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【聖マリアンナ医科大学】 中村治彦教授 インタビュー (前編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。四回目は、聖マリアンナ医科大学の中村治彦教授にお話を伺いました。インタビュー前編では、ご自身の経験を交えながら英語上達法についてお話くださいます。

■先生の専門分野は何ですか。
外科学、特に呼吸器外科です。大学で、診療、教育、研究に携っています。
■英語での論文執筆や学会発表などで苦労された経験はありますか。
もちろんあります。私が外科の医局に入った1980年代初めは、英語で論文を書いたり国際学会で発表したりする機会は少なく数年に1回あるかないかでした。しかし、医学の世界のグローバル化が進むにつれて、英語で論文を発表することが非常に重要になってきました。以前は、英語で論文を書くといっても現在のようには英文校正会社がなかったので、自分で書いた英語を直してもらうのに苦労しました。たまたま私がいた大学ではネイティブスピーカーの先生が1人いらっしゃったのでチェックをお願いできましたが、それだけではなかなかうまくいかないことも多かったですね。
私は20年ほど前に、アメリカのサンフランシスコに基礎医学の研究で留学経験があります。そこには、ヨーロッパから留学して英語論文をたくさん書いている有名な研究者もいましたが、彼らも必ずネイティブチェックを頼んでいました。私たち日本人よりはるかに英語に馴染みがある彼らでさえ、英語論文を書くときにはチェックを受けるのが当たり前ということをあらためて認識しました。多少英語が得意なていどの日本人が自分の力だけに頼って論文を書くのでは、たとえ研究内容が優れていても、文章の体裁が整っていないために内容がうまく伝わらずリジェクトの憂き目にあうことが、身に染みてわかりましたね。
■英語に慣れている海外の研究者の方々でも、チェックを受けなければいけないんですね。
前出の研究者はフィンランド出身のご夫婦で、ScienceやPNASといった高名な雑誌に論文が掲載されていました。日常の英会話も流暢に話していたし、たくさんの英文論文を発表していた人達だったので、この人達はもう自分で書いた論文をそのまま投稿しているんだろうなと思っていたんです。ところが、ある日そのことを質問してみたら、「とんでもない。投稿前に英文のネイティブチェックを受けるのは当たり前だよ。そこが一番大事な点だ。」と話していました。これでは、英語が不得意な日本人が苦労するのは言うまでもありません(笑)。
■英語で論文を書くとき、何か参考にするものはありますか。
定式的な言い回しなどは、ネイティブの研究者が書いて名の通った雑誌に掲載された論文を参考にすることがあります。本屋に行くと、英語論文の書き方指南書のような本がたくさん出版されているので、いくつか買って読んでみましたけど、本によって言っていることが違っていたり、内容が現代の動向とマッチしていなかったりで、あまり役にたったと思われるものはなかったですね。
■英語での発表についてはいかがですか。
口頭発表の場合ももちろん英文をチェックしてもらいますが、日本人にとっては特に発音が大きな問題ですね。イントネーションを間違えると全く理解してもらえません。
■ご自身で何度も練習して、別の先生に聞いてもらってアドバイスをもらうこともありますか。
ネイティブの先生がいたときはその方の前で原稿を読んで、発音を直してもらったりしましたが、今はそういう機会がないので、辞書を引いて発音記号に頼るしかありません。気を付けなければいけないのは、薬品名など日本語化している英語の発音が、実は全然違うことがあることです。日本語で「キシロカイン」と呼ばれている局所麻酔薬がありますが、ある国際学会で英語で発表した際にそれを「キシロケイン」と発音していたら、実は「ザイロケイン」が正しかった、ということがありました。
よくある間違いの例として癌「carcinoma」という英語があります。ドイツ語が医学用語で隆盛だった時代の名残で日本人の中には「カルチノーマ」とドイツ語風に誤って発音する人がとても多いのです。ドイツ語で癌はKrebsで、英語では「カルシノーマ」と発音しなければいけません。今でも国際学会で胸を張ってカルチノーマと発音している若い日本人医師を数多く見かけます。このようになかば日本語化している似非英語は誤りに気づきにくいので、医学用語に精通したネイティブに指摘してもらうことが特に重要だと思います。


後編では、学生の方や若い研究者が英語を上達させるコツについてお話くださいます。

【プロフィール】

中村 治彦(なかむら はるひこ)
聖マリアンナ医科大学 呼吸器外科部長・呼吸器病センター長

1975年3月 東京大学理学部生物学科 卒業
1981年3月 東京医科大学医学部医学科 卒業
1981年6月 東京医科大学第一外科 入局
1985年3月 東京医科大学大学院博士課程 修了
1991年12月 東京医科大学第一外科 講師
1992年4月 米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部 留学
2004年3月 東京医科大学第一外科 助教授
2004年4月 国際医療福祉大学熱海病院 呼吸器外科 教授
2008年4月 聖マリアンナ医科大学 呼吸器外科 教授
2008年4月 現在に至る

 

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