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OA出版の論文掲載料の支払いは研究者だけの責任か?

もし、一般市民はおろか、政策決定者すら研究成果にアクセスできなければ、その研究が社会的インパクトをもたらすことを期待できるでしょうか。どのような研究であれ、有意な社会的インパクトを与えるためには、その研究成果を公開する必要があります。研究は、政策決定、技術の進歩、医療、教育、そして私たちを取り巻く世界に対する理解に影響を与えるものであり、世界と切っても切れない関係にあります。しかし、もし経済的な制約のために研究の大部分にアクセスできないままとなっていれば、研究の影響力は縮小されてしまうでしょう。

エナゴが最近実施した世界的な調査によると、研究者の82%が、自分の研究に誰もがアクセスできるようになることを望んでいることが明らかになりました。多くの人が研究成果にアクセスできるようになれば、気候変動や公衆衛生からテクノロジーや教育に至るさまざまな分野で一般市民が十分な情報に基づいた議論に参加できるようになります。しかし、79%の研究者は論文掲載料の高さからオープンアクセス(OA)プラットフォームでの出版に躊躇していることも示されています。学術研究と出版プロセスにおけるさまざまな利害関係者の 協調した取り組みがまだ十分ではないことが懸念されます。そして、OA出版のための資金獲得、つまり論文掲載料を支払う責任は誰が-研究者か研究機関か-負うべきなのかという問題も生じています。

研究者は、日々、実験を行い、データを分析し、飛躍的進歩を追求し続けています。多忙な研究生活の中で成果を出版するための費用を研究助成金の一部として申請していなかった場合、研究者は論文掲載料の支払いについても心配しなければならないのでしょうか。誰の責任となるのでしょう。

研究は、多大な献身と揺るぎない集中力を必要とする厳しい作業です。研究者は、プロジェクトの資金確保から実験計画の作成、データ分析に至るまで、責任を負うべき多数の作業を抱えています。大学など高等教育機関で学生を教育する立場にある場合、教育カリキュラムの組み立てや会議、学生のメンタリングなど研究以外の義務も発生することでしょう。この様に、研究者に課せられている苦難を考えれば、多くの研究者が論文掲載料について、または研究資金の申請方法や予算獲得のためのベストプラクティスについて学ぶために十分な時間を割けないのも無理はありません。しかしその結果として、OA出版の成功例に関する理解と認識にギャップが生じ、研究者と研究機関の双方に弊害をもたらしかねないのです。

知らないということの弊害を理解する

研究者たちは、研究成果の出版が非常に重要であると理解していますが、多くの場合、論文掲載料(それがOAジャーナルであろうとなかろうと)や学会参加費用などといったさまざまな出費を賄うために必要な助成金を確保するのに苦労しています。利用可能な助成金について知らないということは、研究者にとっての経済的なストレスや出版の遅れの原因となったり、さらには誰もが利用できる公有資産における価値ある研究を過小評価したりすることにつながる可能性もあります。

OA funds

(出典:590 名の研究者を対象に行ったエナゴ学術英語アカデミーによるアンケート調査 2022年)

研究者は厳しい作業スケジュールに追われ、利用可能な助成金について把握する機会が十分ではないのかもしれません。よって、助成金に関する認知度を高めるため、研究機関は研究者を教育し、支援していくべきなのです。

研究機関の責任

研究を行う責任は個々の科学者や研究者にある一方で、研究発表や論文出版が円滑に進められるようにする責任は研究機関と共有されるべきです。この円滑化の支援には、研究者の成功を確実にするために必要なインフラ、各種リソース、ガイダンスの提供などが含まれます。この観点から、研究機関は、研究者に出版のための助成金について教育し、研究内容を世に広めるためのリソースを提供するといった責任を有しています。以下に、論文出版のための助成金に関して研究機関が研究者をサポートできる点をリストアップします。

1.認知向上

研究機関は、研究者が出版や論文投稿に利用できるさまざまな助成金について認識を高められるように尽力すべきです。定期的なワークショップや説明会の開催、明確で簡潔なコミュニケーションなどを通して、教員や学生に出版のための助成金の存在や資格基準について積極的に周知する必要があります。

