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人間対AI:ChatGPTの英文校正の限界

話題の人工知能チャットボット、ChatGPTは質問に答えることやテキストを生成することに加えて、文章のスペルや文法のミスを検出・修正できます。しかし、ChatGPTを英文校正に利用する限界を知っておくことは重要です。本稿では、ChatGPTでは対応が難しいポイントを洗い出し、人間の校正者との比較を通してChatGPTによる英文校正の限界を探っていきます。

ChatGPTが識別・判断できない点

1- 引用と参考文献の表記方法

論文中に記載する出典の確認、引用や参考文献が適切に表記されているかの確認と統一は時間のかかる面倒な作業ですが、ChatGPTは学術的な記載の適正を判断することはできません。

2- 情報の新旧と重要性

ChatGPTは、インターネット上に公開されている大量のテキストデータを学習し、自然言語処理技術を使用して前処理したデータを出力します。しかし、膨大なデータから情報の新旧を判断し最先端の研究に関連する情報だけを選択的に抽出する機能はなく、その情報の重要性を判断することもできません。

3- 情報の信憑性と使用の権利

上述のようにChatGPTはインターネット上で公開されている情報から学習していますが、その情報が不正に入手された情報でないかやその情報の信憑性は考慮されません。AIが利用しているデータには信頼できない情報も含まれている可能性があるので、その出力情報も見極める必要があります。

4- 専門用語、分野特有の表現

言語処理技術は日々進歩していますが、専門用語や分野特有の用語や表現も増え続けており、全てを掌握することは困難です。それぞれの分野特有のルールや、使用されるスタイルやトーンなどを理解していないと、見落としや誤って書き換えてしまう恐れがあるので、注意が必要です。

この他にも、ChatGPTには著者の文章の根本的な意図を汲むことはできないといった限界があることを忘れてはいけません。ChatGPTは機械的に処理を行うものなので、校正に使用した場合、個性のない平坦な文書に変えてしまいがちです。研究者自身の経験に基づく知見や個性が薄れてしまうことも懸念されます。

ChatGPTで学術論文、特にジャーナルに投稿予定の論文の校正・編集を行うのであれば、どのような点に注意しなければならないか、どのような点は人間の校正者に依頼すべきかを理解しておくことが大切です。以下に、ChatGPTと人間の校正者による英文校正の比較例を示し、ChatGPTによる間違いを解説します。

例1

原文

ChatGPTによる校正

人間による校正

間違いの解説

ChatGPTは、「DNP」という略語を「糖尿病性腎症」ではなくアミノ酸と誤認し、文中に重大な意味の変化をもたらしてしまっています。一方、人間による校正では、文意を変えることなく、分野特有の用語を正しく理解した上で校正しています。

例2

原文

ChatGPTによる校正

人間による校正

間違いの解説:

ChatGPTはテキストをほぼ書き直し、元の文章に存在しなかった新しい内容を追加しているので、著者が記した文章からは大幅に変わってしまっています。冗長な情報の加筆は著者の意図を変えてしまう可能性があります。一方、人間による校正は、余分な文章を加えることなく、著者の声をそのままに、正しい情報を伝えるように英文を校正しています。

研究成果は正しい形で伝える必要がある

研究論文は、その主旨が正確に伝わるような記載になっていなければなりません。信頼性を損なうような加筆は行うべきではないのです。

ChatGPTはネット上の公開情報から学習して文章を作成・修正するため、バイアスを鵜呑みにして論文の内容に偏った記載を加えたり、文脈を変えてしまう恐れも捨てきれません。ChatGPTが社会的な既成概念やバイアスを強めてしまい、本来の論文の主旨とは異なる部分が強調されてしまう可能性があることにも留意しておく必要があります。確かに、ChatGPTは瞬時にテキストを生成・修正したりできる上に、無料で使用できる範囲も多く、今後その性能が向上していく可能性は大いにあります。しかし、“効率が良い”、“無料で利用できる”といった理由で研究者としてのキャリアに悪影響を及ぼしてしまうのでは本末転倒です。

結論から言えば、現時点でAIが人間の英文校正者と同等のレベルの校正を行えるとは考えられません。ここからは、学術論文の執筆および校正作業におけるAIツールと人間の比較を進めていきますが、まず、人間にしかできない作業を挙げてみます。これらの作業は、ChatGPTのような高度な言語処理が可能なAIツールでも理解および対処が難しいものです。

A. 文意の理解

人間の校正者は、その知識と経験から、言葉の背後にある意図された意味を理解し、それに応じて変更を加えることができます。これにより、文法的に正しいだけでなく、意図したメッセージを正確に伝えることができます。

