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記述的研究の攻略法

記述的研究(descriptive study)は、特定の集団や現象に関する情報を収集するために使用する強力な研究手法です。記述的研究とは、研究対象の「理由」に焦点を当てるのではなく、現象を説明することに終始する比較対象群をおかない調査研究の方法です。具体的には、症例報告やケースシリーズなどがこれに相当します。記述的研究の根幹である観察とデータ収集は、研究の主題の特徴や行動についてより深く、詳細に理解するのに役立ち、後続の研究のためにも貴重な洞察を提供します。

この記事では、記述的研究の定義、特徴、方法を踏まえ、質の高い研究成果を出すために避けるべき7つの失敗の攻略法を紹介します。経験豊富な研究者であれ、これから研究に取り組む学生であれ、科学研究を成功させるためには記述的研究の基本を理解することが不可欠です。

記述的研究とは

記述的研究とは、特定の現象の因果関係、つまり「理由」に焦点を当てるのではなく、与えられたテーマについて観察、データ収集を行うものです。記述的研究の目的は、研究対象の母集団や現象の特性を包括的かつ正確に把握し、データ内に存在する関係性、パターン、傾向を説明することです。

記述的研究の方法には、調査研究、観察研究、ケーススタディ研究(症例研究)などがあり、収集されるデータは質的・量的に関わらず多岐にわたります。記述的研究から得られた知見は、貴重な洞察を与え、将来の研究に役立てられますが、特定の現象が生じる因果関係を立証するものではありません。

記述的研究の重要性

1.母集団や現象の特性の理解

記述的研究は、特定の母集団や現象の特性や行動を包括的に把握することができるので、研究者はそのテーマについてより深く理解することができます。

2.基本的情報の入手

記述的研究によって集められたデータは研究の基礎となり、さらなる研究につながります。

3.情報提供(収集されたデータの活用)

特定のテーマに関する貴重な情報源となるため、将来の研究、政策決定、研究プログラムなどに洞察を提供し、広く役立てることができます。

4.多様なサンプリング方法の検証

記述的研究では、さまざまなサンプリング方法を検証し、研究に最適なアプローチを決定するために使用することができます。

5.費用対効果

記述的研究は、他の研究手法に比べて費用や時間がかからないことが多く、費用対効果の高い研究を行うことが可能です。

6.再現性の高さ

記述的研究は再現性が高いため、複数のソースから情報を収集し、比較するための信頼できる方法です。

記述的研究の主な特徴

1.目的

記述的研究の主な目的は、特定の母集団や現象の特徴、行動、属性を説明することです。

2.参加者とサンプリング

研究対象となるより大きな集団を代表する特定の集団またはサンプルを研究します。サンプリング方法には、便宜的サンプリング、層別(層化)サンプリング、ランダムサンプリングがあります。

3.データ収集の手法

調査、観察研究、ケーススタディ(事例研究)、フォーカス・グループなどの手法により、質的・量的データの収集が行われるのが一般的です。

4.データ分析

収集したデータを、データのパターン、関係性、および傾向を特定するために分析します。度数分布や記述統計などの統計的手法を使ってデータを要約し、説明するのが一般的です。

5.説明に焦点を当てる

記述的研究は、特定の集団や現象の特性を説明し、要約することに焦点を置いて行われます。因果関係を推論するものではありません。

6.非実験的

記述的研究は、非実験的研究(non-experimental study)とも呼ばれます。研究者が変数を制御したり、条件を割り当てたりすることなく、研究対象である集団や現象の特性について、ただ観察し、データを収集し、説明するものです。

これらの特徴から、

  • 特定の集団や現象を理解したい
  • 変数間の関係性を説明したい
  • データのパターンやトレンドを説明したい
  • サンプリング方法を検証し、研究に最適なアプローチを決めたい
  • 複数のデータソースから得られたデータを比較したい

といった場合には、記述的研究を行うことが有用だと言えます。

記述的研究を採用すべきとき

記述的研究は、以下のような目的のために有用です。

  • 特定の集団や現象の特性をよりよく理解する
  • 変数間の関係性を説明する
  • パターンやトレンドを説明する
  • サンプリング方法を検証し、研究に最適なアプローチを決定する
  • 複数のデータソースから得られたデータを比較する

記述的研究の方法

記述的研究の方法としては以下が挙げられます。

1.調査研究

調査研究は、記述的研究のひとつで、記入式アンケートや面接官によるインタビューなどを通じてデータを収集するものです。回答を収集する方法には、郵送、対面、オンラインとさまざまな方法があり、質的・量的なデータを収集することができます。

2.観察研究

観察研究は、定量的・定性的観察のいずれも行うことができます。変数を制御したり条件を割り当てたりすることなく、特定の集団や現象の特性を観察してデータを収集します。調査実施状況としては、回答者にとって自然な環境でも、管理下にある環境でも行うことができます。

3.ケーススタディ研究(事例研究)

ケーススタディ研究は、個人、グループ、または事象(出来事)に焦点を当てた記述的研究のひとつで、特定の事例について深く理解することができます。インタビューや観察、資料の調査など、さまざまな手法で対象者あるいは事象の詳細な情報を収集することが必要です。

4.フォーカス・グループ研究

フォーカス・グループ研究では、少人数のグループで特定のテーマや製品について話し合いをしてもらうことでデータを収集します。研究者が進行役としてフォーカス・グループでの議論を進め、後で分析するために議論の内容を記録しておきます。

