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学位論文をジャーナル投稿論文にする

大学院生が課程を修了するのに必要な条件の一つが学位論文(Thesis)の発表です。しかし、研究者としての実績を得るためには、学術雑誌(ジャーナル)に掲載する投稿論文も出したいところです。大学院課程の間の研究成果をジャーナルで発表できれば、学術界に広くその内容を共有できますが、学位論文とジャーナルに投稿する研究論文では構成・フォーマットが異なります。

優れた学位論文を書くには、緻密な作業の積み重ねが必要です。学位論文の要件は多くの場合、大学が定めています。どのような学位論文であっても、研究課題を究明するために自分が取った方法、アプローチを詳述する必要があります。学位論文に基づいた学術論文をジャーナルで発表する際には、往々にして修士論文も引用されます。学位論文と訳されることの多い「Thesis」と「Dissertation」の定義は地域によって異なり、ヨーロッパでは、Thesisは一般的に博士号に関わる独自の研究成果を記述した博士論文で、Dissertationは、通常、修士号取得のための研究プロジェクトを記述した修士論文です。米国では、Thesisは修士号に関わるもので、Dissertationは博士号取得のためのものです。呼称がいずれでも、Theis、 Dissertationともに自分の研究分野への理解を示すため、しっかりと取り組むことが必要です。

学位論文には、一般的にアブストラクト(要旨)、メソッド(方法)、結果およびディスカッション(考察)のセクションが必要です。アブストラクトは、研究課題、方法、主な発見を簡潔にまとめたもので、通常300語以内で記述します。メソッドのセクションは、同じ分野の他の研究者たちが研究を再現できるように実験方法を詳細に記述します。ここで、研究デザイン、サンプルサイズ、材料と器具、データ収集と分析のテクニックなどを説明するのです。結果とディスカッションのセクションでは、主な発見とその重要性、そして研究結果の新規性についても記述します。

学位論文とジャーナル投稿論文の違い

ジャーナルに掲載される投稿論文にも似たようなセクションがありますが、学位論文をそのままジャーナルで発表することはできません。ジャーナル投稿論文にするためには、多くの工程が必要です。まず大きな違いは、ジャーナルに掲載される論文には文字数/ページ数に制約があるため、必要な情報を簡潔にまとめることが要求されます。結果として投稿論文は、学位論文よりはるかに短くなるということです。そのため、学位論文をジャーナル投稿論文にするには、単純にコピー&ペーストすれば良いという訳ではありません。学位論文のデータを元に、新たに論文を書いていく必要があるのです。

他にも学位論文と、一般的な投稿論文には多くの違いがあります。

  1. 投稿論文では、学位論文よりもアブストラクトが短い。
  2. 学位論文の序論(Introduction/イントロダクション)では、著者がその分野の文献に精通していることが示される。投稿論文では、読者が研究内容を理解するために必要な背景を熟知していることを前提とするため、序論はずっと短く、論文内で発表するデータや研究成果の説明に重きを置くことになる。
  3. 学位論文の結果では発見したすべての事柄が記載される一方、投稿論文ではそのような詳細な記述は求められない。投稿論文の結果は、研究課題や仮説を裏付けるのに必要なデータの記述のみに絞る必要がある。1本の学位論文の結果に記される内容が、複数の投稿論文の結果に相当することもある。
  4. 投稿論文のディスカッション(考察)は、学位論文よりもはるかに焦点を絞ったもので、その論文の結果で示された内容に基づいた記述になる。また、投稿論文では、実際に引用した論文のみが引用文献欄に記載される。

学位論文をジャーナル投稿論文にする

研究者であれば、キャリアアップや研究への貢献のため、自分の研究を広く公にする必要があります。上述のとおり、学位論文と投稿論文ではさまざまな点で違いがありますが、実際にどうすれば学位論文から投稿論文を作ることができるでしょうか。例えば、投稿先のジャーナル選択から始めてみるのも良いでしょう。まず、自分の参考文献リストを見てみます。おそらく参考にした論文のうち複数の文献が、自分の研究分野と同じジャンルのジャーナルに掲載されているでしょう。そうしたジャーナルの中から投稿先を選ぶことで、そのジャーナルの要件に合わせて論文を整えていくことができます。

論文全体を短くするためには、一つの研究課題に応じたデータだけを抽出します。それにより、学位論文で提示した内容よりも、より的を絞った情報になるはずです。投稿論文の焦点、つまり問題提起との関連で結果の考察を行います。適切な言葉選びと構成も大切です。重要なデータが含まれていたとしても、理解しにくいというだけで投稿論文が受理されない(リジェクトされてしまう)かもしれないのです。データに基づく首尾一貫したストーリーを語り、データによる裏付けのない結論を記述することは避けましょう。そして論文の内容に合わせてタイトルを付けます。

学術界全体の利益のため、研究成果を広く公にすることは研究者としての責務です。ジャーナルで出版される論文は学位論文とは構造が異なるため、違いを理解した上で、投稿先ジャーナルの規定を順守して形を整えましょう。論文を簡潔にまとめ、体裁を整えてからジャーナルに投稿するにはそれなりの作業が必要になります。しかし、そうした労力を費やすことで、ジャーナルへの論文掲載という業績を手に入れることができるのです。


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