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【聖マリアンナ医科大学】 中村治彦教授 インタビュー (後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。四回目は、聖マリアンナ医科大学の中村治彦教授にお話を伺いました。インタビュー後編では、学生の方や若い研究者が英語を上達させるコツについてお話くださいます。

■学生さんや若手の研究者の方が英語論文を書けるようになるにどうしたらよいでしょうか。
英語が苦手な人が英語で論文を書くのは、ものすごく大変なことだと思います。まずは英語論文を読むことから始めて、構文や用法に慣れることから始めるのがよいかもしれません。若い医局員が初めて英語論文を書くときは、まず自力で書いてもらい、われわれ指導医が明らかに誤っている箇所や文意の通らない部分をチェックした後、英文校正業者に提出して論文校正に慣れたネイティブに見直してもらいます。こうして訂正された文章を見て、英語論文の決まりごとや、言い回しを身に付けていくことが大切です。一度間違えたことは忘れないようにするのは当然ですが、1回2回ではとても身に付くものではありません。私も何十回となく繰り返す中で、ようやく少しわかってきたところです。

■校正に出して結果が返ってきて、それを次に生かすということですね。
それが一番重要だと思います。校正してもらったことを自分のものにして、次に書くときには気をつける。これを繰り返して、少しずつ上達するのだと思います。とはいえ私も、今に至るも校正に出すとたくさん直されて返ってきますけどね(笑)。
ただ、もちろん英語の表現も大事だとは思いますが、もっと大事なのは論旨、ロジックです。理論の筋道が間違っていないということが一番重要です。日本人は論理的思考に弱いと感じる時があります。これは日本語がそもそも情緒的な言語であるためかもしれません。論理の筋道がしっかりできていないと、いくら文章だけ何とかしようとしても何ともなりません。

■全体的な論旨を明確にしたり、伝わりやすい構造に変えたりというところを先生が指導されることはありますか。
ありますね。その論文が論理的かどうかは、やはり専門知識がないとわかりませんから。論文の論理性を確認した後に英文校正に出して、著者が言わんとすることが英語としてきちんと通じるかをチェックしてもらう、という流れです。

■先生で指導されることと業者に任せることを使い分けるということですね。
何度も英文校正を利用しているうちに、校正者によってその人の癖や嗜好があることもわかりました。ある校正会社に出して訂正された論文をまた別の会社に出したことがありますが、また多くの箇所が校正されて返ってきました。英文校正も正解は一つではないということですかね。

■確かに、作業者によって仕上がりが変わってしまうことはあります。難しいところです。
論旨を汲み取ってうまく直してくれる人がいればいいのですが、論文の内容まで踏み込んで理解できる人を見つけるのはなかなか難しいですね。多くの論文を校正した経験豊富な人がいいと思います。

■発表についても指導されたりしますか。
文章については一応指導できますが、発音についてはやはり難しいですね。プロが校正した文章を、ネイティブが読み上げた音声ファイルとして納品していただけるサービスがあると大変助かるのですが。

■弊社にはナレーションサービスというのがすでにありますので、研究者の方々の練習用にそういったサービスを提供できると、もしかしたらお役に立てるかもしれません。
それはいいですね。ネイティブが読み上げてくれたものがあれば、それをお手本にして一生懸命練習できます。ただそれでも、質疑応答は難しい。質問者の質問内容を日本人発表者が理解できず、質問者が何度も繰り返すうちに諦めてしまう場面を何度も国際学会で見てきました(笑)。

■そこが一番難しいとよく聞きます。
文章で見ると、簡単な内容でも、英語の聞き取りはなかなか難しいです。

■先生お薦めの英語学習法はありますか。
みんなやっていることとは思いますが、最近はインターネットが普及しているので、自分で書いた英文を検索してどれくらいヒットするかを調べ、言い回しが一般的なものかどうかを確認しています。日本語からの発想で書いた英文だと全然ヒットしないことも少なくありませんが、ヒットの数が数万件となればそれは英語として一般化している表現ということです。長文をそのまま検索して、それがそのまま見つかることもありますし、語順などの並べ替えでヒット件数が増えれば、どこをどう修正すればより英語として一般的な表現になるかもわかるので、すごく便利です。

■日本人の研究者が英語力を鍛えるには、何が一番有効だと思いますか。
留学して、英語を日常的に使う環境の中で生活して、そこで論文を書いたり発表したりするのが一番理想的だと思います。できれば、留学前に日本で英会話だけでも基礎から十分に学ぶ機会がもてれば、一番いいですね。留学したときに自力で書きあげた英語論文をアメリカ人のボスに出すと、最初の文章はあとかたもなく全部書き換えられてしまった経験があります。日本人が書いた英文では、文意は通ってもジャーナルに採用されるレベルにはならないと判断されたのでしょう。ボスは忙しい人だったので、いちいち赤線で修正して、どこがどう悪いなんてことを教えてくれる時間はなかったのだと思います。ですから留学するにしても、あらかじめ日本で英文校正会社を利用するなどして、いろんな英語表現に慣れて、少なからず下地は作っておいたほうがいいと思います。

■日本でしっかり土台を作らないと、せっかくの留学の機会も活かせないということですね。ご経験からいろいろなお話をお伺いさせていただき、本当にありがとうございました。


【プロフィール】

中村 治彦(なかむら はるひこ)
聖マリアンナ医科大学 呼吸器外科部長・呼吸器病センター長

1975年3月 東京大学理学部生物学科 卒業
1981年3月 東京医科大学医学部医学科 卒業
1981年6月 東京医科大学第一外科 入局
1985年3月 東京医科大学大学院博士課程 修了
1991年12月 東京医科大学第一外科 講師
1992年4月 米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部 留学
2004年3月 東京医科大学第一外科 助教授
2004年4月 国際医療福祉大学熱海病院 呼吸器外科 教授
2008年4月 聖マリアンナ医科大学 呼吸器外科 教授
2008年4月 現在に至る

 

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