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【日本医科大学】荒木 尚 講師インタビュー(後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十回目は、日本医科大学の荒木尚講師にお話を伺いました。後編では、英語でコミュニケーションを取る上での「人間性」の大切さについてお話くださいます。

■英語の環境に身を置いてトレーニングをされたということですが、実際に、それが学術研究の発表の場で生かされていらっしゃいますか?
そうですね。最近感じるようになってきました。それはTEDとかああいうプレゼンテーションの技術にフォーカスが当たるようになってからだと思います。例えばスライドの作り方にしても、1枚のスライドにたくさんの文字を書いてはならないとか、伝えたいメッセージをいかに上手にレイアウトして、印象的なデザインで訴えるかということを重要視している。
やはりプレゼンテーションで私が話した内容を記憶に残してくださるようにするためには、まずはメッセージを練る時に、どれが一番大切で伝えたいメッセージなのか自分でまとめておくということ、これは日本語で出来ることで、話す英語とはあまり関係ないかもしれないことではないでしょうか。
ただ、スピーキングについて、海外のプレゼンターの話を聞いている時に思うのは、彼ら彼女たちの場合には日常生活のリラックスした英会話のリズムがそこにあるということです。ですから、日本人が棒立ちになって、「今から科学論文の発表を行います」とガチで始めると聞く人も、何が始まるの?と最初は背筋が伸びますが、その調子でずっと話されると疲れて10分もたないでしょう。疲れます。その結果、渡したかったキラーメッセージというのも結局落としてしまうことになる。
例えばプレゼンの最初に、人のアテンションをひきつけるような面白いスライドを出しますよね。その時に、今から発表を行います!というような堅苦しい話し方だとだめでしょう。
フレンドリーとは何ぞや?的なものを、聴く人に与えるには、現地で仲良くなった友達と一緒にパブに行ったり、理想的には異性の友人を作って食事に行ったり、好きだの嫌いだのという会話をしたり、電話やメールでメッセージを交わしたりする。そういう日常生活の経験が、僕にとってはプレゼンテーションの応用の中に生きている気がします。特に、恋愛感情のやり取りは「どうにかして自然に、嫌な思いをさせずに、正確に伝えたい」というモチベーションが段違いに違うという事で、すごく記憶に残るという事でしょうか。
アカデミックな会話とはちょっとイメージが違うかもしれません。が、きっとアカデミアだけで英語を捉えて組み立てていこうとすると、魅力あるプレゼンテーションにはなかなかなりにくいように思います。
僕のおすすめは、TEDの視聴を習慣化して、1日に2本も3本も見ることです。アプリでも相当いい話が詰まっています。
つまりは人が話す表情や身振り、間の使い方とか本当に真似したくなります。印象的なプレゼンテーションをたくさん聞いて、それをまねることです。大好きなミュージシャンのステージパフォーマンスをパクりたくなるような気持ちに似てるでしょうか。

■そうすると、学術英語に関する発表の授業があり、そこでどんなに専門的なことを学んでも、発表の場では日常生活の自分が出てしまうということですか?
そういうことですね。日本語で話す時も、日常生活の自分の感性がさらけ出た時の方が、多分聞いている人たちも僕の人となりを通してプレゼンテーションの内容を聞いてくれるので、受けがいいように思います。治療や倫理について話をする時も、人間性を感じ取りやすくなるのかもしれません。
私たちにとって英語は外国語なので、英語を話す人とつながるためのツールだと思います。だから、やはり適宜ブラッシュアップしていかねば意思の疎通や共通理解もうまくいかなくなる、と思います。それで言葉を使う際に努めようと思っている姿勢としては自分の人間のそのままを、ありのままをプレゼンテーションの中に生かす。そうして初めて、日本人の私も、ああ、世界で コミュニケーション ができていると感じ取れるように思っています。

■ただ準備した原稿を読んでそれを発表するだけだと、人間性は伝わらない。その後の、例えば研究者同士ネットワークなどにはつながっていかないということですか?
そうですね。日本人同士だと、顔つきや仕草からであっても真面目な研究者だろうなという印象を通して理解してもらえることもありますが、外国語を話し、かつ発表の内容に魅力を感じさせることが出来ないと、よほどのことが無い限りその人とフロアで直接話したいとは思わないですよね。
ノーベル賞をお取りになった山中教授や、MITメデイアラボの伊藤穣一氏の話を聴いていると、もちろん研究内容のお話そのものも素晴らしいのですが、立ち振る舞いや表情、仕草を通して発表の中に「人間」がとても感じられる。だから、プレゼンテーションをよくしたいのであれば、英語や学問を学びながら、その上で日常生活の中で自分自身の喜怒哀楽を英語に繋げていく、自分自身の性格や人間を発表に著すことが出来るようにする、などのことが理想ではないでしょうか。
これも英語学校の教師から教わったのですが、非英語圏からの移民の人たちが、語学学校において英語を学んでいく過程の調査研究によれば、飛躍的に英語力を付ける生徒の背景に「飢餓や貧困」が存在していたということでした。それはショックでした。明日の保障もなく生きていかなければいけないという人達にとって、交渉は死活問題であって、細かい文法的な間違いを押しても、英語を話さないといけない訳ですから。動詞にsがついていようが、または関係代名詞をどうするか、そういうことを深く長く考えることはない。
非言語のコミュニケーションは限界があり、いつかはどんな人間でも、不慣れな言語を理解し記憶して、やがて使いこなすようになる。その迫力を用いて、多くの非英語圏の移民が英語力を獲得していく姿を想像し心打たれ、自分はひ弱だと思いました。欲しいものは欲しいと言わないと手にすることは出来ないと思うようになりました。
話しが少し大きくなりましたが、例えば国際学会の経験が無い人は十分な準備と正確さで人の心を捉えることが出来るでしょう。反対に、練習をやらずにぶっつけ本番で、読み原稿を読みながら発表をやっても、おそらく人の心を捉えることは出来ないと思った方が良いでしょう。
だけど、いつか人の心をつかむ英語のプレゼンターになりたいと思っている人達にとっては、そういうふうに組み立てていけばいいかなとは思います。