5.エスノグラフィー

エスノグラフィーは、特定の文化やコミュニティについて詳細な観察を行うもので、文化を共有するグループについて記述し、解釈することに焦点を置いた研究方法です。特定の集団の考え、行動、慣習を深く理解するためによく利用されます。

記述的研究のメリット

1.包括的な理解を提供する

記述的研究は、特定の集団や現象の特徴、行動、属性を包括的に把握することができ、将来の研究や政策決定に役立てることができます。

2.非実験的な研究であること

記述的研究は、非実験的研究または非比較研究とも呼ばれるように、介入や比較などを行わずにデータの記述のみにとどまる研究です。変数の制御や条件の割り当てを行わないため、デリケートな問題や倫理的な問題に適した研究方法といえます。

3.柔軟性が高い

記述的研究では、調査研究、観察研究、ケーススタディ(事例研究)、フォーカス・グループなど、複数の方法でデータを収集することが可能なので、柔軟で汎用性の高い研究方法といえます。

4.費用対効果が高い

記述的研究は、他の研究方法と比較して、費用や時間がかからないことが多く、多くの研究者にとって費用対効果の高い選択肢のひとつとなっています。

5.再現が容易

記述的研究は再現が容易なので、複数のソースから情報を収集し、比較するための信頼性の高い研究方法です。

6.将来の研究への情報提供

記述的研究で収集したデータから得られた洞察は、将来の研究に役立てられ、政策決定や研究プログラムに反映することが可能です。

記述的研究のデメリット

記述的研究のデメリットも挙げておきます。

1.焦点が限定的

記述的研究とは、「現状」を切り取ることができる、いわゆる「スナップショット」のデータを提供するだけなので、因果関係を示すことはできません。

2.既存データへの依存度

記述的研究は、集めた既存のデータに依存することになりますが、そのデータは必ずしも包括的で正確であるとは限りません。

3.研究者による介入の欠如による影響

研究者による変数の制御などの介入なしにデータを収集するので、条件の異なる集団間のデータ比較となるなど、介入しないことによって引き出せる結論が制限されるなど、結果に影響を及ぼすことも考えられます。

4.バイアスの存在

研究者自身の偏見や先入観が、データの解釈に影響を与える恐れは捨てきれません。

5.一般化の欠如

記述的研究の結果は、他の集団や状況には適用できない可能性もあります。

6.奥行きのなさ

記述的研究は、ある現象の理由を探ることを目的としていないため、特定の現象を深く理解するには不向きです。

7.所要時間の長さ

記述的研究では、多くの場合、大量のデータ収集と分析が必要であるため、時間とリソースを要することがあります。

記述的研究を攻略するための7つのヒント

  1. リサーチクエスチョンを明確に定義する
  2. 適切な研究デザインを選択する
  3. 代表的なサンプルを選択する
  4. 有効かつ信頼性の高い方法でデータを収集する
  5. バイアスを最小化する
  6. 適切なサンプルサイズを確保する
  7. 適切なデータ分析方法を用いる

1.リサーチクエスチョンを明確に定義する

明確に定義されたリサーチクエスチョンは、あらゆる研究調査の基礎となるものです。具体的かつ、研究テーマに関連するリサーチクエスチョンを明確に定義しておくことが重要です。

2.適切な研究デザインを選択する

実施する研究に適した研究デザインを選択することは、研究の成功に欠かせません。リサーチクエスチョンおよび、その回答を得るために必要なデータの種類に最も適した研究デザインを選択する必要があります。

3.代表的なサンプルを選択する

研究結果が研究対象の集団全般に言えることであると示すためには、代表的なサンプルを選択することが重要です。研究者は、母集団のランダムかつ代表的なサンプルが得られるようなサンプリング方法を使用する必要があります。

4.有効かつ信頼性の高い方法でデータを収集する

収集したデータが正確であり、リサーチクエスチョンへの回答として使用できるようにするには、有効かつ信頼できる方法でデータを収集することが重要です。研究者は、研究にとって適切であると同時に、一貫して体系的に実施できる方法を選択する必要があります。

5.バイアスを最小化する

バイアスは、研究結果の妥当性や信頼性に大きな影響を与える可能性があります。 参加者の選定からデータの分析に至るまで、研究のあらゆる側面においてバイアスは最小限に抑えます。

6.適切なサンプルサイズを確保する

適切なサンプルサイズは、研究の結果が統計的に有意であり、研究対象の集団に一般化できることを保証するために重要です。

7.適切なデータ分析方法を用いる

収集したデータの種類とリサーチクエスチョンによって適切なデータ分析法は異なりますが、データおよびリサーチクエスチョンに適した技法を選択する必要があります。

記述的研究とは、研究者が介入や比較を行わず、現状のデータの説明にとどまる研究です。そのため、要因と結果の因果関係を明らかにできないというデメリットはありますが、特定の集団の特性を理解し、仮説を説明、検証できます。さまざまな方法で定性的・定量的データを収集することで研究テーマへの理解が得られ、さらに収集したデータを将来の研究に利用したり、研究テーマに関する別の仮説を立てるのに利用できるというメリットもあります。ここで示した7つのポイントを記述的研究の実施に役立ててください。

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