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【帝京大学医学部】長瀬 洋之 教授インタビュー

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。八回目は、帝京大学医学部内科学講座の長瀬洋之教授にお話を伺います。どんなにつらくても自身の力で英語論文を書き続けること、そして、研究者同士がお互いに意識を持って英語力を鍛えあうことの大切さについてお話くださいます。

■研究室で扱っている専門分野、研究テーマを教えてください。
呼吸器内科です。喘息、COPD (Chronic Obstructive Pulmonary Disease)、間質性肺炎などの呼吸器疾患全般を研究対象としています。

■英語論文の執筆や学会発表、共同研究などの場で、英語で苦戦した経験はありますか?
自分が大学院生の時はなかなか英語が書けなくて、言い回しを他の論文から引用するなどして執筆に非常に時間がかかりました。英語の書き方セミナーのような系統立った仕組みは当時はな
かったので、同じ研究室の仲間たちも苦労していました。仲間同士でブラッシュアップできれば良かったのでしょうけれど、そこまでの余裕がなかったですね。なので指導教員に英語を繰り返し添削してもらって、そのうちに言い回しを覚えていって少しずつ書けるようになっていって。
いざ自分が教員の立場になってみると、時間が取れないですし、学生が作った英語に赤を入れた後メールで戻して、という古典的なやり取りがなかなか大変でして、当時の指導教員の苦労を痛感しています。今思えば非常にありがたいことですね。

■学生や若手研究者は、どのようにして英語での論文執筆力を鍛えるべきだと思いますか?
まず、学会抄録や論文をたくさん執筆するのが一番重要だと思います。限られた時間の中で何本も論文を執筆することは容易ではないので、その他の学会発表、スライド作り、ポスター作りなどを自力で書いてみるのも大切です。どんなにつらくても、自身の力でやりきるしかないのではないでしょうか。
特に医学論文は専門用語が独特ですので、論文執筆レベルに到達するのは学部教育では無理でしょう。そうすると、大学院に進学して、自分で論文を書く機会が与えられて初めて学術英語に向き合うことになる。かなり苦労することになりますが、繰り返し訓練をするうちに、徐々に英語で抄録が書けるようになったりするんです。

■英語での論文執筆や学会発表に対し、研究室にいる学生にはどんなアドバイスをしていますか?
口頭発表の場合は、日本人にはフリートークはハードルが高いので、しっかり読み原稿を書いて、まずは読む。そこから始めざるを得ないのではないでしょうか。伝わらないことをたどたどしく言うよりは原稿を読む方が良いと思うので、学生にはしっかり発表原稿を用意することを勧めています。
アドリブ的要素の強いポスター発表はフリートークをせざるを得ないのですが、臆せずにディスカッションしているうちに訓練されてきます。中には、国内 学会 で、参加者は全員日本人だけれども「一貫して英語で話そう」という、英語の場数を踏むための工夫をしてくれている学会もあります。そういう場を利用して訓練するのも、若手研究者には良い方法ですね。

■日本人研究者が英語力を鍛えるためには、どうするのが一番だと思いますか?
海外留学生がいれば、英語で対話する機会が増えて、とても良いと思います。特に英語ネイティブではない者同士が英語で話すと、どうにかして意思を疎通しようと意気込みますので、お互いを鍛えていく意識を持って対話ができます。
また、以前私が東京大学の大学院にいた時は、研究室の仲間が集まり、教授の進行のもと、英語で「抄読会」が行われていました。誰もが、原稿なしでデータを説明し、討論していくのです。自分が話す内容や聞くことにすべて英語で触れることで、否応なしに英語に慣れていきました。そのような小さな訓練の積み重ねだけでも十分トレーニングになると思います。

■今後、どのような英語サービスがあれば使ってみたい、ありがたいと思いますか?
3つありまして、1つ目はプレゼンテーションの読み原稿のブラッシュアップです。論文から読み原稿を作るのですが、やはり文章に堅さが残ってしまうので、医学論文翻訳または校正の専門家が、読み原稿にふさわしいスタイルに整えてくれるサービスがあると良いと思います。
2つ目として、大抵のポスタープレゼンテーションは制限時間が設けられているので、プレゼンテーションの内容を時間内に収まるようブラッシュアップしていただけるとありがたいですね。自分が発表している姿を動画に撮ってネイティブの方にチェックしてもらい、魅力的な発表になっているか、内容を効率良く伝えられているかフィードバックを返してもらう。移動時間などの隙間を利用して添削してもらえて、客観的な意見ももらえる。そんなサービスがあればいいですね。
3つ目ですが、日本の研究者が海外の懇親会やパーティーの場に行くと、なかなか輪に入っていけなくて、ネットワーキングがうまくできないという悩みを多く伺います。特に若手研究者向けに、コミュニケーションの取り方全般をトレーニングできる場を提供するサービスがあったらいいですね。

■若手の研究者の方にご助言をお願いします。
自分で試行錯誤して英語を書き、指導者に添削してもらって経験を積んでいくのが論文執筆上達の秘訣だと思います。また海外の学会に参加した際は、是非ポスター発表などで他の発表者に質問して積極的にコミュニケーションを取って、他国の研究者との会話を楽しまれてはいかがでしょうか。ポスター発表だと時間があってのんびりと話せますし、質問することによって、自分が質問を受ける立場になった時の経験にもなりますよね。最初は当然尻込みされるかと思いますが、果敢にチャレンジしてみて下さい。


 

【プロフィール】

長瀬 洋之(ながせ ひろゆき)
帝京大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー分野 教授

1994年 東京大学医学部医学科卒
1995年 国立国際医療 (研究)センター内科・呼吸器科
2000年 日本学術振興会特別研究員
2002年 東京大学大学院医学系研究科 (呼吸器内科学)修了 (医学博士)
2003年 帝京大学医学部内科学講座 (~現在)

 

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