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自己盗用・自己剽窃は許容されるのか

ほとんどの研究者は、盗用・剽窃は決して許されない不正行為であること、盗用・剽窃の内容によっては、研究者としてのキャリアに深刻な影響を及ぼすものであることを認識しているでしょう。誰かが行なった研究プロジェクトや論文を自分のものとして発表することは完全に「盗作」であり、誤って他人の研究成果や論文をコピーしたり、適切な引用や注釈なしに使用したりしてしまう「剽窃」よりも深刻だと考えられています。

自己盗用・自己剽窃とは

盗用・剽窃が問題であることは自分の論文に対しても同じです。自分が過去に書いた文章を再利用することの何が問題なのかと思うかもしれませんが、自分が書いたものであっても、適切な引用や注釈なしに使用することは自己剽窃にあたります。また、自分の過去の研究アイデアや自分が発表した文書(論文や書籍など)、作成した図表などと全く同じ、あるいは微少に変えたものを出典の引用を付けることなく改めて発表する(再利用する)行為は自己盗用となり、いずれも不正行為となります。

他の研究者の論文の文章を断りなく使用するのは研究倫理に反すると認識していても、自分自身のアイデアや執筆した文章を使用することも自己盗用・自己剽窃となることは見落としているかもしれません。自己剽窃の倫理性、つまり自己文書の再使用が許容される内容や度合いに関しては研究者や出版社でも議論が分かれるところです。自分の過去の研究アイデアやコンセプトを再利用することが盗用にあたると考える研究者もいれば、論文中の文章や画像の再利用だけが盗用にあたると考える研究者もいます。しかし、多くの学術雑誌(ジャーナル)は、著者の過去に発表済の研究をどれだけ論文に再利用できるかについて、明確なガイドラインを設けているので、投稿先ジャーナルのガイドラインを確認するようにしてください。

研究者が自己剽窃する理由

意図していなかったとしても、過去の業績を新しい業績のように見せてしまうことは自己剽窃であり、研究倫理的に受け入れられないということをほとんどの研究者は承知しています。しかし、それでも一部の研究者が自己剽窃をする理由のひとつには、研究者が“Publish-or-Perish(出版か死か)”というプレッシャーに直面していることが挙げられます。研究者は、キャリアアップや研究費獲得のために、学術論文をひとつでも多く出版しなければならないという大きなプレッシャーにさらされています。自分の過去の研究を再利用すれば、実際に新しい研究を行わなくても出版実績を増やすことができるのですから、「手抜き」をしたいと思う研究者がいてもおかしくありません。

研究者の中には、自己剽窃を意に介さない人もいます。自分が著者である以上、自分の論文をどうしようが自由だと考えているのかもしれません。もちろん、適切に引用されていれば自分の著作物を参照することは認められています。しかし、過去に出版した研究アイデアや成果を新しいものとして示すことは、読者に誤解を与えることになるので注意が必要です。

自己盗用・自己剽窃は許されるのか

学術界では、自己盗用・自己剽窃は敬遠されています。自己盗用や自己剽窃を行なって出版実績を増やせば他の研究者より優位に立てるかもしれませんし、自分の研究グループや研究機関の実績としても、より大きな効果が期待できるかもしれません。

しかし、根本的にほとんどの場合は不正とみなされます。そればかりか、自分の分野の他の研究者を誤解させかねない行為でもあります。さらに、出版する研究論文とは利用可能な最新の知識であるべきとの考えに基づけば、再掲された論文が以前発表した研究の再利用だった場合、要件を満たしていないことになります。論文は、新規性のあるものでなければいけないという点から見て問題がある上に、過去に発表したものであることをきちんと引用せずに、あたかも新しい論文であるように発表することは許されないのです。

自己盗用・自己剽窃は全く許されないのか

ここまでに示したように自己盗用・自己剽窃は通常許されないことですが、認められる場合もあります。そのひとつが、よく似た論文を2つの異なる言語で発表する場合です。複数の言語で発表することによって、より多くの人がその研究論文にアクセスし、利用できるようになるため、問題ないと認められることもあります。しかし、異なる言語で発表したとしても内容としては1つであることを明確にしておく必要があり、出版記録上では、2つの別々の論文としてカウントされるべきではないでしょう。

また、研究者は本の一部(章など)の執筆を依頼されることもあります。ジャーナルなどに掲載した原著論文や資料を再利用することも多いはずです。このような場合、著者は元の掲載を引用すれば、自分が過去に発表した論文や研究成果を再利用することができます。

