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翻訳者のシゴト論 – 第3回 R・Sさん

Profile
R・Sさん
翻訳者としての経験年数:8年
専門分野:言語学、自然科学

翻訳者として英語と向き合う際に、一番難しいと感じることは何ですか?

訳者の介在を最小限に留めることです。
「内容をわかりやすく伝えること」と「原文の著者が書いたことをそのまま翻訳すること」は異なり、クライアントが何にプライオリティを置いているかを見極め、そのバランスを取るのが難しいです。翻訳の目的をあらかじめ明確に知らせてもらえると大変助かります。 クライアントと直接話すことができない場合、翻訳が仕上がった後に「思っていたのと違う」と言われることもありますので、原稿のバックグラウンドを事前に把握しておくことが特に重要です。

日本人研究者が英語のスキルを伸ばすためにはどのような訓練・教育が必要だと感じていますか? ご自身が翻訳者となるために英語を勉強された経験を交えてお教えください。

読む、書く、話す、聞く、の4技能を継続的に行うことです。
言語習得は筋トレのようなもので、継続的に英語に触れ、使用し、鍛えることによって獲得されるので、常に頭を鍛えておくことが重要です。
身近なトピックや興味のある事柄について、ニュースや論文など様々なメディアを通して、常時、英語に触れるようにすると良いと思います。
継続的に努力し続けていても、実力が向上していると感じられない踊り場的な時期もありますが、そこで諦めてしまうと次のステップには行けません。昨日今日というタイムスパンではなく、数カ月前にできていなかったことがストンとできるようになっていると感じることもあります。

翻訳者としてのあなたにとっての座右の書を挙げてください。

(1)『A Communicative grammar of English』G. Leech & J. Svartvik著(諸版あり、版ごとに出版社が異なる)
不朽の文法書です。最初に出会ったとき、目からウロコが落ちるぐらいの衝撃を受けた一冊です。文法形式がどんな属性を持つのか分かりやすく解説されています(進行相や完了相の属性、inとonの違いなど)。もちろん例文もあるので、ニュアンスが掴みやすいです。
この本は英語という言葉の属性を観察できるからので、英語の核に触れることができます。
日常で気になる文型が出てきたらこの本を参照します。御守りのようなものです。
最初に読んだのは教育学部1年生(教育学部)のときで、英語を生き物のように感じました。英語の面白さへの気づき、ひいては言語を好きになる原点となりました。持っていると安心でき、自分の原点に立ち返りたいときに読み返しています。
(2)『英和活用大辞典』(研究社)
動詞や名詞などの語が、どのような品詞の語彙を伴うのか、どのような文型で使用されやすいのか、豊富な例文とともに説明されています。英語の言語感覚を捉えるのに最適です。
その他にも類語辞典・自然科学の辞書・英英辞典・広辞苑など5、6冊、加えて電子辞書を翻訳の際に使用しています。

論文を執筆する日本の研究者に、日英のことばの壁を乗り越えるためのアドバイスがあれば教えてください。

理路整然とした議論形式を常に意識することです。トピックセンテンスを最初に明示して、それからサポートエビデンスや詳細情報を追加するという形式をとり、間違えるのを過度に恐れないことです。主張をすっきり相手に伝えようとする、意識とロジックを持つようにすることです。

研究や翻訳作業では長時間PCの前に座り続けることになります。身体のために心がけていること、続けていることはありますか。

毎日1時間ぐらい歩きます。頭のリフレッシュにもなるので、毎日継続しています。思考や気分を変えることで新しいことに気づいたりできるので、 翻訳 以外の時間も大切にしています。

翻訳は集中力が求められる作業です。翻訳モードに入るためのスイッチのようなものはありますか?

ラジオ体操をします。オフィスアワーは、おおむね翻訳作業をしています。

もし過去に戻れたとして、今とは違うキャリアを選べるとしたら何を選びますか。

研究をしてみたかったので研究者になりましたし、会社員として勤めをしたこともあります。そして今は翻訳者として仕事をしているので、割と今の人生に満足しています。もし違うキャリアを選ぶとすれば、これまで言語学や自然科学の研究をしていたので、今度は科学系の研究をしてみたいです。タンパク質などの研究も面白そうですね。

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