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修士論文(Thesis)と博士論文(Dissertation)の意義と違い

 

大学院の学位を取得するには、通常、それぞれの課程で論文を執筆する必要があります。ところが、「論文」を示す語には幾つかの類義語があり、修士論文(thesis)と博士論文(dissertation)の意味と使い分けにも、混乱が見られることがあります。ここでは、この2つの言葉の意味の違いを整理してみます。

ThesisとDissertationの意味は、英国においてすら時代によって変わってきました。シェイクスピアの時代、修士号取得を目指す者はthesisを書く必要がありました。この場合、thesisとは特定の意見を主張した原著論文です。これに対し、博士号取得を目指す者にはdissertationの提出と発表が求められました。審査会に対してthesis(論文)を読み上げると、2人の委員が読み上げた内容の一つ一つに対して異議を唱えていくのを静かに待ちます。この審査の焦点は、その学生の考えと、考えを明確に整理して伝える能力です。学生が研究者としての道に進むことを望む場合、dissertationは避けては通れません。この時代のdissertationは、どちらかと言えば文献レビューのようなものでした。学生は特定の分野について幅広く本を読み、発見したことをまとめ、さまざまな機関やその意見について考察します。学生が対象分野の文献に精通していることを示すことが目的だったのです。

では現在、thesisとdissertationはそれぞれどのような意味で使われているのでしょうか。

修士論文(Thesis)と博士論文(Dissertation)とは

学位習得には高度な知識を要する学術論文を仕上げる必要があり、一般的には、大学院の修士号習得を目指す学生の書く修士論文をThesis、博士号習得を目指す学生が執筆する博士論文をDissertationと使い分けていますが、博士論文はDoctoral thesisと呼ばれることもあるようです。

修士論文(thesis)とは、研究成果に関する批評的な学術文書です。一般的には、修士課程を卒業予定の学生が提出します。修士論文の目的は、所属する課程の一環として研究してきた対象分野における専門知識や見解を示すことにあります。

博士論文(dissertation)とは、比較的長めの学術文書で、博士課程で行ってきた研究成果についてまとめたものです。博士論文を提出、発表した後、審査会での審査を経て博士号を取得することができます。この論文は、候補者が取り組んできた独創的な研究、あるいは、新規または既存の研究テーマを拡大させた研究に関する全ての情報を含めたものになります。

修士論文(Thesis)と博士論文(Dissertation)の違い

  1. 修士論文と博士論文の主な違いは作成時期です。先ほども指摘したように、修士論文は修士課程の最後に提出されるものであるのに対し、博士論文は博士号取得を目指す学生が執筆、提出するものです。
  2. 修士論文は、研究者が対象の研究過程で学んだ研究テーマについて熟知していることを証明するために、該当分野の研究をまとめたものです。博士論文は、その学生が専攻してる研究分野における既存の文献に新しい理論や情報を加える機会を与えるもので、博士論文用に行う研究は数年以上かけて完成させるのが一般的です。
  3. 修士論文は学んだ内容や既存の情報を提示することが目的であるのに対し、博士論文は、独自の概念を発展させ、理論的かつ実践的な結果に基づいてその概念を示すことを目的とするものです。
  4. 修士論文の長さは100ページ程度ですが、博士論文には研究の背景や情報も含めるので多いと400~500ページ程度の長さになることもあります。博士論文には、研究提案、助成金提案、文献レビュー、研究テーマのコンセプトに関する考え、そして、その研究に関するあらゆる詳細な情報が含まれていなければなりません。

修士論文(Thesis)と博士論文(Dissertation)の類似点

  1. 修士論文と博士論文はいずれもその執筆に高度な専門知識を要する学術論文で、それぞれの教育課程における学位の習得に必要です。
  2. いずれの論文にも、研究課題に関する詳細かつ正確な理解が求められます。
  3. いずれも、特定の研究課題について述べるものです。
  4. 学術文章を執筆する技能(アカデミックライティングスキル)が不可欠です。
  5. 研究データの収集および文書作成は、研究倫理に準じて行う必要があります。
  6. 剽窃・盗用は認められません。
  7. 研究結果を裏付けるための分析スキルが求められます。
  8. 最終提出の前に、徹底した校正とプルーフリーディングを行うことが重要です。

地域での使い方の違い:ヨーロッパとアメリカ

言葉の意味や使い方が時と共に変わってくることは多々ありますが、地域や言語によって違うこともあります。修士論文(Thesis)と博士論文(Dissertation)の使い方もヨーロッパとアメリカでは異なっています。

ヨーロッパでの意味は昔からほとんど変わっていません。博士号を取得するために行われる独自研究に焦点を当てた論文(thesis)を博士論文をdoctoral thesisと称し、より広範な大学院での研究プロジェクトの一部をdissertationと称しています。しかし近年では、独自の研究に多くの背景調査が求められていることから、thesisの焦点は今まで通り原著論文にあるものの、thesisの意味が先行研究の広範な引用や参照も含めたものに変化してきています。

アメリカでは、thesisの定義がヨーロッパとはほぼ真逆です。thesisがdissertationよりも短いことから、次第にthesisは最高学位である博士号を目指す過程の前段階での学位取得における論文を意味するように転じていきました。現在では、thesisは修士号を取得するために執筆する論文とされています。

そして、修士課程と博士課程に対する考え方には、分野によっては差があるようです。科学分野において、修士号取得を目指す学生は高度に専門的なクラスを受講し、研究プロジェクトで実践的な経験を積みますが、博士課程の学生と同じレベルで研究に携わることはありません。修士課程では、学生の意見は歓迎され、期待される一方で、その焦点はやはり専門知識の取得にあり、独自の研究を行うことはありません。工学系の学生は、修士号までは取得しても博士号まで目指すことは稀です。化学などの他の分野の学生には、大学院を途中でやめ、修士課程のプロジェクトとして不完全な研究の論文を執筆して修士号を取得する人もいるようです。

ThesisとDissertationの違い、修士論文と博士論文の違いはつかめましたか?ここまでの話をまとめると、修士論文(thesis)と博士論文(dissertation)は別のものなので、この2つの言葉の使い方を混同するのは避けるべきだということです。それぞれの論文を書く目的を理解しておいてください。修士論文(thesis)と博士論文(dissertation)のどちらを書いている場合でも、真剣に取り組む必要があり、非常に専門的なスキルとソフトスキルが求められます。いずれの学術文章を執筆するのでも、時間の管理や学術ライティングのスキルを向上させることは、学術文書の執筆において非常に役立つことでしょう。


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