adequateとappropriate
日本人学者の論文で形容詞「adequate」と「appropriate」が混同されることはしばしば見受けられます。誤用の中には、後者が適切なところで前者が用いられていることが特に多いです。「adequate」と「appropriate」は同義ではありません。両者間の違いを理解するために以下の正しい用例を考えればよいです。
(1) An iron(II) sulfate supplement is generally regarded as an appropriate treatment for iron deficiency anemia.
(2) For this patient, 1,200 mg daily of iron(II) sulfate was found to provide an adequate treatment for her intermittent iron deficiency anemia.
一般に、「appropriate」と「adequate」はそれぞれ定性的な意味と定量的な意味を表します。このような意味は上記の例文にも見られます。(1)では、硫酸鉄(II)を栄養補助剤として使用することは鉄欠乏性貧血に対して「適切」(「appropriate」)な治療法とみなされる、という意味が示されます。つまり、当該治療法には鉄欠乏性貧血への望ましい効果があるわけです。しかし、硫酸鉄(II)の使用される量については情報が示されていないため、そうした治療法が「十分」(つまり、「adequate」)なのかどうかについては何の意味も含まれません。一方、(2)では、ある特定した患者に適した服用量が示されているから、治療法の十分さについて判断する根拠があります。というわけで「adequate」が適切です。上記の用例で「appropriate」と「adequate」を互いに置き換えることはできません。
詳しくはグレン・パケット:『科学論文の英語用法百科〈第1編〉よく誤用される単語と表現』(京都大学学術出版会,2004)の第5章をご参照下さい。