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「捕食ジャーナル」で誰が論文を発表しているのか?(後編)

前編では、カナダのオタワ病院研究所の疫学者デーヴィッド・モーハーらが捕食ジャーナルに掲載された論文の「責任著者(corresponding author)」の所属国を調査した結果、最も多かったのがインド、次がアメリカであったことなどをお伝えしました。後編では、論文著者たちの捕食ジャーナルに対する認識と、捕食ジャーナルの特徴について見てみましょう。
モーハーらは、捕食ジャーナルで論文を発表した著者たちが所属する研究機関の責任者16人を選んで問い合わせのメールを送りました。「著者たちに警告した」、「対策を検討している」などと返信してきた研究機関もあれば、返信がなかったところやメールが戻ってきてしまって届かなかったところもありました。
また、彼らは著者87人にも直接メールを送ったところ、18人から回答を得られました。そのうち2人は、投稿するジャーナルが捕食ジャーナルである可能性を認識していたと答えました。4人はビールズ・リストの存在を知っていました。そして、3人が捕食ジャーナルでの採択以前に、ほかのジャーナルに原稿を投稿したことがあると答え、7人が、どのジャーナルに投稿するかについて何らかのガイダンスを受けたことがあると答えています。自分たちの研究が引用されたことがあると答えた著者も7人いました。
モーハーらは、捕食ジャーナルに論文を掲載することは「非倫理的である」と主張し、それらの問題点を「貧弱な査読と貧弱なアクセス」とまとめています。本連載でも伝えたように、適当に言葉を並べただけの無意味な原稿を投稿しても、捕食ジャーナルの編集部はそれを論文として採択してしまうことが広く知られています。また、そうした論文はパブメド(PubMed)などの論文データベースに収載されないことがあるので、見つけにくいことも指摘されています。


彼らは、捕食ジャーナルを通常のジャーナルと区別することは難しい、と指摘します。しかし一方で、彼らは以前に『BMCメディスン(BMC Medicine)』に投稿した論文で捕食ジャーナルの特徴を分析し、以下の13点にまとめたことがあります(彼らの箇条書きに筆者が加筆)。

1. その対象範囲には、生物医学的なトピックと並んで非生物医学的なテーマが含まれる。
2. そのウェブサイトにはスペルや文法のエラーがある。
3. 画像が歪んでいたり、ぼやけていたりする。未許可のものである可能性もある。
4. そのホームページは読者ではなく著者らをターゲットにした言語で書かれている。
5. そのウェブサイト上で「インデックス・コペルニクス・ヴァリュー(ICV: The Index Copernicus Value)」が宣伝されている(ICVはジャーナルなどの価値を示す指標だが、その信頼性は疑問視されてきた)。
6. 原稿の取り扱いプロセスの説明が不足している。
7. 原稿は電子メールで投稿するよう要求されている。
8. 迅速な掲載が約束されている。
9. 撤回についてのポリシーが書かれてない。
10. ジャーナルの中身をデジタルで保存するかどうか、どのように保存するかについての情報が欠けている。
11. 論文加工掲載料は非常に安い(たとえば150ドル未満)。
12. オープンアクセスであると謳うジャーナルでは、掲載された研究の著作権を出版社が所持し続けることになるか、著作権に言及していないかのいずれかである(通常のオープンアクセス・ジャーナルでは、当然ながら著者に属することが保証されている)。
13. 連絡先にプロらしくなかったり、ジャーナルらしくないメールアドレス(たとえば@ gmail.comや@ yahoo.comなど)が使われている。

少なくとも、ある程度の参考にはなるでしょう。
今年8月29日、通信社のブルームバーグが、大手製薬企業の研究者たちが捕食ジャーナルで論文を発表していることを報道しました。信頼性の低い論文のデータが、医薬品の認可の根拠や宣伝材料になってしまうのだとしたら、私たちの生命にも関わってきます。
その一方で、捕食ジャーナル問題は、日本では一部の専門家以外にはほとんど知られていないのが実情でしょう。臨床医などのなかには、罪の意識がないままこうしたジャーナルで論文を発表してしまう人もいるようです。学術界の自浄作用だけでなく、ジャーナリズムの奮闘が望まれます。

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