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論文を書籍として出版してみよう-9つのステップ紹介

論文が出来ていればそのまま書籍として出版できると思われがちですが、そんな簡単なものではありません。論文と、書籍として出版するための原稿では、構想から出版に至る過程でさまざまな違いがあります。特定の読者に向けて書かれる論文は、多くの点で書籍とは異なるのです。特定の研究分野に関する自分の論文は、より多くの読者にも興味を持ってもらえるかもしれない―という場合には、論文を書籍として出版することを検討してみるのも良いでしょう。

この記事では、論文を書籍として出版するための手順について解説します。

論文と書籍原稿の違い

まず、論文と書籍として出版するのを前提に書かれる原稿の違いを見てみましょう。論文は、研究者が何年もかけて執筆するものです。行った研究について書かれた論文は、学術雑誌(ジャーナル)に掲載・公開されます。しかし、そうした論文の中には、より多くの読者に向けた書籍として出版されるものもあります。論文を書くにも書籍用の原稿を書くにも努力と時間が必要ですし、同じぐらいの文章量を書くことになるとしても、この2つはいくつかの点で異なっています。

  1. 論文は常に疑問や仮説から書き出しますが、書籍は冒頭の文章で読者の関心をつかむ必要があります。ざっくりと言えば、論文は問いかけから始め、書籍は答えから始めるということです。
  2. 別の大きな違いは読者です。論文の内容はもちろん、形式や言葉遣いは、学術関係者が読むことを前提に書かれています。一方の書籍は、より多くの読者に届けることを意図して、学術界関係者以外の読者にも理解しやすいよう、より分りやすい言葉遣いや形式で書かれます。
  3. 役割も異なります。論文は研究活動の成果を報告するものですが、書籍は研究とその研究の社会への影響について読者に関心を持ってもらうための媒体と言えます。

論文は書籍として出版するには

論文と書籍の構成が同じになる必要はありません。そもそも論文と書籍では読者が異なるので、書籍の執筆目的と同様に書き方を変える必要があるからです。書籍を特定のコース(学科)の参考図書にする意図で作成する場合は、そのコースの講義摘要を考慮し、取り上げる題材を決めます。論文は、題材のほとんどを網羅しているかもしれませんが、既存の参考図書や資料とのギャップを埋める必要はあるでしょう。
さらに、ひとつのコースのためだけでなく、焦点が異なる複数のコースの参考図書として書籍を作成したいと考えるならば、読者のさまざまな関心を考慮する必要があります。
ほとんどの論文には、相互参照(クロスリファレンス)、脚注、参考文献一覧が付いています。論文を書籍として出版する際には、専門的すぎる学術用語を使わないようにするとともに、一般的な読者向けに文献一覧を簡略化しておきます。

論文を書籍として出版する際に考慮すべきこと

• 書籍を作成する目的と解決を目指す問題
• タイトル
• 書籍に対する需要
• 既存および可能性のある競合書籍
• 内容の索引(インデックス)
• 書籍の概要
• 各章のまとめ
• 書籍出版までの日程
• 読者に関する簡潔な説明、書籍が対象とするコース

以上すべてを念頭に置きつつ、論文を書籍として出版するための9つのステップを紹介します。

論文を書籍として成功させる9つのステップ

1. 対象とする読者を決める

論文の題材を基に、書籍の読者が関心を持ちそうな分野を絞りこみます。対象とする読者を決めて、読みたいだろう書籍の内容を考案します。

2. 書籍の目的を定める

書籍で取りあげる範囲と、その書籍が対象とする読者に与える影響についてよく考えます。その書籍は、特定の、あるいは複数のコースの教科書あるいは参考図書として使えるかもしれません。書籍がどの程度の範囲まで網羅できるかを視覚化してみましょう。その際には、その書籍が特定の地域市場に向けたものか、所属する教育機関からの関心は他の類似の教育機関からも同じように持たれると言えるか、さらに、その書籍が国内あるいは国際的な関心にも応じたものなのか、などを考慮するようにします。

3. 競合する書籍を特定する

どんな書籍がすでに市場に出ているか、それらの書籍がどんな題材を扱っているか、それらの書籍がどのような問題を解決しているかなどを調べます。さらに、既存の書籍と比べて、自分の書籍の長所がどこにあるかを自問してみてください。

4. 書籍の構成を決める

書籍を履修課程の一貫として執筆する場合は、校正を決めるにあたって履修プログラムを踏まえて書籍の構成を決めます。書籍の内容が複数のプログラムを網羅する場合は、注目すべき題材を一覧にし、教育上の基準や読者となりそうな人の関心に準じて、題材の並び替えを行います。

5. 出版社候補を挙げる

出版社候補を探し、自分が執筆しようとしているような書籍への関心があるか判断するため、どのような書籍が出版されているかを調べます。さらに、自分の研究に強い関心を持つ読者がすでに存在する場合は、自費出版するという選択肢や、オンデマンド出版という選択肢を検討することもできます。

6. スケジュールを立てる

書籍の構成に基づき、制作スケジュールを立て、作業計画を作成します。論文は多くの題材について書かれているので、書き直す必要があるにせよ、初めから研究をやり直す必要はありません。専門的・一般的に不十分な点があればそれらを捕捉するのに充分な時間がとれるように計画を立てます。

7. ライティング・スタイル(書き方)を決める

ライティング・スタイルは、書籍の種類と、対象とする読者によって変わります。論文を書く際には学術的な書き方が好まれますが、書籍は理解しやすいよう、よりシンプルに書きます。興味のある出版社とすでに話をしている場合、出版社がどのようなスタイルで書くかを決めるのを助けてくれることもあるでしょう。自費出版の場合は、競合する複数の書籍を参照して、最も人気のあるスタイルを見極め、準じた書き方をしてみましょう。

8. 図や画像を入れる

書籍の題目に応じて、さまざまな種類の図や画像を入れることによって、文意をより明確にすることができます。著作権侵害を避けるため、画像、模式図、グラフィックなどには適切な著作権表示をします。さらに、書籍全体で、図や画像の表示形式を統一しておきます。

9. 原稿を見直す

指導教員が論文の原稿を見直し、手を入れてくれたのと同じように、書籍の原稿にも校正が必要です。できれば建設的な意見を持った人にお願いしましょう。また、専門家による校正を利用することもできますし、文法校正ツールを使ってより良い文章とすることもできます。

論文を書籍にすることは、研究者自身の実績となりますが、自分の研究内容および研究成果を社会に広くアウトプットしていく手段としても有効です。自分の論文をなぜ書籍化したいか、どのように書籍化したいのか、そのために何をどこまで書き直せるか―考慮しなければならないことは多々あります。最近はオープンアクセスが進み、研究者以外も論文を読めるようにはなってきていますが、まだまだ敷居が高いのが現状です。もっと多くの読者に自分の学術的な成果を知ってもらいたいと思うのであれば、論文を書籍にして出版することを検討されてみてはいかがでしょうか。


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