しています。

地球温暖化の原因は人為的なのか

前述のように、IPCCは、2021年8月に発表した最新の研究成果に基づく地球温暖化の現状や予測についての報告書(AR6)の中で、初めて地球温暖化の原因は人間の活動によるものと断定しました。では、IPCCはどのようにして人為的原因だと判断したのでしょうか。

それは、1850年以降に実際に観測された世界平均気温の変化を見たとき、火山噴火などの自然要因だけでは説明できない気温の変化(断続的な気温の上昇)が、人間活動による温室効果ガス増加の効果を入れた気候モデルのシミュレーションで再現できたことによります。

気候システムへの人為的影響

図2.気候システムへの人為的影響
出典:IPCC AR6, Chapter 3: Human Influence on the Climate System FAQ 3.1 How Do We Know Humans Are Responsible for Climate Change?

気候モデルとは、物理の法則に基づく計算により、地球の気候をシミュレーションするものです。2021年には、米プリンストン大学上席研究員の真鍋淑郎(まなべ しゅくろう)博士が気候を物理的にモデル化し、地球温暖化を高い信頼性で予測できるようにした業績に対してノーベル物理学賞に選ばれました。IPCCのレポートにも気候モデルが活用されており、現在も、様々な気候モデルの研究が行われています。

1.5℃の意味

2015 年のCOP21で、ほぼ全ての国が脱炭素化に取り組むことを約束した「パリ協定」が採択されましたが、その後も世界の気温は上昇し続けています。2021年のCOP26では、気温上昇を1.5℃に抑える努力を追及するとした合意文書(グラスゴー合意)が採択され、パリ協定の努力目標がより強く位置づけられました。

そもそも、温暖化が進むとどうなるのでしょうか?

気候モデルなどの研究からは、温暖化が進むと猛暑や大雨などの極端な気象現象が頻発し、深刻な気象災害がより頻繁に生じると予測されています。例えばIPCCはAR6で、平均気温の上昇が1.5℃になると、50年に1度という極端な高温は8.6倍に、10年に1度という大雨の頻度は1.5倍になるとしています。実際、近年の豪雨災害などの報道で「10年に一度のレベル」といった表現をよく耳にしていると思います。この影響をなんとか低く抑えるためには、気温上昇を1.5℃に留める必要があるということで、1.5℃目標に向けた対策の緊急性が呼びかけられているのです。

しかし、この目標を実現するには、世界のGHG排出量を2030年までに10年比で45%削減、2050年には実質ゼロにする必要があるとされており、簡単ではありません。1.5℃目標に向け、世界が一致して目指せるかどうかが大きな焦点となっています。

1.5℃目標を達成するためにCOP28で協議されたこと

2023年11月30日から12月13日まで、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにて開催されたCOP28では、パリ協定の目標達成に向けた世界の進捗を評価する仕組み(グローバル・ストックテイク)や、気候変動の悪影響に伴うロス&ダメージ(損失と損害)に対応するための基金を含めた新しい資金処置の制度に関する決定など、数々の議題が採択されました。(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)結果概要

中でも最大の成果は、1.5℃目標の実現に向かうため、化石燃料からtransition away(脱却もしくは移行)」し、2030年までに再生可能エネルギー容量を3倍にし、かつ省エネ改善率を2倍にするというエネルギーに関する合意ができたことです。開催初日に、損失と損害に特化した新たな基金の運用に向けた具体的なルールが決まったことは驚きでしたし、そのほか、第1回グローバル・ストックテイクに関する成果文書も作成され、開催前には産油国のUAEでの開催ということで気候変動対策が進まないのではとの懸念がささやかれた中で、1.5 ℃目標実現への可能性をつなぎました。今後、各国はCOP28での成果文書を参照に、2025年までに次期(2035年)GHG排出削減目標を立てることになります。

1.5℃目標を実現するために残された時間は刻々と少なくなっています。日本を含む各国は、このCOP28の合意を踏まえ、1.5℃目標達成に向けた気候変動対策をさらに加速させることが求められています。

地球温暖化とSDGs

年々、世界各地で極端な猛暑や干ばつ、豪雨などが頻発するようになり、そうした異常気象がニュースになることが多くなってきたことは実感されていることでしょう。もはや地球温暖化は、日々の生活に大きな影響を及ぼすものとなっており、その傾向は益々増えていくと言われています。地球温暖化は、我々の生活に被害をおよぼすだけでなく、生態系の破壊にもつながっています。

その対策として前述の1.5℃目標が掲げられていますが、それ以外にも持続可能な社会の実現に向け、地球温暖化の対策として何ができるかと考え出された17個の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals : SDGs)に世界が取り組んでいます。地球温暖化対策に最も関連が強いのは目標13「気候変動に具体的な対策を」です。これは、気候変動やその影響を軽減するための対策を講じることをテーマとしています。

SDGsウェディングケーキモデル

図3.SDGsウェディングケーキモデル
出典:Stockholm Resilience Center The SDGs wedding cake

SDGsの17個の目標は、「経済(Economy)」「社会(Society)」「生物圏(Biosphere)」の3つのカテゴリーに分類され、これらのカテゴリーの関係性を3層構造にモデル化したものが「SDGsウェディングケーキモデル」と呼ばれています。ここで目標13を含む生物圏が最下層に位置しているように、地球環境が適切に保全されていることが、社会と経済が発展するための前提となっており、地球温暖化をはじめとする環境問題への対策がSDGsにおいても重要な課題と位置付けられていることが明らかです。SDGsの目標を掲げ、積極的に行動する企業も出始めていますし、大学や研究機関などを巻き込み、産学官が連携して対策に取り組む事例も増えてきています。

地球温暖化研究の意義

地球温暖化の現状を知り、将来を予測するため、国内外の科学者による研究が進められています。地球温暖化の問題は、観測データやシミュレーションなどを活用した自然科学の枠を超え、人文および社会科学も含めた総合的な課題となっています。

IPCCの活動により、地球温暖化および気候変動に関する研究の成果は、国際的な社会や政策に大きな影響を与えるようになってきました。とはいえ、研究で得られた定量的な知見、特に予測に関する知見が適切に政策決定者に引用されているかには疑問が残っています。

地球温暖化問題を解決するためには、学術研究だけでなく社会的な変革を進める必要がありますが、と同時に、気候科学関連の研究を継続、さらに発展させるための理解および支援も必要です。どのような研究が行われているか、その研究成果がどのような温暖化対策につながっているかに目を向けることから始めてみてください。一例として、日本の大学や研究機関から発表された幾つかの地球温暖化関連の研究論文を次の段落で紹介します。

地球温暖化に関連する研究紹介

渡部雅浩副機構長(大気海洋研究所教授)がHighly Cited Researchers 2023に選出されました。 – 東京大学 気候と社会連携研究機構 (u-tokyo.ac.jp)

 

 

「地球温暖化」理解の助けになる視聴覚素材・ニュース

今世界が直面している気候変動に関連する問題を取り上げる本シリーズでは、次に地球温暖化に多大な影響を受けている「生物多様性」について取り上げます。ぜひ関心を持っていただければ幸いです。

 

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