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外国人留学生は日本の大学を救えるのか

日本人の少子化傾向対策として、積極的に外国人留学生の受け入れを行っている大学もあり、外国人留学生の数は確実に増加しています。独立行政法人日本学生支援機構による平成29年度外国人留学生在籍状況調査結果によれば、2018年5月1日現在の留学生数は298,980人で、前年比 31,938人(12.0%)増でした。この調査は、大学院、大学、短期大学などの高等教育機関および日本語教育機関を対象に行われたもので、特に増加率が高かったのは、短期大学(27.4%)。次に専修学校(専門課程)(14.8%)と日本語教育機関(14.5%)が続いています。高等教育機関の留学生数は、前年比増加数は20,517人(10.9%)となっており出身地域の割合ではアジアが突出しています(93.4%)。

留学生30万人計画

外国人留学生増加の背景には、政府の政策による後押しもあります。日本政府は2008年に「留学生30万人計画」を発表しました。これは、少子高齢化、人口減少の進む中で優秀な人材を呼び込み、日本の国際的な人材強化につなげることを目指し、留学生の数を2020年までに30万に増やそうとするものです。日本学生支援機構の調査結果を見ると、昨年5月時点で該当計画の政府目標はほぼ達成したことになりますが、留学生の実態が報道され、新たな社会問題と化しています。政府の政策が、教育政策というより産業政策だったのではないかとの指摘もあり、この計画が当初目指していたような「世界により開かれた国」にはなっていない現状が明らかとなっています。とにかく来る者を拒まずの受け入れを推奨した結果とも言われ、その割には留学生が学位取得後に日本で活躍できる仕組みが整っていないために、せっかく育てた人材が欧米などの他国に移って行ってしまうという事態に陥っています。

日本国内の大学で外国人留学生の受入数が多い大学

国際教養大学や国際基督教大学のように国際性を重視し、特殊なカリキュラムを有する特色のある大学以外にも、積極的に外国人留学生を受け入れている大学は多数あります。日本学生支援機構の外国人留学生受入数の多い大学を上位から並べると、早稲田大学(私立)5,412人、東京福祉大学(私立)5,133人、東京大学(国立)3,853人、日本経済大学(私立)3,348人、立命館アジア太平洋大学(私立)2,867人となっていました。

しかし、残念ながら外国人留学生を受け入れている大学のすべてが勉学に集中できる環境を提供しているとは言えないようです。大半の学生が授業料や渡航費を支払うためにアルバイト漬けになって授業に出ていない大学もあることが分かっています。受入数上位に入っている東京福祉大学は、2019年4月に大量の外国人研究生が行方不明になっている実態が明らかになったと報道されました。2016年度から昨年度までの3年間に1400人の行方が分からなくなっていたため、文部科学省の調査が進められています。日本に留学してくるために多額の借金を抱えている学生が授業に出る間もなくアルバイトに追われる反面、記者会見で元総長が「金儲け」のために留学生を大量に受け入れていたと告発したため、大学側の姿勢が問われる事態となっています。しかし、これは東京福祉大学だけの問題ではありません。他の地方大学でも授業料が払えないという経済的な理由により、留学生が卒業することなく退学・除籍となっています。気の毒なのは「留学生30万人計画」の影で食い物にされている留学生です。大学側の受け入れおよび管理体制が不十分であることも一因ですが、拙速な計画推進が社会問題を生み出したとも言えるのではないでしょうか。

一方で、適正な学習環境を提供し、世界的にもユニークな大学としての評価を獲得している大学もあります。立命館アジア太平洋大学(APU)には約6000名の学生がいますが、そのうちの20%弱が大学のある九州地区からの学生です。残りの80%を超える学生は、九州以外、国内外から大分県の当校に集まってきています。全学生に占める国際学生の割合は約50%。2018年5月時点では、世界88ヶ国・地域から学生が集まってきているそうです。このような取り組みが評価され、同校はイギリスの高等教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)による「THE世界大学ランキング日本版2018」の『国際性』では私大で1位、同じくイギリスの高等教育評価機関クアクアレリ・シモンズ社による「QS世界大学ランキング2018アジア地域編」でも『国際性』で100点満点を獲得しています。しかも、日本の大学でありながらAPUは英語と日本語を公用語としており、講義の多くは二言語で行われています。

日本の少子化が大学を揺るがす

少子化で学生が足らない―とはよく耳にするものの、どのぐらい深刻なのでしょうか。

日本の18歳人口は、第二次世界大戦後のベビーブーム世代が18歳となった1966年の249万人をピークに減少に転じ、2014年には118万人となりました。その後は119万から120万人と多少持ち直しましたが、2018年は118万人と再び減少傾向となり、2031年には100万人を割り込むことになるだろうと予測されています。この少子化傾向は高等教育機関に直接的な影響を及ぼします。進学率が上昇しても学生総数自体が少なくなっているため、選り好みしなければすべての若者が高等教育機関に入学できるほどの状況なのです。日本の大学生数は2018年の65万人から、2031年には48万人に減ると予測されています。学生数減少は授業料収益の減少に直結し、大学にとっては死活問題です。2014年には私大の約4割は定員割れを起こしており、地方の国公立大学は2018年以降に財政難が表面化してくると予想されます。これが大学の「2018年問題」です。進学率は既に頭打ち、定員割れの大学の増加、大学間の統廃合や廃校など、大学にとっては生き残りをかけた戦いです。私立大の中には、学生を集めるために首都圏郊外のキャンパスを、都心部に移す動きも活発化しています。また、文科省は、大学の経営支援策を検討しており、国立大学法人について複数の大学をグループ化して経営できるような法改正を検討している他、政府も地方大学振興に関する新たな交付金を予算計上するなどの策を講じています。とはいえ、18歳人口の減少が止められない以上、大学の統合・縮小には歯止めがかからないと見られています。

ところが、驚くことに大学の数は増えています。2017年時点での日本の大学数合計は780校。2016年に前年より減少したのを除けば、1950年代からひたすら増え続けてきました。780校の内訳は、国公立が176校で、私立が604校。先に述べたように18歳人口が減少すれば、当然国外から学生を連れてこなければ学生数は確保できません。大学にとってグローバル化を進めるのと平行して、外国人留学生を増やしていくことは不可欠なのです。

現役の学生達の多くは、上の世代と比べて外国人が珍しくない環境で育ってきています。しかも、完全にボーダーレスなインターネットが普及する中、今の学生と親世代では「国境」や「グローバル化」の意識に大きな隔たりがあることも想像できます。今後は、日本の大学に進学しながら多様な国からの留学生と席を並べ、国際的な環境で学ぶ学生が増えることでしょう。

 


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