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アジアの科学研究が熱い!

アジア の大学が注目されています。中国は、論文発表数で米国を抜いたことなどが話題になっていますが、他のアジア各国の大学も各種の世界大学ランキングの上位にランクインするなど、負けていません。アジアの中でも特に東アジアの5つの国・地域(シンガポール、香港、マレーシア、韓国、台湾)は、アジア地域における科学研究の拠点として存在感を増しています。これらの国・地域、世界が注目する地域には、どんな特徴があるのでしょうか。

■ 研究開発費の増加と比例するように伸びる論文発表数

いきなり現実的な話ですが、研究開発には資金が不可欠です。アジア各国で科学研究への投資が幅広い研究活動を後押しするとともに、成長の原動力となっています。中でも科学技術研究への投資の増加率が突出しているのは、韓国。なんと2016年にはGDPの4.24%にまで達しています。数年前から下降線をたどる日本が3.14%。米国は横ばいの2.74%、増加中の中国が2.12%となっているのと比較すると、その増加ぶりが際立っています。続いて目立っているのが台湾(3.16%)。こちらも順調に増加しており、中国だけでなく米国、日本、EU(1.94%)も抜かれています。

韓国が潤沢な研究資金のもとで進める研究の成果は、論文発表数の増加となって表れており、2018年6月のNature (Volume 558 Number 7711)の特集によると、世界最大級の引用文献データベースScopusの2017年のデータから見る韓国の論文発表数は、65,000本。中国(同年の論文発表数414,000本)にはおよびませんが、数年で日本(89,000本)に追いつきそうな勢いです。少なくともこの10年間、韓国の論文発表数はずっと右肩上がりに伸びています。発表数だけではありません。世界平均を大幅に上回る引用数を正視化した公開論文の引用インパクト(Citation Impact)を見ても、シンガポールと香港の平均値はイギリスおよびアメリカの数値を上回っており、韓国はほぼ世界平均と同等。台湾も若干ですが世界平均を上回っています。これらの研究拠点では、研究への投資とさまざまな強化策のもと、幅広い分野の研究が行われていることがうかがえます。

■ アジア大学ランキングのトップ20

2018年2月に発表されたイギリスの教育専門誌タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)が発表した「THEアジア大学ランキング」のトップはシンガポール国立大学でした。トップ20に入っている国・地域は、中国7大学、韓国5大学、香港5大学、シンガポール2大学、日本2大学(同位タイがあるので21校)。中国の大学が急速に台頭する中、韓国の大学もその地位を高めています。シンガポールと日本の数は同じですが、シンガポールの大学の順位が1位と5位なのに対し、日本は東大の8位、京大の11位となっています。シンガポール国立大学は3年連続のトップ。一方の東大の8位は、昨年から一つ順位を落としており、2013年の発表開始以来最低の順位。2013年から3年は連続首位だったのに、直近3年間は7位から8位と低迷しており、躍進する他のアジアの大学にポジションを奪われたままです。2018年のランキングは、アジア25ヶ国、上位350大学を得点付けした結果となっており、最も多くの大学がランクインしたのは日本(89校)ですが、中国(63校)も着実に数を増やしています。中国および他の国・地域の大学が順位を上げてくる中、日本の大学はアジアの競争を勝ち抜くための策が必要です。文部科学省が2014年から実施している「スーパーグローバル大学創成支援事業」や指定国立大学法人制度などの施策が、日本の大学の評価回復・向上に役立つことが期待されます。このスーパーグローバル大学には、37校が採択されていますが、この中の27校が「THEアジア大学ランキング2018」にランクインしていることからも、それぞれの大学が特徴を生かした独自の取り組みを行っていることの効果が出ていると察せられます。

■ 科学研究が地域のニーズに対する取り組みをサポート

アジアの大学ランキング20位までにはランクインしませんでしたが、マレーシアには専門分野に特化した技術大学が多くあり、その技術は世界の中でも高く評価されています。マレーシアの大学としては最高位となったマラヤ大学は、1949年にマレーシア初の国立大学として誕生しました。東南アジア研究、メディア研究、イスラム教やマレー文化の専門学部といった、国立大学ならではの専攻分野があり、授業が英語、マレー語、中国語で受けられるということで、留学生の割合が多いようです。「THEアジア大学ランキング2018」のランキングでは、前年59位から13ランク上げて46位。マレーシアは、タイとインドネシアに挟まれた半島と島々から成る国ですが、1970年代に、国の経済基盤を安価な製品(ブリキ、ゴムなど)の生産から価値の高い消費財(天然ガス、パーム油など)の生産に切り替え始めました。それにともなう産業の発展に応用科学が用いられたのです。今日、マレーシアの主要な輸出品は、電子部品、石油製品、石油化学製品、機械製品、食材などとなっており、科学技術が国の経済成長戦略の中心となっています。マレーシアの場合、経済の変動が科学研究を促進することになったのです。もうひとつ、マレーシアで特徴的なのは女性研究者の割合です。ほぼ半分の研究者が女性だというのですから驚きです。その上、マレーシアの研究者にはイスラム教徒が多く、ハラル認証(イスラム教徒のための製品に付けられる認証)のとれる食材や医薬品、化粧品などの開発に貢献しています。世界のハラル市場は2016年、2兆USドル規模となっているので、マレーシアでは地域の特性に関連する科学研究の発展が経済成長につながっていると言えます。

同様のことがシンガポールや韓国、台湾でも見られ、電気事業、物理、材料科学などの応用科学研究における長期戦略がGDPを押し上げるのに一役を担っています。例えば、シンガポール政府は、ヘルスケア、医学生物科学のような国が優先させる政策に関連する研究に対する投資を行っています。香港では、アジアで発生する鳥インフルエンザやSARS(重症急性呼吸器症候群)などの新興感染症の研究が進んでいます。感染症への対策が必須であることはもちろんですが、香港がアジアから世界に広がる感染症の”交差路“であることが、研究を行う”地の利“となっているのです。

 

このように、経済活動あるいは地域社会のニーズに取り組む研究が成功を収めていることも、大学ランク(研究力)の底上げにつながっていると考えられます。国・地域の特色に根ざした研究が活性化すれば、自国の研究者の活動を促進するだけでなく、他国から優秀な研究者を呼び込むこともできます。これら東アジアの5つの国・地域は、どこも大国ではありません。科学研究の発展につながった社会的背景や歴史、取り組み方は異なりますが、その国または地域が、そのコンパクトさを生かして経済的需要や社会的な特性に適合する科学研究に集中し、積極的な投資および研究活動の支援を行うことが、結果として科学研究レベルを押し上げ、研究を実践する大学の地位および評価が高まる結果につながっているのです。経済成長だけではなく、科学研究に関してもアジアから目が離せません。

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