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【寄稿記事】生成AIがあれば、人間による英文校正は必要ないのか?

今回は、バイアスのない公平かつプロフェッショナルな視点で生成AI登場後の英文校正の必然性というテーマを考えるため、水本篤教授(関西大学 外国語学部・外国語教育学研究科 教授)にご寄稿をいただきました。水本教授のプロフィールは記事の末尾からご覧いただけます。


私は外国語教育(特に英語教育)を専門とする研究者です。テキストを大量に収集し、データベース化した言語資料「コーパス」を用いた教育が研究テーマです。これまでに、英語論文執筆サポートツール(https://langtest.jp/awsum/)を開発したり、多様な分野の研究者に対して、コーパスを活用した英語論文執筆のテクニックを教えるワークショップやセミナーを実施してきました。

他の分野で活躍する研究者と交流する中で、多くの方が「英語論文の執筆にかかる時間を減らし、研究内容に専念したい。しかし、英語で論文を書くと大量の時間が必要で困っている」と口を揃えて言います。実際に、英語が母国語でない研究者が研究を行う際、英語は大きな障壁となることが Amano et al. (2023) によって数値で示されています。

自分自身の例でいうと、英語教育に関する研究を長年行っており、英語で論文を書くことも継続しているため、自分自身の専門知識と英語の運用能力は高いと自負しています。しかし、英語で論文を書くたびに、伝えたいことが完全には伝わっていないと感じ、これがいつまでもつらいのです。

今回は、「生成AIがあれば、人間による英文校正は必要ないのか?」という疑問について、言語教育の専門家として考察します。一部の人々は、「生成AIが存在する現在、人間による英文校正は不要だ」と極言しています。その結果、生成AIの学術論文執筆への適用に関する情報には非対称性が存在し、「真実は何かわからない」と感じている方も多いでしょう。

まず、「生成AIがあれば、人間による英文校正は必要ないのか?」に対する私の答えは「Yes and No」です。専門分野の英語論文を多数執筆してきた方で、自分の分野の論文の英語表現に自信を持っている方は、生成AIを使った英文校正でも十分に論文を完成させられるでしょう。英文校正会社に原稿のチェックを依頼すると、高価であったり、納期まで数日必要だったり、校正の品質が不均一であったりする問題があります。しかし、専門知識が豊富で、かつ英語運用能力が高い方にとっては、これらの問題を考慮する必要がありません。

一方で、専門分野の知識が限られているか、英語運用能力があまり高くないと感じる方には、生成AIはそれほど有益なツールとは言えません。そういった方々は、一定のレベルに達するまで人間による英文校正を受けるべきです。生成AIはユーザーの能力を拡張するツールである一方で、ユーザーの基本的な能力が低い場合、校正された英文が正確かどうかの判断がそもそも難しく、その効果は限定的です。

具体的な例として、ある研究者が執筆した英語論文を私が校正する際、語彙や文法は正確であったが、意味が不明瞭であるというケースがありました。本人によれば、ChatGPTやDeepLのようなツールを使用していたものの、日本語で考えた内容をそのまま英語に翻訳していたため、意味の矛盾が生じていました。この例からも、英文が評価可能なレベルに達していない限り、どんなツールを使っても高品質な英語論文は執筆できないと言えます。

今回のエッセイ執筆にあたり、先日出版した論文(Mizumoto, 2023)をエナゴの英文校正サービスでチェックしてもらいました。論文は2023年9月に出版され、生成AIを使って何度も校正を行った上で出版したものなのですが、英文校正サービスを受けた結果、確かに読みやすくなったと感じました。ChatGPTには語数制限があるため、長い文章を一度に校正することはできませんが、人間による校正では全体のバランスを考慮してくれます。また、ジャーナルの投稿規定に合わせたフォーマット調整など、細かい点でもプロの仕事ぶりを感じました。このように踏み込んだ校正が必要な場合、人間によるチェックが有用です。(参考:人間対AI:ChatGPTの英文校正の限界

それでも、人間による校正では、不明瞭な表現に対して質問をされることもあり、そのやり取りには時間がかかる場合があります。また、微妙な単語やフレーズの変更(例:through の代わりに via の使用)がされることもあり、その意図がすぐには明らかでない場合もあります。この点では、ChatGPTがすぐに回答を提供してくれるため、便利だと感じました。

ChatGPTのような生成AIの出現によって、自分が書いた論文中の英語表現が適切かをあまり心配せずに、研究の内容自体にフォーカスできるようになってきています。これは、これまでになかったレベルのサポートであり、英語で論文を書くときのハードルは確実に下がっています。これから研究で世界を相手に戦っていくことを志している研究者の皆さんは、専門知識と英語運用能力自体を高めつつ、ぜひ生成AIを活用して、英語論文をたくさん書いてください。まだ生成AIのみで論文を完成させる自信がないという方は、「生成AIを使用して英語のミスは無いように執筆しました。アクセプトされるように内容に踏み込んで英文の校正をお願いします」と、英文校正会社に依頼するときには伝えてもいいのではないでしょうか。きっと、更に良い論文に仕上がることと思います。

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