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「アフター・コロナ」の世界の女性の活躍に期待

新型コロナウイルス感染症の封じ込めに成功している国の女性リーダーの活躍が、ワシントン・ポストやForbesで取り上げられて話題となりました。確かに、新型コロナウイルス対策で一定の成果を挙げている国々、ドイツ、台湾、ニュージーランド、デンマーク、アイスランド、フィンランド、ノルウェーでは女性リーダーの活躍が目を引きます。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、コロナ対策でも手腕を発揮し、欧州諸国ではいち早く検査の実施拡大を行い、医療崩壊を食い止めています。台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は、中国の武漢で正体不明の新型ウイルスが蔓延しているとの情報をつかむと早々に行動を開始。疫学者の陳建仁副総統と総統自身が抜擢したIT担当の唐鳳大臣とともに迅速な移動制限をかけ、日本でも紹介された「マスク配布システム」を含めた実用的なシステムを活用した対策を打ち出しました。ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、観光業への依存度が高い国にもかかわらず早い段階で国境を閉鎖し、感染者が確認されると全国的なロックダウン(都市封鎖)に踏み切りました。他国がコロナの「封じ込め」を目標にしたのに対して「根絶」を目標に掲げ、自分は専門家ではないからと断りながらも国民の不安を解消すべく、ライブ中継を行うなど明確なメッセージを発しました。デンマークのメッテ・フレデリクセン首相も、早い段階で国境を閉鎖、ロックダウンに踏み切りました。女性が指導者となっている北欧4カ国(デンマーク、アイスランド、フィンランド、ノルウェー)では4月後半には封じ込めの成果が出始め、コロナウイルスによる死者は他の欧州諸国と比べて少数で収まっています。もうひとつ印象深かったのは、カリブ海のオランダ領シント・マールテンの国家元首シルベリア・ヤコブス首相の「動かないで」というシンプルなメッセージです。シント・マールテンにはICUのベッドが2つしかないという危機的な状況下で発せられた単刀直入なメッセージは力強いものでした。また、日本の小池百合子東京都知事もコロナ対策で評価された女性リーダーと言えるでしょう。小池都知事が毎日ビデオ会見を行い、フリップを多用しつつ明確なメッセージを発信していた姿は、ワシントン・ポスト誌の記事に取り上げられています。実は、小池都知事は毎週英語でもライブ配信を行っています。英語が堪能であることは知られていましたが、緊急事態に関する情報を母国語以外でも発信し続けているのは大変なことです。このように、女性リーダーたちはいち早く危機意識を持ち、専門家の助言を聞きながら必要な情報発信を行いつつ、迅速な判断を下すことで成果を挙げてきたのです。

女性がリーダーになるには、強すぎてもダメ、弱すぎてもダメという「ダブルバインド(二重拘束)」を克服しなければならないと言われています。これは、コミュニケーションをする上で、強い態度を見せればヒステリックととられ、柔らかい態度で接すれば弱々しいと取られるということです。女性リーダーとして成功するには冷静な判断力や決断力と共に、絶妙なバランス感覚も必要とされるのです。今回のコロナとの戦いでは、女性リーダーたちの人の気持ちを察しながらも必要な対策を進めていくという優れたバランス感覚とコミュニケーション力の高さが発揮されたことが良い結果につながったと言えるかもしれません。一方で、男性リーダーには科学を軽視あるいは否定する姿勢、経済優先の傾向が強く見られると指摘されています。北欧5ヶ国のうち唯一男性が首相を務めるスウェーデンは、ロックダウンを行わず、結果として同国の100万人あたりの死者数は他の欧州諸国よりも高くなってしまいました。もちろんコロナ対策で成功を収めている男性リーダーもいますが、科学を否定し、科学者からの警告に耳を傾けなかった男性リーダーの国で壊滅的な被害が出ているのは明らかです。

新型コロナウイルス感染の押さえ込みについてどの国の政策が正しいかを論じるには時期尚早です。しかし、早々に封じ込めに成功した国、迅速な対応が評価されている国には女性リーダーが多いのは事実です。それでも、なぜここまで彼女達の活躍が話題になるのかを振り返ると、女性リーダーの少なさが注目される理由のひとつであることは否めません。列国議会同盟(IPU)およびUNウィメン(UN Women)の発表によると2020年1月1日時点で女性が国家元首や首相を務めている国は、国連加盟国193カ国のうち20ヶ国に過ぎません。さらにこのデータを見ると、世界で官僚ポストに女性が占める割合は21.3%と過去最高ではありますが、まだまだ男性が多数を占めています。補足ですが、日本の官僚ポストに女性が占める割合は15.8%で113位。G7中では最下位です。

残念ながら女性の割合が少ないのは政治の世界だけではありません。エルゼビアが2020年3月24日に発表した欧州連合および世界15の国と地域、26の研究分野におけるジェンダーレポート「ジェンダーの視点から見た研究者のキャリアパス」によれば、日本の女性研究者の割合は対象国の中で最下位です。ほぼすべての調査対象国と地域で研究に参加する研究者の男女差は縮まりつつあり、日本でも女性研究者の数は増加しているものの、世界の中では今でも最も低い状況なのです。この事実は、内閣府の発表する男女共同参画白書(令和元年版)の「研究者に占める女性の割合の国際比較」にも明白に示されています。日本の研究者に占める女性の割合は漸増傾向にあるとはいえ16.2%、ここでも比較対象29カ国中の最下位です。しかもこの研究者の数は、自然科学系の研究者だけでなく、人文・社会科学系の研究者も含まれています。

女性の活躍において日本は劣等国です。これは改善されるでしょうか? 6月5日に日本学術会議が発表した報告書「理工学分野におけるジェンダーバランスの現状と課題」は、理工学分野で特に顕著なジェンダーアンバランスの課題について検討した結果をまとめたもので、同分野の女性研究者がキャリアアップするにつれて減少していく傾向を分析し、問題解決に向けたアプローチを示しています。科学技術基本計画(現在は第5期、2016年からの5カ年計画)では、女性研究者の採用割合の目標値を自然科学系全体で30%、理学系20%、工学系15%、農学系30%、医学・歯学・ 薬学系合わせて30%と定めているほか、女性リーダーの育成・登用に積極的な大学などの取組を促進するなどの施策を進めています。

日本をはじめ多くの国には今でもジェンダー・バイアスが存在していますが、変わりつつあります。世界が「アフター・コロナ」、「ニューノーマル(新常態)」に向かう中、今まで以上に女性の活躍が期待されるとの見方も出てきています。これからの社会に必要なのはダイバーシティ(多様性)であると考えられており、日本の学術界もダイバーシティの不足を重要視しています。これまでの進みは遅々としたものでしたが、図らずもコロナという「社会を変える力」が働く今こそ、女性が躍進するチャンスなのかもしれません。


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