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研究者を悩ませる論文著者名の順番と平等性(Equal Authorship)

誰の名前を論文著者として記載するか――という問題は、共同研究が広がるにつれ、ますます複雑になっています。論文執筆に貢献したにも関わらず名前が記載されなかったり、まったく貢献していないのに名前が記載されたりという論文の著者資格(オーサーシップ)は以前より注目されていましたが、分野や立場の異なる多くの研究者が1つの研究に参加することが増えてきたため、誰を筆頭著者、最終著者や責任著者とするか、名前の順位や責任の所在が新たな問題として浮上してきました。研究論文の作成に最も尽力した研究者である筆頭著者は明らかでも、それ以外の共著者の記載順も重要です。一般的には、研究への寄与が大きい人から順番に並べていきますが、複数の著者の貢献が同じぐらいであったり、比較が難しかったりする場合もあり、簡単にはいきません。そこで、貢献の質と度合い(量)を明確に示すことが推奨されるようになってきました。著者間の平等 (equal authorship)に向けた動きも出てきています。例えば、学術雑誌(ジャーナル)によってはCo-first authorship(共同第一著者)として、複数の著者が同程度の貢献をしていることを示すことができるようになっているのです。

オーサーシップについて、研究者が直面する問題

研究を実行する際には研究デザインや方法などについて共同研究者間で意見が異なることがあるかもしれません。同様に、論文を出版する段階でオーサーシップについて異なる意見が出るかもしれません。オーサーシップの問題には、研究に貢献していない人、著者に含めるべきでない人を記載してしまう不適切なオーサーシップ(ゲストオーサーシップなど)と、研究に貢献したのに著者として記入されないゴースト オーサーシップ(幽霊著者)が挙げられます。

不適切なオーサーシップ(ゲストオーサーシップ):研究に貢献していないのに著者として記入する

オーサーシップの問題は、研究倫理に関わります。そもそも著者として名前を連ねることができるのは、当該研究に関わり、論文の執筆にも関わっている人、つまり著者資格(オーサーシップ)を有している人のみです。名前が記載されることは、当該研究に関する責任を負うことを意味します。地位の高い研究者であっても、その研究に貢献していなければ、研究者としての実績に加えたいからと言って、著者として名前を記載することはできません。しかし、権威ある研究者の名前が入っていると論文が受理されやすくなるとして、実際の研究への関与が薄いにもかかわらず著名な研究者の名前を共著者に入れたり、研究に関する何らかの恩返しや礼儀、敬意の表明といった意味から共著者にしたりするような場合も見受けられます。このような著者はゲストオーサー(名前を借りただけの著者) と呼ばれます。

ゴーストオーサーシップ:研究に貢献したのに著者として記載されない

ゲストオーサーとは反対に、研究に貢献したにも関わらず著者として名前が記載されない人はゴーストオーサーと呼ばれます。院生などを研究に関わった場合の関わり方や、貢献度の評価の差によって共著者として記載しない、あるいは利益相反があると見なされる可能性のある特定の研究者を意図的に著者から外すといったことが行われています。企業との共同研究なのに、企業にとって都合のよい結果が出ていると思われるのを避けるためにその企業の研究者の名前を記載しない、または企業名をあえて記載しないということもあります。

オーサーシップに関するガイドライン

多くのジャーナルはオーサーシップを定義するにあたって、医学雑誌編集社国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors: ICMJE)のガイドラインに準拠しています。

ICMJEにおける論文著者となる必要条件

ICMJEは、著者となる資格として論文作成における以下の4つの過程に貢献していることとしています。

  1. 研究のコンセプト・デザイン、データの収集・解析・解釈
  2. 重要な知的内容について、論文の執筆または修正
  3. 論文の最終検討および承認
  4. 研究に関するあらゆる面で、発表論文の正確性や整合性に関する疑問点が適切に調査・解決されることに責任をもつことへの合意

これら4つの過程において特に重要な要素は、研究、執筆、承認です。

  1. 研究:仮定を立てる、中心となるアイデアを出す、研究構想、デザイン作成、実験の実施、全体の分析に携わること。
  2. 執筆:要旨から表の作成、分析まで、あらゆる項目の執筆に貢献する。あるいは、論文を出版するために投稿原稿の編集や校正に携わること。
  3. 承認:当該研究を承認し、プロジェクトの進行を監督する。助言者、指導教員を含む。

ICMJEは、こうした役割を担っていない研究者/関係者、論文の全体に対して責任を負うことのできない研究者の名前は、謝辞(Acknowledgment)に名前を記載するようにとしています。そこには、研究費の支援者やラボの技術スタッフなどが含まれます。

しかし、ICMJEには著者順についての言及がなく、オーサーシップに関する議論が続く中、「著者間の平等」や「貢献者の平等」をめぐる流れは変わりつつあります。「著者間の平等(Equal Authorship)」に向けて新しい方向性を定めたいと考える人も出てきており、著者順も注目されています。

