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コロナ禍での研究再開に向けたチェックリスト

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックは、学術界に予期せぬ大混乱をもたらし、学術出版システムや実験室における作業プロセスは大きな変更を余儀なくされました。世界は徐々にこの状態に適応しつつあり、研究活動も再開され始めています。しかし、感染を防ぐために物理的な距離をとらなければならないならない中、研究者の間の競争力を保ちながら、研究の生産性を維持することについて懸念が高まっている状況です。研究および研究室の管理に関するあらゆる物事を喫緊に再考する必要性に迫られていると言っても過言ではありません。

COVID-19パンデミックの状況下でも研究室での作業を続けていますか?もしくは、自宅待機で研究が中断したままですか?エナゴはパンデミックにおける研究室の再開と機能についての世界的な調査「Enago Global Survey on Research Labs」を行っています(期日2021年1月31日まで)。回答所要時間は3-5分程度ですので、よろしければご参加下さい。

前例のない中断状況から円滑に研究活動を再開させたいと考えているのであれば、この記事の下部に掲載したチェックリストを参照して準備を進めることをお勧めします。研究再開に向けた前向きな計画を立てるのに役立つとともに、COVID-19パンデミック対策にも役立つことでしょう。

あなたの研究室はコロナ禍でも働ける環境ですか?

研究者は自分の研究室に戻って研究を再開したいと切望していることでしょう。出勤時間をずらした作業スケジュールを組むなどして段階的な再開に向けた検討を進めている研究室もあります。研究室での作業を再開するには、十分なスペースが確保された上で、安全基準に準拠していることが重要です。

まず、重要度や状況に応じて優先すべき研究や実験を特定することが不可欠です。指導教官とシニアラボマネージャーらは、研究業務のどの作業が自宅からでも効率的にできるかを慎重に評価しなければなりません。作業を振り分けることによって、社会的距離(ソーシャルディスタンス)を保ちつつ、自宅では作業できない研究者が研究室で作業できるようにします。研究責任者(PI)は、久々に研究室での作業を再開する際に感じるかもしれないストレスや不安を念頭におきつつ、作業スケジュールを決めていく必要があります。コロナ禍のような不確実な状況下では、研究メンバーやスタッフの減少による遅延を防ぐためにも慎重に研究計画を作成しておくことが重要です。また、ラボマネージャーは、研究室のメンバーが必要に応じてサポートを受けられるように、メンバーが担当する作業やクロストレーニング(研究スキルを高めるための補助的なトレーニング)の割り当てを再考慮することが求められるかもしれません。

さらに、ロックダウンや移動制限処置がサプライチェーンにも多大な影響を及ぼしていることにも注意しておかなければなりません。特に、医学やヘルスケア関連の研究は厳しい状況に置かれているかもしれません。入手が難しくなる試薬や消毒薬、個人用保護具(PPE)といった消耗品、そのほかの実験機器を計画的に入手することが賢明です。

研究者は、予期せぬ緊急事態によって再び研究室での作業実施に規制がかかる場合に備えて、あらゆる研究再開手順をどちらの状態にも対応できるように心に留めておくべきでしょう。

パンデミックの渦中で作業を行う研究者のための予防策

コロナウイルスは感染力が高いため、感染が収まらない現状では研究室および研究者を感染から守り、安全を確保することが最優先です。そのためには、研究従事者全員が、感染の拡大リスクを最小限に留め、表面汚染を防ぐための処置を慎重に講じる必要があります。研究室に入室する前にコロナ感染リスクに関する適切な自己評価を行うことで、自身と同僚の安全を守らなければなりません。

ラボマネージャーは、共有の実験設備(組織培養装置、発酵装置、顕微鏡など)の利用とそれらを定期的に消毒するための適切なスケジュールを組む必要があります。研究ごとの必要に応じて各設備や機器を利用する際には、適宜、個人用保護具(PPE)を使用することが求められます。その上で、機器の使用前、使用後には、研究者が触れる頻度の高い表面を念入りに消毒する必要があります。研究施設や実験設備を使うすべての研究者が2人一組で作業を行えば(バディシステム)、毎日の作業の始めと終わりにお互いにチェックし合うことができます。研究者仲間と作業を行うことは、パンデミックの中で研究を行う際に直面している不安や心配事について話をする機会にもなるでしょう。

パンデミックの渦中で研究を行う際の注意

研究者は、自分自身だけでなく、実験研究に関わる人(被験者)や動物なども感染から守らなければなりません。動物実験や微生物研究の再開には、まだ漠然とした不安が残っており、払拭されるまでには、数週間、数ヶ月、あるいは何年もの時間を要するかもしれません。研究者は、緊急閉鎖が再び起こって研究が中断されたり、スケジュールがさらに遅れたりすることを心配しています。

研究者は、勤勉かつ几帳面に研究を進めることが求められます。このパンデミックを機会に研究室の安全指針を見直し、新型コロナウイルスへの対処方法を更新しておくべきでしょう。さらに、研究室での実験を再開する前に、重要な物資(保存可能期間の短いものや、国外から調達しなければならないものなど)が入手可能であるかも確認しておくことも大切です。また、作成した研究計画に適用されるあらゆる条件、例えば治験審査委員会(Institutional Review Board:IRB)や動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee:IACUC)からの承認といったことに対して適切に準拠しているかを確認しておくことも重要です。

遠隔作業(リモートワーク)での生産性を維持するために

通常の作業状況を再開するためにさまざまな努力が続けられていますが、科学研究の多くはいまだにリモートでの継続を余儀なくされています。その結果、データ収集や野外活動に予期せぬ遅れが生じており、研究プロジェクトの期限や将来の研究の見通しに関する懸念が高まっています。COVID-19と共存して学術研究を進める方法はあるのでしょうか?研究者は、コロナで研究が進められない時間を未完成の原稿を完成させたり、専門家とのネットワークを構築したりすることに有効活用することができるでしょう。ソーシャルメディアのプラットフォームを調べたり、オンラインウェビナーに参加することも一案です。

皆さまの研究活動がうまく再開できることを祈っています

パンデミック下で研究業務を行う際のチェックリスト

研究室での作業にあたっての一般的な注意事項

□ 研究プロジェクトの進捗に合わせて研究室で勤務するスケジュールを立てる
□ 研究室・実験室での作業時には適切なソーシャルディスタンスを確保する
□ 頻繁に手洗い・消毒を行うなど衛生習慣を徹底する
□ 定期的かつ頻繁に作業エリアの消毒を行う
□ 自分自身の発熱などの諸症状につき十分な注意を払う

動物を扱う研究で特に注意すべきこと

□ 全てのサンプルを適切な状況(冷凍など)で保管している
□ 消耗品の入手に通常より時間を要することに配慮し、実験計画に影響が出ないように余裕を持った手配計画を立てている
□ 研究員が不在の際にもサンプルが適切な状態で維持・保管されるよう、冷凍庫を含む全ての実験機器・測器がバップアップ電源に接続されていることを確認する

微生物を扱う研究で、特に注意すべきこと

□ あらゆる感染拡大を防止するため作業に従事する前後に入念な消毒を行う
□ 消耗品の入手に通常より時間を要することに配慮し、実験計画に影響がでないように余裕を持った手配計画を立てている
□ 研究員が不在の際にもサンプルが適切な状態で維持・保管されるよう、冷凍庫を含む全ての実験機器・測器がバップアップ電源に接続されていることを確認する
□ 全ての培養株・培養細胞を適切な状態で保管している

※チェクリストを印刷する際はPDFをご利用ください。


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