2.申請手続きの簡素化と標準化

研究者の負担を軽減するため、研究機関は出版助成金の申請手続きを簡素化すべきです。複雑な申請書式や不明瞭なガイドラインは、必要な資金援助を求める研究者の意欲をそいでしまうかもしれません。助成金申請の手続きを簡素化することで、研究者の心理的障壁を取り除き、助成金を有効に活用できると同時に、研究者は研究に集中できるようになるでしょう。

3.財政支援とインセンティブの提供

研究機関は、内部資金の活用や、外部団体や資金提供者との提携を通じて、研究者への財政的支援の提供を検討する必要があります。このような財政支援は、研究者の負担を軽減し、研究成果をより多くの人々に届けることにつながります。さらに、研究者が学術雑誌(ジャーナル)に研究成果を発表する意欲を高めるために、研究機関が功労賞や賞与などのインセンティブを提供することもできます。

4.メンターシップとガイダンスの提供

メンターシップとガイダンスは、学術環境をより良いものにします。研究機関は研究者にメンターシップ・プログラムを提供することにより、経験豊富な教員が若手研究者を指導し、論文掲載料の支払いを賄うための助成金の獲得も含め、出版プロセスをサポートすることができます。こうした取り組みは、研究者に力を与えるだけでなく、研究機関内の研究環境を強化することにつながるでしょう。

5.Read & Publish契約の推進

Read & Publish契約(移行契約あるいは転換契約とも呼ばれるモデル。ジャーナル購読料とOA出版料を一括で支払う契約)の締結を推進することによって、論文掲載料(APC)を引き下げ、学術研究へのアクセスを向上させることができれば、研究者の経済的負担は少なくなります。認知度を高めるため、研究機関では、ワークショップの開催や、有益なニュースの発信、コスト削減と研究普及の可能性拡大についてのオンラインオープンプラットフォームを活用した情報拡散などができるでしょう。こうした取り組みにより、研究者には十分な情報に基づく決定や、Read & Publish契約を活用した論文出版が可能になります。

役割の明確化が必要

Defining roles in publication funds

研究者は実験や論文発表・学術書籍の出版を行うだけでなく、教育、学生の指導、共同プロジェクトへの参加に携わることも多々あります。さらに、研究助成金を確保し、助成金申請に貢献し、自分の研究分野の最新動向を常に把握しておかなければなりません。
これらすべての責務を履行するには時間がかかるだけでなく、精神的にも大きな負担が伴います。そのため、研究機関の支援やガイダンスなしに、研究者が積極的に出版資金を探すことを期待するのは、非現実的な負担を増やすことになりかねません。出版資金獲得への支援を行い、研究者が、研究という本来の役割に専念できるようにするための情報を提供するのは、研究機関の責任と言えます。

突き詰めて言えば、研究者と所属機関が協力することで、論文掲載料の捻出を含む出版資金に関する意識向上において大きな変化を生む可能性があるということです。研究者は、出版資金の必要性や懸念を所属機関に伝えるよう奨励されるべきであり、研究機関は研究者の懸念を受け止めるべきです。研究者と研究機関の関係における透明性と開かれた対話は、より良い方針の策定と実践につながり、出版資金をより利用しやすくします。そして研究者はそれを確保するためのスキルを身につけることができるようになります。研究機関は、研究者に新たな責任を負わせるのではなく、研究者に力を与え、彼らの重要な研究を支援することができるでしょう。

グローバルな問題解決を目指すための大幅な変革の時代

気候変動や公衆衛生の危機的状態への対策を含む国連の17の持続可能な開発目標(SDGs)や、技術の進歩といった世界が直面している問題に目を向けると、透明性が高く、アクセスしやすく、インパクトのある研究の必要性が一層明らかになっています。研究者がその研究成果を政策立案者に効果的に伝えることができれば、政策立案者はその情報に基づいて私たちの社会の未来を形作るための意思決定を行えるのです。

研究機関は、研究者に力を与え、負担を軽減し、彼らの貴重な貢献がより多くの人々に届くようにすることができます。このような協力的な取り組みにより、研究者が本来の使命である科学の発展や知の探究に集中できる研究環境を整えることができるのです。

研究機関とは、研究者が所属する場であるだけでなく、そこで生み出された知識の保護者でもあるのです。

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