14

【東洋大学】川口 英夫 教授インタビュー (後編)

各大学の研究室に訪問し、研究者たちにおける英語力向上の可能性を探るインタビューシリーズ。十四回目は、東洋大学の川口英夫教授にお話を伺いました。インタビュー後編は「現場に放り込む」という、獅子の子落としを想起させる学生や若い研究者への指導方法についてのお話です。


■ ご指導されている大学院生・研究者の方々の英語論文を添削することもありますか。
あります。昔の私と一緒で、最初は英語になっていないことが多いですね。日本語と英語は全く異なります。日本語の文章構造のまま英語を書こうとすると、全く英語にならない。とはいえ、いきなり英語で考えろと言っても無理なので、まず「何を言いたいか日本語でシンプルに言ってみなさい」と尋ねます。それが固まってようやく、次は英語でどう表現するかというように、段階を踏んで添削します。
■ 口頭発表の練習もされますか。
口頭発表はあまりしませんが、最近は学会でポスター発表の重要性が増してきているので、その練習はさせています。ポスター発表では、とにかくまずは相手を捕まえないといけません。ですから、30秒以内でざっと説明するバージョンや、その後じっくり説明する3分間バージョンなど、いくつかのパターンを作らせます。みんな結構まじめに練習して本番に臨みますが、練習以外の質疑応答になると崩れてしまいます。でも、そこもなるべく本人にやらせます。英語が聞き取れずちゃんと返答できないのがどれだけ悔しいか、そういう思いをしないと、次につながりませんからね。
■ 質疑応答はどのように鍛えればいいでしょうか。
場数を踏むしかないと思います。ただ、学生たちにはいつも発表の前に、相手が必要だと思えば、どんな下手な英語でも一生懸命聞いて、必要な情報を得るまで粘るものだと話しています。本当に20分も30分もポスターの前で粘る人がいるんですよ。それは、その発表にそれだけの価値を見つけているということです。そうなれば、もう英語の上手下手という次元を超えてしまいます。通じるまで相手は何回も質問してくるし、こっちも何回も答えていればそのうち相手が何を訊きたがっているのか分かってくる。だから、自分の発表に価値があることを最初の短いつかみで伝えなければいけないし、研究にそれだけの価値がなければ、発表したところで相手にされない。結局はそういうものだと考えています。
■ 若手の研究者や学生の皆さんが英語力を鍛えていくためには、どういった方法が有効だと思いますか。
現場に放り込むのが一番だと思います。留学するのが一番早いとは思いますが、留学するにしても、そのためには国際会議などで発表して認めてもらわないといけません。実は私の研究室では、学部4年生の初めての学会発表として、いきなりアメリカのニューロサイエンスという学会に参加させることもしています。初めて参加する学会が国際会議で、そこで4時間ずっと張りついてポスター発表をする。英語での発表がどれだけ大変か、死ぬほど身に染みてわかるわけです。でも不思議なもので、決まっていた就職を辞退して、もっと研究したいと言って大学院に進学した学生もいますよ。
■ 日本の学会で学部生の方々がポスター発表や口頭発表をするというお話は聞いたことがありますが、海外の学会でというのは初めて聞きました。
先ほども話しました通り、発表に価値があれば聞きたい人はどんな英語でも聞いてくれますから。それなら、中身がありさえすれば4年生でもいいと思っています。
■ 学生さんには非常に貴重な経験になると思います。
英語の話から少し逸れますが、学部生らを連れて行くのは北米神経学会のニューロサイエンスミーティングというところで、参加者が3万人ぐらい、発表が1万5000件ぐらいあります。幕張メッセなんて全然比べ物にならない、端から端へ歩くと10分ぐらいかかるような大きなコンベンションホールで、ポスター発表が同時に1500件ぐらい行われています。
■ 世界中から研究者が集まるということですね。
そうです。人も情報も皆そこに集まります。その中で、優れた研究発表のところには人があふれている。3万人が競争しているわけです。その迫力を肌で感じると、研究がどれだけ大変で、でもどれだけ楽しいかということが実感できるんですよ。その学会に行くとかなり疲れますが、やっぱり毎年行っています。そしてこういう話をすると、多くの学生は行きたいと答えますね。英会話の授業を受けるいい動機付けにもなるし、講師も事情を知っていますから一生懸命鍛えてくれます。
■ 目標があって、周りに英語を学べる機会もあるというわけですね。すごく魅力的な環境だと思います。研究室に留学生の方はいらっしゃいますか。
学部に最近ようやく数人入学するようになりましたが、未だ研究室配属にはなっていません。当然彼らは文化が違いますから、日本人同士のような暗黙の了解は通じません。ディスカッションをして、お互いの主張を擦り合わせる必要が出てきます。でも、それが世界の標準です。そういうことが学べるので、留学生が入ってくれることは大変良いことだと思います。
■ 私どものような英語を扱う業者に、今後どのようなサービスを期待しますか。
インド出身でもともと理系の先生が、大学のイングリッシュラウンジという部屋に週1回夕方に常駐して、英語の論文などをマンツーマンで添削してくださっているのですが、やはりネイティブの方が目の前でディスカッションしながら英文添削してくださるというのは、ものすごく良いと思います。
■ 最後に、学生や若手の研究者の方々へのアドバイスがあればお願いします。
私はこの歳になって英語を勉強していますから、やはり苦労しています。若いときに英語を勉強すれば、苦労しないとは言わないけど、どれだけ早く身につけられるか、どれだけ将来の可能性を開くことができるかということをよく理解してほしいですね。私の発音はもう多分直らないし、直す気もあまりないのですが(笑)、本当はもう少し聞きやすい英語を話せるようになればと思って、年齢が3分の1くらいの学生らに交じって勉強しています。私のそんな姿を見て「誰でも勉強するんだ」という励みのように彼らも感じてくれているみたいです。いくつになっても学ばないといけないよね、と伝えられればいいなと思います。結構説得力あるみたいですよ(笑)。


 

【プロフィール】
川口 英夫(かわぐち ひでお)教授
東洋大学 生命科学科 脳神経科学研究
2009年04月 – 現在 東洋大学(教授)
2004年07月 – 2011年03月 (独)科学技術振興機構(統括補佐/グループリーダ 兼任)
1998年04月 – 2009年03月 (株)日立製作所 基礎研究所(主任研究員/ユニットリーダ)
2001年11月 – 2006年03月 東京工業大学(客員助教授 兼任)
1985年04月 – 1998年03月 (株)日立製作所 基礎研究所

 

X

今すぐメールニュースに登録して無制限のアクセスを

エナゴ学術英語アカデミーのコンテンツに無制限でアクセスできます。

  • ブログ 560記事以上
  • オンラインセミナー 50講座以上
  • インフォグラフィック 50以上
  • Q&Aフォーラム
  • eBook 10タイトル以上
  • 使えて便利なチェックリスト 10以上

* ご入力いただくメールアドレスは個人情報保護方針に則り厳重に取り扱い、お客様の同意がない限り第三者に開示いたしません。

研究者の投票に参加する

研究・論文執筆におけるAIツールの使用について、大学はどのようなスタンスをとるべきだと考えますか?