論文の再利用は 「フェアユース」、つまり一定の条件を満たしていれば著作権者から許可を得なくても著作物を使っても良い、と考える研究者がいるかもしれません。例えば、ある論文にコメントしたり批評したりする目的であれば、出版された論文の一部を著作権者の許可なく利用してもよいと考えるのです。とはいえ、これはごく短いテキストやコンテンツにのみ適用されるのが一般的であり、引用するにあたって出典情報を適切に記載する必要があります。そして、他の研究者の論文であれ、自分の論文であれ、引用したい論文またはコンテンツの著作権を誰が実際に持っているかには注意が必要です。多くの場合、出版された論文の著作権はジャーナルにあり、著者は著作権を持っていないのです。

自己盗用・自己剽窃が認められない理由

自己盗用・自己剽窃は、学術出版において最も厄介な問題の1つです。他の著者の論文から盗用・剽窃するわけではないにせよ、読者や他の研究者がさまざまな媒体で文書化あるいは出版された知識やアイデアを探索する機会を奪ってしまうことになりかねません。出典にアクセスする読者の基本的な権利を損なうだけでなく、ジャーナルの著作権を侵害した場合には法的な問題にもなり得ます。

さらに、自己盗用・自己剽窃は、研究者個人の評判を毀損しかねません。研究不正と見なされ、投稿論文のリジェクトや出版物の撤回につながった場合には研究者としての評判に直接影響を与える恐れもあるのです。

自己剽窃を避けるための注意点

過去に発表された論文を再利用したい場合、どのようにすれば自己剽窃のリスクを回避できるのでしょうか。最も重要なことは、常に誠実な対応をすることです。ここでは、自己剽窃を避けるための注意点をいくつか紹介します。

  • 論文を再利用する理由が倫理的に正しいかどうかを確認します。なぜ、その論文を再利用したいのか、再利用することが最良の方法なのか、自分の論文や研究成果などを再利用することは他の人のためにも有用かを確認し、再利用の必要性を問い直してください。
  • 再利用する論文の執筆、コンテンツの作成に貢献した人の同意を得ていることを確認してください。共著者、編集者、出版社など関係者全員の同意が必要です。
  • 新たに論文を投稿する先に、過去の論文の一部を再利用していることを伝えます。出版社だけでなく、共著者、編集者などにもその旨を伝え、同意を得ておく必要があります。何らかの同意文書の作成が必要になるかもしれません。
  • 元の論文を「完全に」引用していることを確認してください。新しい論文の記載が引用元の論文の内容を忠実に再現していること、共著者などの同意を得ていることを明確に示す必要があります。そうすることで、読者が誤解することを防ぎます。
  • 自分の発表した論文について二重に功績を主張しないように注意してください。例えば、履歴書や助成金申請書では、2つの出版物の関連性を説明する必要があります。
  • 自分の論文を参考文献として使った場合でも、引用の記載が不十分にならないよう、オンラインの剽窃チェックツールなどを使い、適切に引用できているかを確認します。

これらの点をすべてクリアした上でも、自分の論文を再利用した場合、研究不正が疑われる可能性は捨てきれません。自分では自己盗用・自己剽窃ではないと思っていても、投稿先のジャーナルが自己剽窃と見なして論文をリジェクトするかもしれないので、再利用する場合にはきちんと弁明できるように準備しておくことが賢明です。

研究者が自分の論文を再利用する場合は、細心の注意が必要です。自己盗用・自己剽窃を避けるためには、常に誠実でなければなりません。自分が過去に執筆した論文であっても、それを「初めての」成果であるかのように読者に誤解を与えないようにすることが重要なのです。さらに、自分の研究を再利用することが、本当に科学界にとって有益なことなのかどうかを確認する必要があります。研究者として論文を出版し、研究分野の発展に貢献したいと思うのであれば、自己盗用・自己剽窃を避けるために時間と労力を費やすより、新しい研究に費やすほうが賢明かもしれません。

自分の論文や研究成果を含め、すべての先行研究の出典は正確に示すとともに、適切に引用しなければなりません。故意ではなく不注意だったとしても、自己盗用・自己剽窃は重大な不正行為であり、研究者としての信頼にも関わることなので、論文を投稿する前には必ず確認するようにしてください。自己盗用・自己剽窃のチェックには、オンラインの剽窃チェッカーなどを利用することをお勧めします。エナゴの盗用・剽窃チェックツールなどの利用をご検討ください。


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