B. 微妙なニュアンスの理解

文章のトーンやスタイルなどの微妙なニュアンスをChatGPTや他のAIツールが理解することは困難です。人間の校正者は、経験と前後の文章などから、微妙なニュアンスも理解し、自然な流れで、読者に理解しやすい文章にすることができます。ニュアンスの理解は、トーンやスタイルが文章全体の印象に大きく影響するようなクリエイティブ・ライティングにおいて特に重要です。

C. 創造的な問題解決

マーケティングや広告などの特定の業界では、創造的な問題解決が求められることもあります。機械的に見れば問題のない部分でも、人間の校正者であれば、ブランドメッセージの矛盾やコミュニケーションの不明確さなどを特定し、修正することが可能です。さらに校正者は、読者を念頭に置き、より魅力的でインパクトのあるコピーに書き換えるなど、問題に対するクリエイティブな解決策を提案することができます。

 

ChatGPTでは見落とされがちな学術論文において重要な要素

 A. 剽窃・盗用の検出

剽窃・盗用は、論文の研究インテグリティを損ない、原稿のリジェクトだけでなく、信用を失墜し、最悪の場合、法的に罰せられるなど深刻な結果を招きかねない研究倫理上の深刻な問題です。ChatGPTは、テキストを他のソースと比較してその類似性や剽窃・盗用であるかをチェックする機能を備えていません。剽窃・盗用を検出し、適切な修正を行うには、引用表記が適正に行われているかを人間の目で確認するのと合わせて専用のツールを利用するなどの対策が必要です。

ChatGPTは、大量のテキストデータの統計的パターンからテキストを生成するため、過度に依存して文章の校正・編集をしてしまうと、意図せず剽窃・盗用となってしまう危険性があります。これは、その論文の執筆者、研究者だけでなく、所属する機関の評判にも関わる深刻な事態を招きかねません。

したがって、ChatGPTを英文校正に使用する際には、手動チェック、剽窃・盗用チェックツールの使用、適切な引用と帰属の確認などで補完することが必須です。ChatGPTは、テキストの作成や編集、質の向上に役立つツールですが、研究論文の完全性を確保する唯一の手段として頼るべきではありません。

B. 文脈の理解

ChatGPTをはじめとするAIツールは、文法やスペルミスを識別することができますが、テキストの文脈を理解しているとは限りません。例えば、AIツールは、”their” と “there” のような同音異義語の意図する意味を認識できない場合があります。AIは両方の単語のスペルを識別できても、文脈の違いを認識できない可能性があり、その結果、誤った、あるいは不適切な校正提案をすることになります。

C. データセットへの依存

ChatGPTなどのAIツールは、その精度を高め、テキスト生成および編集能力を向上させるために、膨大なデータセットを必要としています。AIテキストエディターの学習に使用されるデータセットは多様ですが、データの品質および信頼性とは関係なくツールのアウトプットに大きな影響を与えるものであるため、ChatGPTを校正に利用した場合には、その編集提案が元のテキストの意図した意味やトーンに沿っているか、そのニュアンスはつかめているか、誤った情報が混入していないかなど、人間による確認が必要となります。

ChatGPTと人間の校正者との比較

A.文脈に沿った適切な校正

ChatGPTは、迅速なテキスト生成・校正、一貫性のある機械処理、およびスケーラビリティ(処理量)において大いに役立つツールですが、校正に利用するとなると、言語や文脈のニュアンスを理解できない、誤った情報にも基づく修正提案や無関係なテキストの挿入提案など、AIツールの特性に起因する処理による限界があります。一方、人間の校正者は、文脈を理解し、言語の微妙なニュアンスを察知し、トーンや意図に基づいて判断する能力を有しているので、全体を見ながらの校正が可能という強みがあります。また、人間の校正者は校正プロセスに創造性と柔軟性を発揮し、文章の書かれた目的および特定のニーズに基づいて適応することができます。

人間の校正者は文脈を理解し、意味を解釈する優れた能力を持っていますが、これはChatGPTや他のAIツールでは再現できないスキルです。ChatGPTを含むAIツールは、膨大なデータベースや言語パターンにアクセスできるかもしれませんが、与えられたテキストの背後にある意味を理解することは根本的にできません。しかし人間の校正者であれば、文章の文脈、意図する読者、伝えられているメッセージの根底にあるものを理解することができます。そのため、文法に則って文章を校正するだけでなく、一貫性のある意味深い文章を作成することができるのです。

