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オープンアクセス出版の論文掲載料(APC)に関する5つの懸念

学術研究の成果をインターネット上で公開し、誰もが読めるようにするオープンアクセス(OA)出版は、知識を広く知らしめるものです。OA出版は科学研究の世界における革新であり、関係者間のとイノベーションを促進することで、知識へのアクセスに対する障壁を取り除くことを目的としています。しかし、課題も残されています。従来の購読モデルでは、論文へのアクセスが制限され、講読コストは高いため、利用の可能性も限られていました。OA出版は、無制限に研究成果へのアクセスを認めることで、このハードルの高さに対処しており、多様なバックグラウンドを持つ研究者が恩恵を受け、科学的知識の発展に貢献できるようになっています。学術論文をオープンアクセス化することは、科学コミュニティにとっていくつかの利点があります。

OA出版のメリットが認識されている一方で、高額な論文掲載料(Article Processing Charges; APC)を理由に論文のOA出版を控える研究者もいます。エナゴアカデミーが実施したOAに関する調査によると、57%の研究者がAPCを徴収するOAプラットフォームでの出版を控えていることが明らかになりました。

オープンアクセス出版のさまざまなモデル

OA出版は、ジャーナルや出版社が論文をオープンアクセス化する際の処理方法から、大きく3つのモデルに分けられます。

ダイヤモンドOA:ダイヤモンドOA、またはプラチナOAと呼ばれるオープンアクセス出版モデル。一般的には、大学や研究機関などが運営資金を提供しているので、読者は購読費・ライセンス費用を支払うことなく、出版後すぐに論文にアクセスすることができる。

ゴールドOA:ゴールドOAとは、論文掲載後、すべての人が論文の最終版にアクセスできるようになるモデル。通常、論文を投稿した著者か所属機関が、論文が受理された段階で学術雑誌(ジャーナル)に論文掲載料を支払う。

グリーンOA/セルフ・アーカイブ:グリーンOAは、一定の制限期間経過後、原稿をリポジトリで公開することで、誰でもアクセスできるようにするモデル。このときの論文の著作権は、出版社あるいは学会などの団体にある。ほとんどのOAジャーナルおよびハイブリッド・ジャーナルはグリーンOAモデルを採用している。

APCとは

APCとは、論文を掲載する際の処理費用、論文掲載料です。著者は、自分の研究論文を誰もが利用できるようにするため、ジャーナルや出版社にAPCを支払わなければなりません。ジャーナル制作費の負担を読者から著者に転嫁することで、読者は購読料を支払うことなく論文を読むことが可能になります。

科学出版におけるAPCの役割

OA出版を維持するため、多くのジャーナルや出版社は、出版プロセスにかかる費用を賄うべく著者にAPCの支払いを求めます。この料金は、ジャーナルの評判、論文の長さ、補足資料の有無などの、さまざまな要因によって異なるだけでなく、ジャーナルや書籍といった出版物ごとにも異なることもあります。APCは代替的な収入源としての役割を持つ一方で、OAの本来の目的と相反して障壁となる可能性が捨てきれません。

APCを支払うタイミング

APCは、論文が掲載条件を満たし、アクセプト(受理)された時点で支払わうものです。投稿論文の責任著者(Corresponding author)に受理が通知されてから、期日までに(30日程度)支払う必要があります。費用と支払い期日はジャーナルによって異なるので確認しておきましょう。料金は、著者、所属機関、または資金提供機関から支払われます。いくつかの助成機関は、APCをカバーする助成金を提供しています。低所得国や資金力の乏しい研究機関の研究者には免除制度もあり、編集委員会に免除申請を行うことができます。

APCは何に使われているのか

APCは、投稿先ジャーナルによっても幅があり、一概に金額を示すことはできません。研究者が支払うAPCは、手数料、出版、編集、マーケティング、プロモーションなどに関わる経費、さらにデータの保管、税金などに使われます。

APCは科学の発展を阻害するか

APCの目的は、科学文献への自由で無制限のアクセスを容易にすることですが、その一方で、科学の発展を阻害する可能性もあります。以下にオープンアクセス化のAPCに関連する5つの懸念を挙げます。

1.経済的な障壁

APCは研究者、特に低所得地域の研究者や、資金が限られている研究機関にとって経済的負担となることがあります。高額なAPCは、資金力のある研究者や研究機関にとって有利に働く一方で、資金に乏しい研究者や研究機関から投稿の機会を奪うことになりかねません。さらに、高インパクトジャーナルの高額なAPCは、研究者がより安価で発表できる低インパクトジャーナルに掲載する動機となり、科学的貢献の多様性と包括性を制約することにつながる可能性があります。

