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研究の再現性に影響する5つの要素

科学研究がうまくいかない時、何が原因なのか?この疑問に直面する研究者は多いことでしょう。研究室主催者(Principal Investigator: PI)と研究デザインについて話をした際、実験が再現できること、そして同じ結果が示せることがいかに重要かの説明を聞いた方も多いはずです。研究者は、実験計画を管理し、実験自体を成功させ、結果を示します。実験を繰り返して結果を分析した時に、最初の実験結果と同じ結果が再現できないとしたら・・・実験で何か間違えたのか、あるいは研究自体に何らかの問題があったのかと考えるかもしれません。ここでは、研究の再現性(Reproducibility)とは何で、研究に対してどのような影響を与えるものなのか、そして実験を繰り返し再現できるようにすることで、どのように研究の質を向上できるのかを取り上げていきます。

研究の再現性とは?

研究の再現性とは、研究の独自性を決定する大きな要素のひとつであり、ある研究と同じデータと手法を使って実験を行えば、元の研究と一致した結果が得られることを意味します。研究者は、ある結果を生み出した実験を繰り返し、同じ結果を得ることで、新しい発見の妥当性を確認します。さらに、該当分野の他の研究者も、元の結果に似た結果を生む同じ実験を繰り返すことができるのです。

有効な実験と結果を生み出すことは、科学界においてより確実で信頼できる科学的発見を構築し、該当分野の将来の調査研究のためにしっかりした文献に発展させるのに役立ちます。しかし、重要な研究結果を示すものの、結果が再現できない研究も多々あります。このような研究は、研究者たちを失望させ、その研究のリサーチクエスチョン(研究課題)や仮説は妥当なのか、そのリサーチクエスチョンに対しては別の方法を試すべきではないか、という疑問を生じさせることになります。

科学研究の再現性は、挑戦的かつ議論の的とされる課題ですが、研究機関や資金提供者も解決を試みています。米国細胞生物学会(American Society for Cell Biology:ASCB)は、基礎研究の再現性を高める方法とベストプラクティスを特定し、再現性に関するさまざまな用語を以下のように説明しています。

直接的再現 – 以前観察された結果を再現するのに、元の実験設計・条件を用いる。
分析的再現 – 元のデータセットを再分析することで、一連の科学的発見を再現する。
体系的再現 – 発表された研究結果を、別の実験条件で再現する。
概念的再現 – 別の実験条件の評価を行うことで、現象を検証する。

再現性に関する課題

研究が再現できない原因は、ひとつだけではなく、さまざまなものが考えられます。研究の再現性の欠如は、科学的成果を挙げる効率、科学の進歩、およびリソース(資質)の利用に悪影響を与えます。さらに、科学的研究に対する一般の人々の信頼にも影響します。これらの問題を定量化するのは困難ですが、不適切な研究デザインによって無駄になる支出は推計されてきました。また、再現できない研究に力を注いでも、正しくない結果しか得られず、その研究は発表できずに終わることになります。

科学研究の再現性を損なう5つの原因

1. 生データおよび方法論の不備

研究者がある研究の結果を再現するには、元データ、手順、および鍵となる研究材料が必要です。生データが入手できず、科学的な方法論がわからない場合、研究の再現性は大きく損なわれます。データの共有に関する問題を軽減するには、データリポジトリやバイオリポジトリなどの仕組みを利用できるようにすべきです。

2. 研究に使う生物材料の不備

生物材料の入手経路がわからない場合、研究の再現が困難になる可能性があります。さらに、汚染されている生物材料を知らずに使った場合、研究結果に大きな影響を及ぼす場合があり、そうした実験から得られたデータの再現性は低下します。初代細胞培養(PCC)に関する研究では、連続継代培養(シリアルパッセージング)されることによって、遺伝子発現、増殖速度、遊走において再現できない結果となりかねません。

3. データを分析する知識の不足

科学的研究では複雑なデータセットが生成されます。これらのデータセットは、最良の統計フォーマットで分析・表現されてはじめて研究に使えるものとなります。しかし、多くの研究者には、これらのデータを正しく分析・解釈するための知識やツールが不足しています。このことにより、結果の解釈を誤り、研究の再現性が妨げられることになるのです。

4. 不適切な研究手法

研究室での作業の不備は、研究デザインの不備につながりかねません。研究室での実験デザインは、信頼できる研究を行う上で不可欠です。不適切な研究あるいは実験は、結果に著しく影響します。明確な実験パラメーターや方法論のない研究デザインでは、再現性の低下が懸念されます。また、不適切な研究手法は、生物材料の汚染につながる恐れがあります。

5. 否定的な結果の過小評価

科学的研究は、肯定的な結果だけを取り扱うものでもなければ、仮説が正しいことを証明するだけのものでもありません。否定的な結果を説明することも必要です。研究者は、新しい発見を発表することで評価されますが、否定的な結果を発表することは奨励されていません。実際、否定的な結果を発表するためのプラットフォームに関する若手研究者の知識は限られています。否定的な結果を発表するように意識することで、研究者の努力を高め、他の研究者が再現の難しい研究を繰り返すことを避けられるでしょう。

研究の再現性を高める最良の方法

1. オープンサイエンスの活用

オープンサイエンスにより、科学論文や発表されたデータ、さらに共同研究にアクセスできるようになっています。オープンサイエンスが包括的に意味するものには、ソース情報、共同研究、公開査読、教育リソース、研究費のクラウドファンディングなどに関する情報を提供することを目指す取り組みが含まれています。科学文献と生データがより広く使えれば、研究者が信頼できる再現可能な結果を導き出すのに役立つでしょう。結果として研究の再現性が高まることになります。

2. 検証済みの生物材料の使用

検証済みの生物材料を使うことで、データの再現性を高めることができます。表現型と遺伝子型の特徴が確認できる細胞株や微生物を使えば、実験結果を改善することができますし、汚染されていない生物材料を使えば、信頼できるデータが得られ、再現性を高めることにつながります。

3. 統計的手法と研究デザインに関する訓練の実施

研究者は、統計的手法を意識し、統計分析のベスト・プラクティスを厳守しなくてはいけません。さらに、研究者は、実験を適切に計画し、構造化する訓練を受けるべきです。これにより、実験の統計データの妥当性と確実性を高め、科学研究の再現性を高めることができます。

4. 方法と方法論を徹底的に説明する演習

他の研究者が結果を参照して再現できるように、詳細な方法と方法論を提供することはよい演習になります。また、研究者は、使用した機材・機器、採用した基準、複製回数、結果の解釈、統計分析といった実験パラメーターに関する目的も報告すべきです。

5. 否定的なデータの発表

多くの研究機関で、仮説を支持しない否定的なデータの発表は奨励されていません。さらに、研究者は、実験をデザインし、仮説に一致する結果が得られるまで研究作業を続けるよう勧められます。しかし、否定的なデータを発表すれば、関連する研究から得られた肯定的な結果の解釈に役立ちますし、研究者の努力と否定的なデータも無駄になりません。

研究の再現性は、研究が信頼できるかを見極める指標のひとつです。科学界は研究の再現性の担保を目指しており、研究者たちには結果の正確さに対して責任を負うよう求められています。さらに、資金提供者・出版者・倫理委員会は、再現性の欠如についての認識を高め、若手研究者がより良い研究を実施するのを推奨する必要があります。

再現性は科学研究における信頼度や正確さを示すものであり、他の研究者によってその研究が再現できるかどうかは、その研究が将来の研究の礎となり得るか、その分野に貢献しうるかにおいても重要な指標なのです。再現性の重要性を見直し、ご自身の研究の再現性を高めることにお役立てください。


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