■わかりました。若手の研究者の方々はどうしていけばよいか悩んでいると思いますが、いかに自分のモチベーションを上げて英語に取り組んでいくか、まずその姿勢や環境面から整えていくところは大変参考になると思います。
僕が今まで使って一番よかったなと思う試験は、やはりTOEFLですね。
TOEFLテストでいいスコアを取ることは、日本人の学生にとっては絶対必要な条件です。
TOEICはビジネスシーンでの会話を材料にした試験ですから、ビジネスマンだったらTOEICでもいいのかもしれないですが、TOEICは特に日本や韓国において重宝される傾向にあること、TOEICスコアは、臨床の留学や教育機関での研究留学を行う場合にはまず役に立たないと思います。
TOEFLで良いスコアを取るということは本当に大切です。日本語で勉強してもいいですし何のやり方で勉強してもいいですが、まずとにかくTOEFLでいいスコアを取ることが英語力を身に付けるための一番の方法の様に思います。確かに語彙はアカデミックですし、くだけた会話は少ないので一般会話向きではないですが、教師への質問の仕方や学生同士のデイベートの方法など、英語を使った論理立てが使えないと解決できない問題も多く、深い学習が必要になるからです。
TOEFLで、全てのセクションでいいスコアを本当に取れるようになってきたときには、今まで話してきたことが、早く上手に使えるようになってきているはずなので、毎日の会話も楽しくなり、読んだり書いたりもストレスが減り、むしろ「漢字」を追うことが辛くなったり、本屋でタイトルを見るために首をかしげなくてもよくなったりしていると思います(英語の本は背表紙が下から上に横書きになっているので、最初のころは首を左にかしげて読んでいて、首が痛くなっていました)。
TOEFLでいいスコアをコンスタントに取れるようになってくると、飛躍的に英語力はついていきました。しかし、僕の場合は病院の中での会話という大きな壁がまたありました。専門用語に次ぐ専門用語、それからスラングと言ういわば業界用語などについていかないといけなかったんです。患者さんを診察したり手術したりする緊張感や倫理観を必要とする際にも会話が存在していましたから、全く別の次元でした。やっぱり「何も話せない、恥ずかしい」という負の感情から始まり、手取り足取りしてもらい、ひとつひとつ小さな石ころを積み上げるようにして毎日仲間に入れてもらいながら、覚えていきました。
だから、留学のために必要なTOEFL点数を取っていても、それは単に「入国してうちの国の大学で勉強をしてもいいよ」という許可を得たという事です。一人では何もできない。振り返れば、解らない私の英語を理解してくれようとした同僚、恩師、患者さんやそのご家族の理解と協力。また病院を出たら、やっぱり下手な英語をわかろうとしてくれた行きつけの店の店主や、共に週末など遊んでくれた友人、暖かく迎えてくれた韓国系カナダ人、日系カナダ人教会の友人たちの優しさ。数えきれないほどのトロントに住む人たちの暖かさ、そういうものがあって初めて、何とか言葉を伝えるような形にしてもらったのですね。やはり英語はそのためのツールなんですが、されどツールです。
恥をかいたり悔しい思いをしたり、例えネガティブな感情があっても、諦めないで付いて行けば、いつかは確かに英語が強くなっていくはずです。でも一人では決してうまくならないですね。そこには多くの人間の関わりがあります。だからそれはもう自分に正直にやっていくしかありませんね。

■わかりました。大変参考になります。ありがとうございます。次に、私ども英文校正や翻訳の会社は原稿の添削や翻訳をするサービスをしていますが、その他にどのようなサービスがあれば英語のスキルの上達に貢献できると思いますか。
今のエナゴさんがやってらっしゃるサービスで素晴らしいところは、1つはまず時間が速い。とにかくレスポンスが速いということ。それから、内容が確かである。エディターメッセージが、ちゃんとしている。そして添削されたものの、例えば吹き出しなどにコメントが全部書いてある。指摘された点についてきちんとワードで示してもらえるとか。今のところもう、これ以上何かしてくれと思ったことはあまりないですね。
でも価格がやはり高くなるし、そこをどうするかですね。それでもそのぐらい当然かかるものであれば科研費で使ってでもと思う時もあるし、自費ででもお願いしたいと思う時もあります。
お金は僕らにはわからないですが、今のサービスの内容は、基本的にはこれもやってほしいと思ったことはあまりないですね。

■私どものサービスがお役に立てているようでしたら、本当にうれしいです。
実際お手伝いして頂いた論文が何本も雑誌にアクセプトして頂いているので、すごく感謝しています。
こんな苦労話でも参考に面白いと思ってくれる人が1人でも増えればそんなに嬉しいことはないですね。

■どうもありがとうございました。


 

【プロフィール】

荒木 尚(あらき たかし)
日本医科大学 救急医学教室 講師

1977年-2005年佐賀医科大学卒業
1999年-2005年日本医科大学救急医学教室
2001-2005年 トロント小児病院脳神経外科へ留学
2009年-2005年国立成育医療研究センター脳神経外科
2011年-2005年日本医科大学救急医学教室(~現在)

 

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