2.不公平な情報へのアクセス

高額なAPCは、知的リソースへのアクセスにおける不公平をもたらし、資金力のある研究機関の優位性を永続させる可能性があります。その結果、発展途上国や小規模な研究コミュニティにおける科学の発展が阻害されることも考えられます。エナゴアカデミーが実施した調査からは、研究者の40%がAPCはオープンサイエンスに対する脅威であると認識していることが明らかになっています。

3.研究における判断のゆがみ

APCを支払うために、研究者が資金提供を受けやすい、または商業的に魅力のあるテーマを選択する方向に流される、つまり、APCの存在が研究課題の選択に影響を与える可能性は捨てきれません。また、論文の出版に対して支払う必要のある費用を捻出するため、品質管理に割り当てる予算を削ることも考えられます。このような研究における判断のゆがみは、従来とは異なる研究分野やニッチな研究分野の探究を妨げ、科学の発展を妨げることになりかねません。

4.出版バイアス

APCの高額なコストは、十分な資金を持つ研究者だけがOAジャーナルで研究を発表できるという「出版バイアス」をもたらす可能性があります。その結果、特定の地域や分野からの研究が過小評価され、学術文献の多様性と包括性が制限される可能性があります。さらに、高額なAPCの支払いを避けるためにOAジャーナルで出版するのを控える研究者もおり、その結果として文献へのアクセスが減少する傾向も見られています。

5.使用許可の制限

OAジャーナルは、掲載された研究論文への自由なアクセスを提供することを目的としていますが、出版社によっては、 公開されたコンテンツ(論文)の使用許可を制限する契約を課すところもあります。論文の再利用や配布が制限されることで、OAの原則を損ない、知識の普及を妨げる可能性があります。

とはいえ、すべてのOAジャーナルがAPCを徴収しているわけではありません。団体会員・学会員になったり、助成金を活用したりするなど、APCに関わる経済的負担を軽減するのに役立つ手段が存在することは注目に値します。さらに、APCの懸念に対処し、科学研究へのより公平なアクセスを促進するために、OA出版のための代替え手段となる資金提供モデルを模索する取り組みも行われています。

APCに関わる懸念に対抗する4つのアプローチ

1.透明な資金提供モデル

APCの内訳については知っていても、出版過程で研究者を支援してくれる団体・組織や資金提供モデルについては知らない研究者が多いのが現状です。透明性のある資金提供モデルを導入することで、財政的な負担を軽減することができます。資金提供機関、研究機関、政府は、資金が不足している研究者のために、APCをカバーするための予算を割り当てることが求められます。さらに、コンソーシアムベースの契約やクラウドファンディングの取り組みなど、別の資金提供モデルを模索することで、研究論文へのアクセスを増やし、無理なく投稿できるようになるでしょう。

2.共同研究とリソースの共有

リソースと経済基盤を共有するために研究機関と研究者間の協力を促進することで、個々の著者の経済的負担を軽減することができます。さらに、コンソーシアムやネットワークを設立することで、費用を分担し、OA出版を共同で支援することができます。

3.品質保証

厳格な査読プロセスの重要性を強調することは、科学的水準を高いレベルで維持する上で極めて重要です。さらに、透明性を高め、ハゲタカ出版社を特定し、OA出版の信頼性と完全性を確保するために努力することが求められています。

4.政策の策定と変革の提唱

政府、資金提供機関、研究機関は、OA出版を優先し、著者がAPCをカバーできるように支援する政策を策定すべきです。変革を提唱し、APCの限界に対する認識を高めることで、持続可能な代替手段の開発を促すことができるでしょう。

OA出版は科学的コミュニケーションに革命をもたらす可能性がある一方で、APCの問題には重大な懸念が示されています。APCが、科学の発展を妨げ、研究コミュニティに不公平性を生み出すことが危惧されます。APCの懸念に対処するには、持続可能な資金提供モデルの開発、共同研究の促進、品質保証の強化、政策の策定と変革の提唱など、関係者が一丸となって取り組む必要があります。そうすることで、科学的発展および知識の普及を促進し、より公平で包括的な状況を確保することができるでしょう。

最後にくりかえしますが、APCについては、投稿先のジャーナル毎にきちんと調べて下さい。大学や学会によってはAPCの割引制度を設けていますので、実際に論文を投稿することになったら確認しておきましょう。また、どのOAジャーナルに投稿すべきか、論文に適した投稿先に迷った場合には、指導教員や図書館員に相談したり、ジャーナル選択をサポートするサービスを利用したりしてみることをお勧めします。高額なAPCの問題はあるものの、OAは着実に広がってきています。著者がOA出版を積極的に利用でき、科学的知見の共有という恩恵が広く行き渡る環境が実現することが期待されます。

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