著者順

ICMJEのガイドラインは、著者順は指定していません。著者順については分野毎の慣習はあるものの、規定があるわけではないのが悩ましいところです。基本的には、それぞれの研究者の論文に対する貢献度を相対的に評価して、順番を決めることになりますが、分野を超えた共同研究の場合には、当然貢献度や研究への関わり方が異なるので、どのような基準で貢献度を測るかが難しいのです。とはいえ、著者順を安易に決めてしまうと研究者間で深刻な問題を引き起こしかねない上、オーサーシップの記載が不適切であると判断されて論文の掲載が取り下げられてしまう可能性も捨てきれません。

オーサーシップに関する識者の見解

オーサーシップについては、2人の識者によるオーサーシップについての意見を紹介します。

Gretchen L. Kiser: 新しい手法の必要性と解決に向けた提案

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究開発室長であるGretchen L. Kiser博士は、学術ジャーナルnatureに寄稿した記事で「オーサーシップに起因する問題を完全に無視したらどうなるか。著者順や誰にアスタリスク(*)を付ける(責任著者を誰にするか)かで頭を悩ませるのを止めたら、フィードバックを気にしすぎる負のループから解放されてもっと革新的な研究を進められるのでは」と問いかけています。つまり、筆頭著者や責任著者、その他の共著者といった著者順をなくしたらどうかとの提案です。

この考えのもと、Kiser博士は、自身が長を務めるUCSFの研究開発室で多くのことに取り組んでいます。彼女とチームは、革新的な思考と、科学研究の新しい手法を促進するために、さまざまな分野の研究者たちを集め、さらに新しい研究を考え、デザインし、発展させるために研究者たちが必要としている資金援助や事務的な支援を行っています。

Kiser博士とチームの活動は、大きな成功をおさめてきました。ひとつの例は、UCSFで「speed-networking 」という研究者向けの交流会を開催したのことです。この企画で神経学者のDena Dubalと心理学者のAric Pratherが出会ったことが、慢性的な心理ストレスと、長寿ホルモン量の減少との関連性を明らかにした研究につながり、論文として発表されるに至りました。
Kiser博士は、自らの研究を他の人にとって有用なものにする科学者たちの貢献を認めて、その貢献に報いるには、変革が必要であり、解決に向けた最も重要な一歩は、著者順に関わる慣習を忘れ去ることだとしています。彼女は、「私たちは、著者による貢献の評価基準を定め、意見を聞くことにより、オーサーシップの多面的な性質を反映させていく必要性を認識しています」とKiserは述べています。

革新が進む中、オーサーシップに関する古い考えを適用させようとしても、もはや機能しません。「科学研究そのものに適用されているような最先端の計算ツールを使用して、論文著者の貢献度を特定する方法を想像できますか? 貢献度を特定できるようなツールが利用可能だとしたら?」とKiser博士は問いかけています。既にそのようなツールは利用可能となっています。研究における変革を認め、より多様で包括的に研究者の貢献度を認識する斬新な手法を取り入れていく必要があります。それが、より効率的で協力的な研究環境を生み出すことにつながるのです。

Alex Holcombe: CRediTシステム

シドニー大学の教授 (心理学) であるAlex Holcombe教授も、自らの経験からオーサーシップについては真摯な改革が必要だと考える研究者のひとりです。彼が大学院生だったとき、プログラマーとしての技術が必要とされて論文執筆に貢献したにもかかわらず、論文著者や貢献者としては認められませんでした。執筆者の多くは彼より高い地位にあった研究者であり、彼らは著者として記載されたのに、彼の名前は記載されなかったのです。残念ながら、それから20年経った今も、何も変わっていないと彼は述べています。

Holcombe教授は、論文へのそれぞれの著者の貢献度を具体的に示す「CRediTシステム」を支持しています。CRrediT (Contributor Roles Taxonomy)は、あらかじめ定義された14の役割(概念化、調査、方法、ソフトウェア、プロジェクト管理、データ整理など)における著者の貢献度を確認するシステムであり、それぞれの研究者の論文に対する貢献度を数値化するのに役立ちます。20社以上の学術誌出版社が、出版する学術雑誌(ジャーナル)の一部にCRediTシステムを導入しています。CRediTシステムの主な利点は、このシステムがより幅広い貢献を認めていることにあり、これにより、すべての研究者や科学者の貢献が職位にかかわらず認められることの後押しとなります。CRediTの主な有用性を挙げると次の3点です。

  1. 研究機関・団体が研究者や科学者を雇用する際に、かれらがどのような研究にどのように貢献してきたか、より詳細な情報を得られる。
  2. より多くの助成金申請者について検討することができる。
  3. 科学的資源を平等に分配できる。

繰り返しますが、オーサーシップとは、研究における責任の所在を明確化することです。オーサーシップが適切に記載されていない場合、研究者間の信頼関係に影響を及ぼすだけでなく、投稿論文の信憑性が問われる事態にもなりかねません。オーサーシップの問題を未然に防ぐためには、論文投稿前にオーサーシップや 著者名の記載順について共著者の間で合意を図っておきましょう。研究期間中、それぞれの著者の貢献度合いの記録を取っておくのもひとつの策です。CRrediTのような新しい手法の採用を検討するのもよいでしょう。ターゲットジャーナルでどのような記載の仕方を指定しているのかを確認しておくことも大切です。ジャーナルによっては、著者それぞれの貢献度について、詳細な説明を求めるものもあるので、不明な点があれば、ジャーナル編集者に問い合わせてみましょう。

 


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