14

日本の女医不足に拍車をかける大学スキャンダル

入試で女子受験生の得点を恣意的に減らし、女子の合格者数を抑制していたことが報じられた東京医科大学。女子学生が医師になっても結婚や出産で辞めてしまう人が多いからというのが、男子受験生を優遇した理由だそうですが、調査が進むにつれ、不正の根深さが浮き彫りになっています。女医不足・医師不足が社会問題となる中で、医師になる潜在的な人材を大学入試の段階で不正に切り落としていた行為は、高等教育機関としてあるまじき行為ですが、女性の活躍支援に関わる国の補助金を受けていたこと、高額な謝礼を受け取っていたことも発覚し、問題はさらに大きくなっています。海外メディアでも取り上げられ、日本社会の構造的な問題とも見られています。

 

■ 東京医科大の矛盾と日本社会が抱える男女格差

東京医科大は文部科学省が公募した「平成25年度女性研究者研究活動支援事業(一般型)」の補助金を受けていました。採択されたことを報告する同校のホームページ には、この支援事業について「女性研究者がその能力を最大限発揮できるとともに、出産、子育て又は介護と研究を両立するための環境整備を行う取組みを支援することを目的とした事業」であると記されています。この支援金は3年間で、総額80,264,000円。「本学の女性研究者支援体制の整備は急務である」と書きつつ、その裏で女性医師・研究者の卵である女子受験生の得点を一律で減点し、入学者数を制限していた罪は重いと言えます。この問題を取り上げたBBCニュース は、日本の専門職における女性の割合の低さにも言及しています。実際、厚生労働省の調査報告 によれば、日本の医師数は全国で319,480人、男性251,987人(総数の78.9%)に対して、女性67,493 人(同21.1%)となっています(平成28年12月31日時点での届出数)。では、この人数と男女比率は他国と比べてどうなのでしょうか。

 

OECDデータに見る日本の医師の数と女性の割合

OECD.Statの「OECD Health Statistics 2018 」Health Care Resourcesから、最新のデータを見てみます(基本は2016年のデータ、国よって2017年のデータ有り)。このデータを元にOECD加盟国の人口1,000人あたり医師の数 を比較すると、日本は33ヶ国中29番目(2.43人/1,000人)。最も数の多いオーストリアは5.13人なので、人口あたり倍以上の人数の医師がいることになります。単純に医師の数が多ければよい医療が受けられるとは言い切れませんが、日本の医師の激務の裏には人数の問題があることも察せられます。同じOECDのデータ(2016年)からは、日本の総医師数308,105人に対し、女性が64,760人(21.02%)、男性が243,345人(78.98%)と、厚生労働省のデータと同じく女性の割合が少ないことが見て取れます。次に国別の女性医師の割合を見てみると、2016年のデータがある32ヶ国中、日本は最下位の32番目(21.01%)。上位は、ラトビア(74.22%)、エストニア(72.95%)、リトアニア(推定値で69.73%)とバルト三国が非常に高い割合となっていました。アメリカが医療先進国ながら35.52%と低迷しているものの、20%台は日本と韓国(22.7%)のみで、世界的にも低い割合であることは明らかです。

OECD.Statには2000年以降のデータが掲載されています。これを見ると、日本の女性医師は2000年の35,144人から2016年の64,760人まで年々増えていますが、女性医師の比率はOECD加盟国に比べても低いままなのです。

 

東京医科大学が露呈させた日本の社会問題

また、日本国内の主な診療科別の医師数を見ると、女性医師の割合が多いの は内科 (15.5%)で、次いで小児科(9.0%)、眼科(7.8%)となっています。一方で、男性は内科(21.2%)が最も多く、次いで整形外科(8.4%)、外科(5.6%)となっていました。

確かに、医師数には男女で差があり、診療科の傾向も男女で異なります。医師に限らないことですが、日本ではいまだに社会的な役割分業意識が強く、女性が出産や育児で仕事を辞めざるを得なくなることも多いのが現実です。特に、勤務時間が不規則で長時間労働になりがちな医師の場合、働きながら子育てすることが困難となることは容易に想像できます。だからといって、今回、東京医科大学が行った不正は許されるものではありません。同大学の評価が大きく下がるのはともかく、医師のような高学歴と高度な知識・技能が求められる職種ですら男性が優遇されている日本の社会構造が露呈されたことで、日本の医学界、ひいては日本社会そのものの評価にも影響するのではないかと懸念されます。

X

今すぐメールニュースに登録して無制限のアクセスを

エナゴ学術英語アカデミーのコンテンツに無制限でアクセスできます。

  • ブログ 560記事以上
  • オンラインセミナー 50講座以上
  • インフォグラフィック 50以上
  • Q&Aフォーラム
  • eBook 10タイトル以上
  • 使えて便利なチェックリスト 10以上

* ご入力いただくメールアドレスは個人情報保護方針に則り厳重に取り扱い、お客様の同意がない限り第三者に開示いたしません。

研究者の投票に参加する

研究・論文執筆におけるAIツールの使用について、大学はどのようなスタンスをとるべきだと考えますか?