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論文の二重投稿<翻訳版を再掲載しない方がよい4つの理由>

発表済みの論文を別の言語に翻訳して出版することが、論文を執筆する研究者の間で一般的になってきています。これは研究不正にはならないのでしょうか?この記事では、日本語で二次投稿、二重出版もしくは再掲載などと訳されるsecondary publicationの倫理と、発表済みの論文を翻訳したものを再掲載しないほうがよい4つの理由について説明した上で、著者がこうした不正行為を回避しつつ、論文を複数言語で発表する方法について見ていきます。

研究者が発表済みの論文を翻訳する理由

まず、研究者が発表済みの論文を別の言語に翻訳して再掲載する理由を見ておきます。

  1. 発表済みの論文が読者層にとって読みにくい言語で書かれている場合、発表者の母国語、または、より多くの人が利用している言語に翻訳した方が、その論文に関心のある読者に読んでもらいやすくなります。
  2. 論文の掲載先が研究者が期待するほど有名でない学術雑誌(ジャーナル)だった場合、論文を翻訳して、より有名なジャーナルに再掲載することによって論文の認知度を高め、結果として論文の影響力を高めることができます。
  3. 論文の発表から何年も経過して、情報が古くなっている場合、当初の論文発表以降に、解釈や関連性を変更する新しい展開または発見が出てきていることも考えられます。

このような場合、新しい情報を翻訳して再掲載することで、読者が最新の研究情報にアクセスできるようになります。

既に発表された論文を翻訳して再掲載することは不正行為か

既に発表された論文を他の言語に翻訳して再掲載することが不正行為と見なされるかどうかは、どちらの判断もあり得ます。既に発表した論文の翻訳版であると投稿先に伝えて事前に再掲載の承諾を得ていれば二重投稿、研究不正とは見なされませんが、既に発表した論文の翻訳版であることを伝えず、しかも独自研究ではないことを明らかにしていない場合には研究不正と見なされてしまいます。通常、多くのジャーナルは既に発表された論文を他の言語であっても再掲載することを好ましいと思ってはいませんが、既に発表されている論文であっても、それが他の言語であれば再投稿を検討する余地を残しているジャーナルもあります。とはいえ、こうしたジャーナルであっても、論文が以前に発表されているものであることを明確に記載する必要があるので注意が必要です。

研究者は発表済の論文を翻訳して他のジャーナルに投稿すべきか

この質問への回答は、「ジャーナルの方針による」となります。一部のジャーナルは、論文を別の言語に翻訳して発表することに寛容ですが、そうでないジャーナルもあります。翻訳した論文の投稿を認めていない投稿先に翻訳論文を再掲載してしまうと、それは研究不正と見なされます。

ジャーナルが、掲載するすべての論文が独自性のある研究であることを保証すること、あるいは翻訳の質に懸念を持っているような場合には、翻訳された論文の投稿を許可しない可能性があります。

研究者が翻訳版を再掲載することを許可するかどうかの最終的な判断は、個々のジャーナル次第です。特定のジャーナルの方針(ポリシー)について不明な点があれば、その編集者または出版社に直接問い合わせてみることをおすすめします。

論文の翻訳版を再掲載しない方がよい4つの理由

既に発表した論文を翻訳して投稿する場合、基本的には二重投稿をすることになります。二重投稿は、研究不正と見なされ、学術界は研究不正に対して厳しい目で見ていることは覚えておくべきです。論文の翻訳版を再掲載すべきでない理由をいくつか挙げておきます。

  1. 研究者としての評価を損なう恐れがあります。学術界は出版倫理を非常に重要視しているので、再掲載を行ったことが発覚した場合には、自身の研究者としての評価に影響し、将来の論文発表が難しくなるかもしれません。
  2. 既に発表された論文が自分で執筆したものである場合、自己引用・自己剽窃と見なされる可能性があります。過去に自分で考えた概念を論文にまとめたものであっても、自己盗用・自己剽窃として、研究不正の一種と見なされます。学術界では、意図して行われたものではない盗用・剽窃と同様に、自己盗用・自己剽窃も非倫理的行為であると見なされ、評判に悪影響を及ぼす恐れがあるのです。
  3. 法的なトラブルに発展する恐れもあります。過去に論文を発表したジャーナルがその論文の著作権を有している場合、著作権の侵害となることもあり得るのです。ジャーナルが、翻訳版の再掲載に対して法的措置を取ると判断すれば、窮地に立たされる事になりかねません。
  4. 既に発表した論文を翻訳して再掲載する必要がどれだけあるのか、必要性を考えてみてください。自分の母国語で発表されていない論文の数は数えきれないほどあるはずです。既に発表した論文を翻訳するのに時間に費やすより、新しい研究を進めてはどうでしょうか。

次は、ここに挙げた4つの理由を見ても、発表済の論文を翻訳して発表するか検討を続ける場合の注意を挙げておきます。

翻訳した論文を研究不正と見なされずに再掲載する方法

研究不正と見なされずに既に発表済の論文の翻訳版を再掲載するには、幾つかの押さえておくべきポイントがあります。研究不正とならずに複数の言語で研究成果を発表できるようにするには、以下のガイドラインに従ってください。

  1. 自身が最初に発表した論文を翻訳する論文著者としての権利を有していることを確認する
  2. 論文を発表したジャーナルから他の言語に翻訳する許可を得る
  3. 翻訳の際、必ず出典を明記し、その論文が既に発表された論文の翻訳版であって、オリジナル論文ではないことを明確にしておくことで、倫理的かつ学術的な基準に準拠した研究論文を発表できる
  4. 翻訳版が、元の論文と同じく信頼でき、正確な表現で記載されていることを確認する

こうした点に注意することで、研究不正と見なされることを回避しつつ、既に発表した論文の翻訳版を出版し、研究分野における論文の認知度を高めることができるでしょう。

結局のところ、翻訳版を再掲載する際のリスクを負うかどうかを判断するのは著者次第です。翻訳版を発表することのメリットはありますが、ご自身の研究者としてのキャリアに深刻な影響を与える可能性も無視できないので、発表済の論文を翻訳して再掲載することをお勧めはしません。


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