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同じジャーナルに2本以上の論文を投稿するのはNG?

とある学術雑誌(ジャーナル)編集部の話しです。編集部にとって、次々に新しい論文が投稿され、しかもそれぞれが優れているというのは嬉しいことです。ところが、ある著者がよく書けている論文を同時に4本投稿してきた場合、編集部としては、好意的に受け止めながらも、同じ著者の論文を1つの号にまとめて掲載するかどうかは悩ましいところです。編集部は悩んだ結果、まず2本の論文を掲載して、残りは後日掲載することとしました。著者はこの対応に満足し、さらなる研究を続けています。

学術出版界には、研究者なら誰もが恐れる “Publish-or-Perish(出版か死か)”と言われるほどの混乱とプレッシャーが存在しています。だからと言って、研究者は、すべての研究論文の投稿先を1つのジャーナルに絞るべきでしょうか?特定のジャーナルに絞って論文を投稿することは、学術的なキャリアに影響を与えるのでしょうか?投稿先を絞ることにメリットはあるのでしょうか?次の論文を投稿する前に、投稿先の問題について考えてみましょう。

複数論文の投稿はリジェクトを避けるための安易な手段か

若い研究者たちは、学術出版界で自分のキャリアを切り開こうとしています。研究論文の投稿先の選択肢はたくさんある中、ジャーナルを1誌に絞るべきでしょうか?この質問に対する答えは、研究分野、投稿先候補のジャーナル、個人の好みなど、多くの要因によって異なってきます。すべての研究論文を1つのジャーナルに掲載すれば、その雑誌の評判を高め、学術界における知名度を上げることにつながるかもしれません。とはいえ、その雑誌のインパクトファクターや読者層を考慮することも重要です。自分の研究を幅広い読者に届けたいのであれば、複数のジャーナルで出版するのが最善の選択かもしれません。最終的に、どこで出版するかは、安心感や出版しやすさだけでなく、自分自身や研究にとって何がベストかを考えた上で決めるべきでしょう。

同一著者からの複数の投稿を編集者はどのように考えるか

最近の動向として見られる同一著者が同じジャーナルに複数の論文を投稿する傾向について、ある有名な雑誌の編集部が話し合いを行いました。編集部の中でも複数論文の投稿が雑誌の品質低下を懸念する社員もいれば、単に著者が投稿システムをうまく利用しているにすぎないと考える社員もいて、意見は分かれました。

そこで編集者たちは、ジャーナルの読者にアンケートを取り、この問題に対する意見を聞くことにしました。その結果、大多数の読者が同一著者の複数の投稿によってジャーナルの質が低下していると感じていることが判明しました。そこで編集部は著者が1つのジャーナルに複数の同時投稿をすることを禁止するポリシーを導入することにしました。この決断は、この特定のジャーナルの読者で顕著に現れた結果の可能性もありますし、編集者や読者によっても意見は異なるでしょう。結局のところ、論文を発表するということは、読者に知識を広めることが重要な目的であり、出版することだけが目的ではないのです。

1つのジャーナルに複数の論文を投稿する理由

著者が複数の論文を1つのジャーナルに投稿する理由を挙げてみます。「数打ちゃ当たる」ではないですが、多数の論文を投稿すれば、1つぐらいは受理(アクセプト)されると期待するかもしれません。あるいは、投稿する際の手間を減らしたいという思惑もあるかもしれません。理由はどうあれ、複数の論文を投稿されるジャーナル側にすれば面倒な側面もあり、好意的に受け取られるとは限りません。著者自身が投稿先を熟考していないような論文を、編集者が読むのに時間を費やすべきだとは思わないでしょう。1つのジャーナルに複数の論文を投稿しようと考えている人は、もう一度、そのジャーナルが最適の投稿先なのかを考えてみてください。投稿先を絞ることが出版につながることよりも、むしろ出版のチャンスをつぶしてしまう可能性が高いかもしれません。

