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【上智大学】黄 光偉教授インタビュー(前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。五回目は、上智大学の黄 光偉(ホアン グアンウエイ)教授にお話を伺いました。インタビュー前編では、大学教育における学生への英語指導方法についてお話くださいます。

■先生の研究室で扱っている専門分野、研究テーマを簡単に教えていただけますか。
主に水環境です。治水の問題、河川、湖沼、水質汚濁の問題、水資源のマネジメントなど、水をめぐるさまざまな研究を行っています。新潟の佐潟、千葉の手賀沼・印旛沼、東京の多摩川などを調査しています。
また、治水の研究も行っています。最近は気候変動の要素もあり、水を完全に川の中に封じ込める、あふれさせないという従来のやり方には限界が見えてきており、新しい方法が求められています。もはや川だけで考えて水を封じ込めるのは難しく、氾濫許容型の治水など、流域のスケールで水と共生する方法が求められています。

■英語論文の執筆や学会発表、共同研究などの場で、英語で苦戦した経験はありますか。
学生時代に英語を勉強したときはいろいろ努力しましたが、今はもう慣れましたね。

■研究室で先生が指導されている学生さんの英語力については、どのように感じていらっしゃいますか。中国と日本とで、研究者や学生の英語力について何か違いを感じますか。
中国の大学の学生がみんな積極的に英語を使うのに比べて、日本の学生は文法はよく勉強していると感じますが、あまり実際に使おうとしないですね。文章はきれいに書けますが、コミュニケーションの英語力が弱いように感じます。
英語で話すのが得意ではない学生は、ディスカッションで苦労しますね。質問になかなか自分の言葉で答えられない場面をよく目にします。

■そういうとき、学生さんはどのようにトレーニングするのでしょうか。
努力に努力を重ねるしかありません。まずは一般の論文を積極的に読んで、自分の中に言葉をたくさん取り込むことが大切です。そうしないと、単語を羅列するだけのブロークンイングリッシュになってしまいます。たくさん言葉を取り込んで、量から質を生むわけです。専門の論文を多く読むことで、専門用語は身に付きます。
その上で、積極的に研究室のゼミや授業でプレゼンテーションをやるのが有効です。ゼミでは基本的に、みんな一緒にディスカッションします。そうすることで相互作用が生まれます。

■学生さんが英語で論文を書くときには、どのように指導されますか。
英語がよほど得意ではない学生の論文は、本締め切りの数か月前に、まずドラフトを提出させて私のほうで確認することはありますが、たいていの場合は基本的に学生自身に任せています。一つひとつ私のほうで修正したりはしません。私が指摘するとすれば、論じている環境問題の中身がちゃんと書けているかどうか、内容に関することだけです。それ以外の言い回しや言葉については、学生自身の努力できれいにさせます。
ただやはり、内容をちゃんと伝えるためは文法や文章構造についても努力工夫が必要です。論文特有の言い回しなどは、やはりネイティブの方はうまい。非英語ネイティブはなかなか及ばないところですが、普段のゼミや授業でレベルアップしてもらいたいですね。

■学生さんが私たちのような英文校正業者を使うことはありますか。
そこは、実はものすごく微妙なところです。修士論文というのは、基本的にその学生自身で仕上げるものです。業者の力を使い過ぎると、本当の意味で論文がその学生のものかどうかはグレーになってしまいます。業者による少々の修正は構いませんが、文章構造まで踏み込んでしまうと、その人の文章ではなくなってしまいます。
学生が書く論文の英語レベルはまだ低いかもしれませんが、それでいいんです、学生なんですから。業者に英文校正を依頼するということは、極端な言い方をすると、金で論文を買うようなものだと思います。そうなると、お金がある学生がきれいな論文を書けるということになってしまいます。それは不公平ですし、なにより教育として違和感を覚えます。
以前学生に、少し文法的にお粗末なところがあるので自分のお金で業者に校正を頼んでもいいかと訊かれたことがありますが、頼まなくていいと答えました。修士論文にまず求められるのは、研究に新規性があるか、結果はどうかということです。英語の文章力は二の次です。自分の言いたいことを伝えられていれば十分だと考えています。


後編では、英語を「実際に使って」上達させる重要性についてお話くださいます。

【プロフィール】

黄 光偉(ホアン グアンウエイ)
上智大学 地球環境学研究科 教授/上智大学地球環境研究所長

中国・上海にて生まれ育つ。1983年に復旦大学卒業後、1994年に東京大学にて博士号を取得。東京大学工学系、金沢大学、新潟大学、東京大学新領域、水災害・リスクマネジメント国際センターを経て現職。

1996年-2000年 東京大学工学系研究科河川/流域環境研究室 3次元流れ解析、湖沼富栄養化、
1996年-2000年 河川水温、局地気象モデル等について研究
2000年-2002年 金沢大学工学部水工研究室 河川流れ解析、河川構造物等について研究
2002年-2005年 新潟大学工学部水工研究室 氾濫解析、都市域水害軽減策、河川水温等について
2002年-2005年 研究
2005年-2010年 東京大学大学院新領域創成科学研究科 水圏環境研究室 湖沼富栄養化、
2005年-2010年 河川環境、渡り鳥と湿地環境容量、治水、流域統合管理等について研究
1996年-2現在: 乾燥地域における持続可能な発展のためのイノベイティブな水管理、湿地の保全と
1996年-2現在: 賢明な利用について研究

 

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