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研究被験者を守る倫理的配慮とは

論文に取り組み始めた頃は、研究にさえ専念していればいいと考えがちですが、研究活動を進めていくうちに、実験に参加する被験者を守るための研究倫理は研究の中核をなすものであり、研究デザインの基礎となるものであることに気づかされます。今回は、倫理的に問題視された具体例も踏まえて、主な倫理的配慮について見ていきます。

研究における倫理的問題

出版規範委員会(Committee on Publication Ethics: COPE)をはじめ、科学研究における倫理性の推進を目的とした組織が数多く存在します。こうした団体に共通するのは、研究倫理というものが研究のおまけや脇役ではないという認識です。研究倫理とは、研究にとって不可欠な側面で、常に前提として守られるべき事項なのです。

– 妥当性

研究デザインは、研究ごとのリサーチクエスチョンに対応するものでなければなりません。研究の結論が、提起されたリサーチクエスチョン=研究課題および研究結果に相関するものでなければなりません。また、研究倫理では、使われる方法はリサーチクエスチョンと具体的に関連したものでなければなりません。

– 参加と同意の任意性

いかなる場合も、研究への参加に強制があってはなりません。参加者を信頼させるための説得や虚偽も強制に含まれます。

インフォームド・コンセントでは、個人が研究に参加することに書面で同意しなければなりません。同意書は、研究者と参加者の間で信頼関係が結ばれたという証でもあります。

– サンプリング

サンプリングは、研究デザインの最初のステップです。臨床試験の対象をなぜそのグループに設定するのか、理由を明確にする必要があります。また、特定の人やグループを除外した理由も説明する必要があります。参加者に子供や特別な援助を必要とする人々が含まれる場合には保護者の許可の取得など、対処すべき要件も増えます。

– 守秘義務

英国の経済社会研究会議(ESRC)の倫理原則の第3項目では、「研究対象者から提供された情報の機密性と回答者の匿名性は尊重されなければならない」と記されています。しかし、時には守秘義務は限定的となります。例えば、被験者が危害のリスクにさらされる場合、研究者は彼らを保護しなければならず、そのために機密情報を開示する必要があるかもしれません。

– 危害のリスク

研究者は、研究参加者を保護するために全力を尽くすべきです。そのためには、リスクをベネフィット(便益)に対比させて検討する必要があります。もし、起こりうるリスクがベネフィットを上回るのであれば、試験を中止するか、研究デザインを組み直すべきです。また、危害のリスクに関しては、実験の進行に伴ってリスク・ベネフィット比がどう変化していくかを測定する必要もあります。

– 研究方法

科学的研究には、数多くの方法が存在します。倫理的な配慮を行うにはその中から最適な研究方法を選び出さなければなりません。いくつかの質問に答えることで自分たちの研究に適した方法が見つかるでしょう。

i. 研究の目的に最も効果的に合致するのはどの方法か?

ii. その方法の長所と限界は何か?

iii. その研究方法を使う際に潜在的なリスクはあるか?

より詳しいガイダンスは、ESRC Framework for Research Ethics(研究倫理に関するESRCフレームワーク)を参照してください。

研究機関内の審査委員会

研究倫理の重要性は、強調してもし過ぎることはありません。倫理的なガイドラインに従うことで、研究の妥当性が確保され、科学への貢献が促進されます。研究者個人も、研究の質を高め、研究費獲得の可能性を高められます。

倫理的配慮の必要性に対応するため、多くの研究機関は内部にその機関独自の審査委員会(Institutional Review Board = IRB) を設置しています。IRBは、研究参加者の安全を確保し、人権侵害を防止します。また、研究の目的や方法をチェックし、倫理的な慣行が守られていることを確認します。もし、研究計画が倫理的ガイドラインに沿っていないと判断された場合、研究者には計画の修正が命じられます。

倫理審査の申請

倫理審査の方法は、研究機関によって異なります。どのような審査であっても、研究のベネフィットと被験者が被るリスク・ベネフィット比に焦点が置かれます。つまり、倫理的承認を得るためには、その両方に対処する必要があります。

– 参加者

実験の十分な情報を得た上で参加するかを決定できるよう、参加候補者に十分な情報を提供することが重要です。同意、危害のリスク、守秘義務といった倫理的な問題が明確に定義されていることも証明しなければなりません。

また、その研究の必要性と、その研究結果が科学に貢献するものであると、審査委員会に証明する必要があります。そのためには、以下のことを示さなければなりません。

i. 成果の質と公正性が保証される研究であること

ii. 研究の成果が適切に共有されること

iii. 研究の目的が明確で、方法が適切であること

– 研究インテグリティ

研究には、と透明性が欠かせません。研究に影響を及ぼす可能性のある利益相反は、潜在的なものも含めて明らかにすることが研究者には求められます。さらに、承認プロセスや研究過程を通じ、誠実さと透明性を保たなければなりません。

非倫理的行為の危険性

倫理的ガイドラインに遵守が求められるには理由があります。ガイドラインがなければ、研究に悪影響が出るだけでなく、研究に関わる人々にまで悪い影響が及ぶのです。

以下に、非倫理的な研究として悪名高い事2つの例を挙げます。倫理基準遵守の重要性が分かります。

スタンフォード監獄実験(1971年)は、受刑者と刑務官の関係から、力関係の心理的影響を調査することを目的としました。「刑務官」という役割を与えられた参加者は、「受刑者」を心理的・身体的な危険にさらすような行動にでました。参加者は自発的に実験に参加したものの、参加者の福祉はないがしろにされました。

最近では、中国の研究者、賀建奎(フー・ジェンクイ)がゲノム編集ベビーの研究を発表したケースがあります。100人以上の中国の科学者がこの研究を 「クレイジー」、「衝撃的で受け入れられない」と非難しました。この研究は「先にやって、後で議論する」という無責任なスタンスのもので、人体を操作するということの倫理的な懸念を無視するものでした。北京大学免疫学教授の王月丹(ワン・ユェーダン)氏は、これを「世界にとって倫理的な災難」であると言及し、この種の倫理違反に対する厳罰を要求しました。

研究倫理について、皆さんはどのような経験をお持ちでしょうか?

エナゴの英文校正サービスでは、倫理的に不適切な表現のチェックの他、すべてのサービスに含まれる「投稿規定チェック」でも、症例報告画像に使用している患者の同意書が添付されているかなど、倫理規程に関わるチェックをご提供しています。


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