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SNSは被引用数増加に効果があるか?

世界のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のユーザー数と普及率はとどまるところを知らず、2019年の世界全体のSNSの利用者数は34億8,000万人を突破、前年比9%増となっています。日本のSNS利用者数も、2018年末に7,523万人、2019年末に7,764万人、2020年に7,937万人と見込まれており、着実に増加しています。もはやコミニケーションツールとして欠かせなくなっているSNSですが、自撮写真や、観光やグルメの写真のアップ、友人同士のおしゃべりの道具として利用する以外にも、情報を効果的に共有する有力な道具としての利用法もあります。


学術界でもSNSが情報発信、情報共用して研究成果を広める手段として多用されるようになってきています。一方で、それが本当に役立つのかという疑問の声もあります。SNSによる研究成果の周知・拡散をめぐる調査などを紹介します。

SNSの種類

SNS には、いろいろな機能があるので、適切に活用すれば効果を上げることができます。そのためにはそれぞれの特徴を理解して、自分の目的に適したSNSを利用することをお勧めします。

  • Facebook(フェイスブック):自分の研究成果を発表したり、他のSNSや学術ジャーナルのリンクをつけたりすることができます。
  • Twitter(ツイッター):短い文章を写真や動画などと一緒に投稿できる代表的SNSです。自分の研究成果や学会発表、ブログなどにリンク付けが容易で情報発信の窓口になります。リツイート機能による拡散力が魅力です。
  • LinkedIn(リンクトイン):ビジネス特化型のSNSです。転職活動や採用、ビジネス上のネットワーク作りのために活用されることも多く、特定のグループ向けだけでなく、まったく異なる分野の人たち向けて広く情報発信することができます。
  • ResearchGate(リサーチゲート):研究者のためのSNSです。研究者間のつながりを促進し、研究のアイデアや成果を共有することを目的としています。論文のアップロード/ダウンロードができるので、論文についてのディスカッションも可能です。他の研究者をフォローして、最新の研究成果を見ることもでき、研究成果を議論する新しい場として活用されています。
  • Mendeley(メンデレー):文献管理ツールとして利用可能な研究者のためのSNS。グループを作成して文献を共有したり、論文を公開したりできます。自分の関心がある分野のグループに参加したり、気になる研究者をフォローしたりすることで、人的ネットワークを広げることもできます。

上にあげたSNS以外のコミュニケーションツールとしてBlog(ブログ)も挙げられます。SNSがフロー型のメディアであるのに対し、ブログはストック型のメディアと言えますが、最近のブログは読者が返信することやディスカッションすることを可能にするSNS機能を搭載しているものが増えているので、SNSの範疇に入るとされることもあるようです。フェイスブックの「シェア」やツイッターの「リツイート」のような拡散性や速報性はありませんが、長文や論文の投稿が可能で、投稿した記事がウェブ上に残るというメリットがあるので、使い分けをするとよいでしょう。

SNSの効果に関する調査

SNS利用のメリットに関する調査の結果は、他の人と繋がり、情報交換が容易になるという点では一致しています。それでも、研究成果の普及に本当に役立つのかについては議論されています。

英国の研究者が行った調査から主な分析結果を3つ挙げておきます。

  • 研究者は自分の論文のアップロード先として、所属する研究機関や大学のウェブサイトより学術分野のSNS(Academia.edu、ResearchGate、Mendeley)を選択する傾向がある
  • 学術分野のSNSおよびその他のソーシャルメディアは、インパクトファクター(IF)、被引用数、検索頻度にプラスに働いている。
  • SNSにより、学術界内部での情報交換やコミュニケーションが促進しされている。

一方、好影響はないとする調査結果もあります。米国の大学で科学コミュニケーションの博士号を取得後、引用に関する統計分析などを専門にしている出版コンサルタントは、Facebook、Twitter、Circulation誌のブログを対象に調査したところ、学術雑誌(ジャーナル)で発表した論文をSNSで紹介してもページビュー数(閲覧件数)に変化は生じなかったと指摘しています。同様に、International Journal of Public Health誌に発表された論文のランダム調査結果でも、ソーシャルメディアの介入は論文のダウンロード回数や引用数に影響を及ぼさなかったと記されています。

こうした調査結果は研究分野で異なる可能性もあるでしょう。生態学と保全学分野(E&C分野)における論文の被引用数へのSNSの影響調査では、SNSが効果を上げていると報告されています。研究者らは2005から2015年に発表された生態学・保全学分野の論文を対象に、SNSの活用と引用数およびAltmetric Attention Score(論文に対するネット上の反響を数値化した指標)の関係について調査しました。Scopus、Altmetric、およびインパクトファクターのデータベースからAttention Score が算出できる8千本強の論文を抜き出して精査した結果、以下のようなことが判明しました。

  • E&C分野で出版された論文の多くはSNSでの関心が低かった(Altmertic調査対象の論文のうち80%以上がツイートされた回数5回以下だった)。
  • E&C分野の論文においては、SNSで取り上げられる頻度と被引用件数には正の相関がある。
  • 近年、被引用数におけるジャーナルのインパクトファクターとSNSで取り上げられる回数には収穫逓減の傾向が見られる(露出は増加するものの、その増加分は次第に小さくなってきている)

Attention Scoreと被引率の関係にはSNSの種類ごとに特徴があり、Attention Scoreへの影響が最も大きかったのはTwitter、被引用数に影響が大きかったのはブログでした。

このように分野によってSNSの影響が顕著にみられるようですが、理系の論文のほうが、社会科学・文化系よりもSNSの影響が大きいかもしれません。

SNSの問題点

ここまではSNS利用のメリットを見てきました。ここからはデメリット(問題点)にも目を向けてみます。一般的にあげられる、プライバシーの懸念、宣伝行為、ハッキングなどの問題点は、学術界における利用でも同じと言えるでしょう。これら以外に、特に学術界に関係する懸念点もあります。いくつか例示しましょう。

  • SNSでは学術的な議論に一般の人も参加してくるため、議論の質が落ちかねない。
  • SNSでのオープンなディスカッションは査読のプロセスを弱める懸念がある。SNSでは、投稿者の特定や信頼できる情報の判別が難しい。
  • 研究者がSNSで自分の研究を広めるのに時間をとられてしまう。また学術界の主要な人のSNSでの発信をフォローしたり、自分の発信内容を常に更新し、またSNSによる効果を調べたりするにも時間と労力がかかってしまう。

こうした問題は無視できませんが、SNSが普及している現実を踏まえて、SNSとの付き合い方に慣れ、賢く使っていくことが必要でしょう。昨今は、論文の被引用回数が研究者のキャリアにとって重要であることは言うまでもなく、所属する大学や研究機関のランキングにも重大な影響を及ぼします。ResearchGateで発表されている「Citations and its Impact to University Ranking(仮訳:被引用件数の大学ランキングへの影響)」には、質の高い論文であっても学術ジャーナルに発表するだけでは高被引用数を獲得することはできないので、SNSのようなツールを活用し、出版論文の情報を内容に興味をもってくれそうな読者に配信していくことが必要だと述べています。

SNS活用の効果には賛否があるものの、SNSは研究者にとっても避けて通れないものとなっているようです。

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