研究者は、自分の学術研究の成果が、ひとりでも多くの研究者に参照・引用されるように、誤りのない、高品質な論文に仕上げなければなりません。そのためには、効率を優先しすぎて内容に不備が出てしまうより、じっくり校正を行うことが良い結果に結びつくこととなるでしょう。

B. テキストの種類や文脈により英文校正を適応させる(適応力)

テキストの種類や文脈によって求められる要素が異なります。研究論文や学術文章では、効果的なコミュニケーションや知識の伝達に不可欠な、高度な正確さ、明確さ、一貫性が求められます。ChatGPTは、研究論文、技術マニュアル、法律文書など、一貫性と正確性が不可欠な文章の校正に適している部分もありますが、それだけでは十分ではありません。人間のみが有している能力のひとつが柔軟な適応力です。AIツールは、異なるライティングスタイルに合わせて提案を調整する能力をある程度持っているかもしれませんが、人間の校正者が持っている柔軟性や微妙な判断が必要な場合への適応力には劣っています。人間の校正者は、扱う文書がフォーマルかインフォーマルか、技術的かクリエイティブかなど、ジャーナルやクライアントの特定の要件に合わせて編集スタイルを調整することができます。あらかじめプログラムされたルールに従うだけでなく、著者の文体やスタイル、読者に基づいて対応することができるのです。

研究者はChatGPTを使用して原稿の初期校正を行い、その後、人間による校正(修正と編集)を行うことでさらに洗練された論文に仕上げることができます。繰り返しになりますが、ChatGPTだけで校正を終わらせてしまうと、文脈の解釈や記載事項の判断を必要とするような場合や、学術ライティングには適していない文章の混入があった場合などへの対応が抜け落ちてしまう可能性があるので注意する必要があります。AIと人間の異なる特性を活かすことが最善策です。例えば、文学や人文科学の研究では、複雑な文章の解釈や分析が不可欠であるため、人間の校正者による校正・編集がより適しているでしょう。同様に、研究者によるデータの解釈が重要な質的研究においては、研究結果のニュアンスや複雑さを表現するために、人間による校正・編集がより適切と言えるかもしれません。

さらに、クリエイティブな文章や主観的な文章など、文章のトーンや意図が重要視されるあらゆるタイプの文章には、人間による校正・編集が適しています。トーンやスタイルだけでなく、特に論文などの学術文章の場合、内容の正確性と裏付けのある文章であることを保証することがとても重要です。そのためには、ファクトチェック、出典・引用の確認、文章中の論旨が論理的できちんと構成されていることの確認が必要です。人間の校正者は、論文の執筆者の主張が明確で一貫性があり、厳密な証拠によって裏付けられていることを確認することができるだけでなく、データや文献レビューの確認、著者の研究課題と方法論を効果的に表現するためのサポートまで可能です。

人間の校正者とChatGPTの特性の違いを以下にまとめました。

こうした特性の違いを踏まえて両者による英文校正を比較してみると、その違いがより明確になるでしょう。

人間の校正とChatGPTによる校正の比較例

比較結果から見えたこと

学術文書の英文校正において、人間の校正者とChatGPTのどちらを選択するかと問われれば、もちろん、人間の校正者です。上に挙げたような要素を慎重に比較検討した結果、ChatGPTよりも人間の校正者の方が、学術論文の校正に不可欠な要素により多く対応できることは明らかです。しかも、信頼性が高いことは学術論文の発表・出版において欠かせません。また、AIは読者を意識して、表現を変えたり、文章を再構成したり、ターゲットとする読者に合わせて口調やトーンを細やかに調整することはできません。個々の著者の個性を守りながら、読者に分りやすいように建設的な提案を行うというような作業は、複雑な思考プロセスと独自の視点を持つ人間の校正者でなければ不可能です。

最後に付け加えておきたいのは、人間の校正者は、著者に貴重なフィードバックや洞察を提供することができるという点です。ChatGPTや他のAIツールは修正提案を出すことはできても、人間の校正者のように個々の著者に合わせたフィードバックやアドバイスを提供することはできません。人間の校正者は建設的な批評を行い、その理由を明らかにし、文章を改善するためのアドバイスを提供するだけでなく、学術出版に関する洞察や、言語使用の傾向など、学術出版業界での経験や知見に基づく有用なヒントを著者に提供することも可能です。

ChatGPTなどのAIツールは、一定のメリットがありますが、学術論文の英文校正においては人間の校正者に匹敵するものではありません。言語が複雑で微妙なニュアンスを持つコミュニケーションツールである限り、人間の校正者は、学術論文を最高の品質にするために重要な役割を果たし続けるでしょう。


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