ただし、場合によっては、著者が編集者とすでに良好な関係を築いていて、自分の論文に公正な審査が行われると確信できることもあります。こういった場合は、複数の論文を投稿することで、論文が受理される可能性を高めることができる場合もあるでしょう。もちろん、著者がひとつのジャーナルに複数の論文を投稿する場合、投稿プロセスが1回で済むので、時間と労力の節約になります。複数の論文を1つのジャーナルに投稿することには利点もありますが、それでも各論文はそれぞれの良し悪しによって審査されることを心に留めておくことが大切です。そのため、論文を投稿する前に、それぞれの論文が最高の品質であることを確認しておく必要があります。

特定のジャーナルに複数の論文を投稿することは著者の評判に影響するのか

ケンブリッジ大学の研究チームが実施した最近の研究によって、著者が特定のジャーナルにのみ論文が掲載されている場合、研究者としての評判に影響することがわかりました。1つのジャーナルにしか発表していない研究者は、複数のジャーナルに発表している研究者よりも、他の研究者から論文を引用される可能性が低いことが明らかになっています。この研究の筆頭著者であるアリス・サリバン博士は、この調査結果は、1つのジャーナルにしか論文を発表しない研究者は、複数のジャーナルに論文を発表する人に比べて研究者としてのステータスが高い人物ではないという「シグナル」を自ら他の研究者に送っていることになると述べています。さらにサリバン博士は、この調査結果はジャーナルの評価方法にも影響を与える可能性があり、1つのジャーナルにしか発表しない研究者に対する「評価の偏り(バイアス)」につながる可能性があると述べています。ただし、1つの投稿先にしか発表しないことと、他の研究者からの論文の引用が少ないことの間には直接的な因果関係が見いだせなかったので、論文の投稿先を限定することが、直接的に研究者としての評価にマイナスの影響を与えるかどうかは、定かではありません。

著者が投稿した論文をジャーナルにリジェクトされてしまうことは学術出版ではよくあることです。著者はリジェクトされた論文を別のジャーナルに投稿し、それでも駄目ならまた別のジャーナルに―というように投稿先を変えていくことがあります。一方で、1つのジャーナルに複数の論文を投稿することもあります。なぜ、このようなことをするのでしょうか?

論文を出版する、つまりジャーナルに論文が掲載されることが、研究者としての評判に大きな影響を与えることは間違いありません。結局のところ、同じジャーナルに何度も掲載されれば、その雑誌の読者の目に留まるようになるのです。特定のジャーナルに投稿することは悪いことではありませんが、そのジャーナルにしか投稿していない場合は問題です。融通が利かないと思われる可能性がありますし、他のジャーナルでは出版できないのではないかと疑問視される可能性もあります。限られたジャーナルで発表するやり方でも確かに評価は上がりますが、研究者として幅広い能力があることを示すためにも、他のジャーナルでも論文を発表することが重要なのです。

全体的に見れば、複数の論文を1つのジャーナルに投稿することは、成功の可能性を高めたい著者にとって、有効な選択肢ともなりえます。その一方で、リスクがあることにも注意する必要があります。こうしたことを踏まえ、ジャーナルに2本以上論文を投稿する前に、その選択が自分にとってもっともメリットがある投稿の仕方であるかどうかを慎重に検討してください。

結論

研究論文を1つのジャーナルに投稿する方がいいのかとの問いに対する単純な答えはありません。もし、2本以上の論文を1つのジャーナルに投稿するかどうかを検討中ということは、自分の学術キャリアについて熟慮しているからでしょう。複数のジャーナルに投稿するにせよ、1つのジャーナルに複数投稿するにせよ、考慮すべき要素が多々ありますが、自身のキャリアにとって何が最適かを決めるのは、最終的には個々の研究者ですので、よく考えた上で決断してください。

投稿先のジャーナル検索や、投稿方法に疑問がある場合には、ジャーナル検索ツールや投稿をサポートしてくれる便利なサービスもあるので、活用してみるのもいいでしょう。さっそく論文の投稿先についての検討を始めてみてください。

エナゴの投稿支援サービス


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