【芝浦工業大学】松日楽 信人 教授インタビュー(後編)
各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十一回目は、芝浦工業大学の松日楽信人教授にお話を伺いました。後編では、学生や若い研究者の英語力向上方法と、それをサポートする大学の役割についてお話くださいます。
■先生の研究室の学生さんや研究をされている方は英語で苦労されている様子はありますか。
芝浦工業大学はスーパーグローバル大学に選ばれたこともあって前から留学生が多かったのですが、さらに英語や国際的な人材育成に力を入れています。
学生は4年間のうち1回は必ず海外インターンシップ参加など、ぜひ参加しなさいという流れができています。TOEIC900点みたいな学生もいるのですが、ただもちろんみんながみんなそうではなくて、英語が苦手な学生もいますね。彼らは彼らなりにがんばっています。
僕の研究室にはブラジルからの留学生が3人いて、その人たちと英語で話しているようですね。いろんな意味で留学生がいるということはいいことだと思います。
大学全体の環境としても英語が学べる、英語を使ったり、書いたりする環境は増えていて充実しつつあるところです。
■このようにスーパーグローバルの大学に指定されている大学もありますが、通常の大学や大学院の中で学術英語に関する講義や授業を受けられる機会はなかなかないと思います。しかし研究して論文を投稿するには英語で書かなければならないという絶対的な条件がある中で、学生や若手の先生方は英語で論文を書く力をどのようにして鍛えていけばよいと思われますか。
難しい道ではあります。スーパーグローバルではなくても国際会議で発表させるというのは軸においています。予算にもよりますが、なるべく大学院生は1回海外に連れて行って発表させるという方針で進めています。
全学生がいきなり英語で提出論文を書けるとは限らないわけです、書ける人には全部頼みますし、書けない人にはある程度こちらでカバーして出します。その代わり、発表は必ず学生にやらせるので、内容を理解していないといけないし、発表のスライドも自分で作らないといけない。発表練習はしますし、受け答えは全部やらないといけないですから、そのような環境を作り上げることをサポートしています。海外に行って発表する前のプレゼン訓練もします。
■それは質疑応答などを含めてご指導されるのですか。
もちろんそうですね。大体発表の1カ月くらい前から週1、2回のペースで発表練習をします。話す練習と、スライドの内容、プレゼンの態度、そして指しながらの説明のしかたなど。
最後は質疑です。こういう質問が来たらどう答えるかなど。そういうところまで一応完結してやっておきます。そうしないと学生も不安ですから。
僕も様子を見ておかないといけないので、なるべく1カ月くらい前から訓練します。
■わかりました。国際会議に行った時によくパーティーがあり、海外の研究者とコミュニケーションをとったりネットワーキングをするという場もあるそうですがそういう場ではいかがですか。
国内の懇親会はあまり出ない学生も結構いますが、海外の懇親会は予算も一緒のこともあり、また夜の食事をどこでとらせるかもあるのでなるべく連れて行きます。
先月中国に連れて行った学生が、隣に中国の清華大のドクターの学生がいたので、少し話して情報交換をしていました。今度10月に日本に来ると言っていて、そしたら寄っていいよとか言っていました。学生もそういうところで少し話す機会があると、同じ学生同士で知り合えるので、友達になろうと思えばなれます。
■先生の場合、そのようなパーティーの場で積極的に声をかけたり、会話の輪に飛び込んでいくことはされますか。
バンケットという懇親会ですが、丸テーブルに着きますよね。大体知り合い同士で座るケースが多いのですが、同じテーブルに着いたその他の人たちとは挨拶します。どういう人が同じテーブルに着くかは全くわからないわけですが、着いたらその方々となるべく話します。
そのような場が大切です。研究仲間を作ったりすると面白いと思いますね。
■では日本人の研究者が英語力を鍛えるためにはどうするのが一番よいと思いますか。例えば英語塾に通ったり、留学するのが一番早いとか、研究室に外国人の学生を入れるとかいろいろあると思いますが、先生のご経験で一番効果があったことを教えていただきたいのですが。
英語に接する機会を増やしてあげるのが一番いいのではないかと思います。今までも海外発表に連れて行って帰って来ると、もっと英語をやらなければだめだと思ったとは言いますが、フォローしてみると、その後やっていないで終わってしまっているようです。(笑)。
とはいえその時は英語を勉強したいという気持ちが増しているのは確かなので、だから海外に行く機会をこうしてもう1回増やしてあげると、次の発表までは勉強しようという気持ちになるのではないかと思いますね。
1回きりでは、もう次には機会がないだろうと思ってしまうので、せっかくの勉強しなければという気持ちのが続かないのでしょう。
あとは、研究室に英語圏の学生を連れて来るのが若者同士だからスムーズですね。でもあまり勉強にはならないのかな。むしろ英語でゼミをやる方がいいのかもしれないです。
毎回英語でやると言ったらそれで来なくなる学生もいないとは言えないですよね。それも困るので、 英語 そのものを好きになってもらうような努力がいいと思います。
海外発表に1回行ったきりではなくて、2回目のチャンスをあげる環境づくりが大事だと思います。
■ちなみに芝浦工業大学では授業は英語でやるという方針はありますか。
英語でやる授業というのは決まっていて、僕も2つくらい英語でやっています。
留学生がいればいいのですが日本人の学生ばかりで英語でやっていると、教える内容のレベルが下がったりしますね。
留学生がいて、専門科目を全部きちんと教えるというよりは、今も試していますが、ゼミ形式の日や、いろいろなテーマを決めて討論する中で留学生と一緒にグループワークのようにするといいのかなと思います。
初めての海外発表に行く学生にとって、学会発表は未知の世界ですから、行く前はどうしても勝手がわからないようです。でもたいがい行くとすごく良かったということになります。
だからなるべくチャンスを与えてあげたいな。
■わかりました。では、私どものような英文添削やそのようなサービスを行っている会社が、今後どのような新しいサービスを作っていけば助かるか、お教えいただけますか。
Skypeのように話すことができたら、校正結果を確認できていいなと思います。
直接、校正内容をその場で確認して質問するというサービスが安くできると(笑)。
それがオプションで高くなっちゃうとなかなか難しいかもしれないですけどね。
文字だけだとわからない情報を口頭で聞けるというのは嬉しいな。
また、何回か利用すると少し安くなるとか、そういうサービスがあるとまたまた嬉しい(笑)。
■ありがとうございます。最後に、若手の研究者の方に、このようなチャレンジをした方がよいというアドバイスがありましたらお聞かせ下さい。
研究としては新しいことにどんどんチャレンジして欲しいし、海外の学会に積極的に参加して仲間を作り、自分の英語力をブラッシュアップして欲しいと思います。
■どうもありがとうございました。
【プロフィール】
松日楽 信人(まつひら のぶと)
芝浦工業大学 工学部 機械機能工学科 教授
1982年-2007年東京工業大学理工学研究科大学院修士課程修了
1982年-2007年東京芝浦電気株式会社(現 株式会社東芝)入社
2004-2007年 東京工業大学21世紀COE特任教授
2005‐2008年 総合科学技術会議科学技術連携施策群次世代ロボット連携群
2011年-2007年芝浦工業大学工学部機械機能工学科教授(~現在)