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学術研究におけるパイロットスタディの有用性

新しい研究プロジェクトに取りかかる時は、ワクワクするものですが、プロジェクトに着手する前に、その計画が実現可能かどうかを確認しておくことは重要です。準備が不十分だったために、一度に大量のサンプルを処理するはめになったり、アンケートに重要な質問を加えるのを忘れたりすることは避けたいものです。

パイロットスタディとは

パイロットスタディとは、研究プロジェクトを開始する前に、その研究デザインの実現性を見極めるために行う予備的な小規模調査です。研究プロジェクトに使用する手法をパイロットスタディで試し、その結果を踏まえて大規模なプロジェクトの方策を確定できます。質的・量的研究のいずれにおいてもパイロットスタディは有用です。パイロットスタディを通して研究課題や方法を特定または具体化することで、エラーの発生を防ぎ、リスクを軽減できるだけでなく、プロジェクトに要する時間とコストを見積り、余計な手間や費用を削減することができるのです。

アフリカの格言に「You never test the depth of a river with both feet.(仮訳:川の深さを測るのに両足を入れるな)」というものがありますが、いきなり川に両足を入れてしまうと水深を測るどころか、足が付かずに溺れる危険性もあるから慎重に行動せよとの警告です。大規模プロジェクトをいきなり開始するのではなく、それに先立って小規模のパイロットスタディを行うことで慎重に進めるのが得策です。パイロットスタディの小さなサンプル数で、大規模プロジェクトで予定している方法を試してみれば、計画の問題を見つけるのに役立つでしょう。大規模プロジェクトに多大な時間とお金を投入する前に、問題を修正できます。少ないサンプルであっても、実際に見てみればサンプル数を増やした場合の結果を推測することもでき、サンプル収集にどの程度のコストがかかるのかを見積もることも可能です。

パイロットスタディの構成要素

計画している研究プロジェクトが治療方法の臨床試験であろうと、アンケート調査であろうと、プロジェクトを実施する以上、その結果から有益な情報が得られ、その研究分野の価値を高めるものとなることを期待して臨みます。そのために、パイロットスタディで以下の項目について検討しておきます。

  • サンプルサイズと選択方法:データは研究の対象となる集団を代表するべきものであり、サンプルサイズの実行可能性を推定するには、統計的手法を利用する必要があります。
  • 評価基準の設定:調査の目的に基づいてパイロットスタディを成功と評価する基準を設定します。パイロットスタディで、こうした基準にどう取り組むかを考えます。
  • 被験者募集・サンプル収集:被験者募集やサンプル収集の際、そのプロセスが現実的で許容範囲内かを確認します。
  • 測定機器・資材・手法の確認:研究プロジェクトに利用する測定機器や資材、手法を必ず試験しておきます。アンケート類、機器類、手法は研究プロジェクトを測るのに現実的かつ実行可能なものか。また、改善できる点がないかを検討しておきます。
  • データ入力と分析:大規模プロジェクトで予定している統計分析をパイロットスタディの試験データで行うことで、その分析方法がデータセットに適しているかを確認します。
  • フローチャート:研究プロセスのフローチャートを作成しておきます。

研究プロジェクトにおけるパイロットスタディの有用性

パイロットスタディは、以下のような理由から、日常的に研究デザインに組み込んでおくと有用です。

  1. 研究課題を明確にするのに役立つ。
  2. 計画した研究デザインおよびプロセスをパイロットスタディで試すことで、その方法が実際にどれだけ実行可能かを評価できることと併せて、プロジェクトを実行する際に悪影響となる問題を事前に見つけ出し、修正できる。ここで大切なのは、プロジェクトと同じ方法でパイロットスタディを実施することであり、その結果次第でプロジェクトが実行可能かを評価する。
  3. 自分自身が研究に関連するさまざまな技術(技能)を学ぶことができる。
  4. 少人数の参加者に対する前臨床試験で治療の安全性をテストすることができる。これは臨床試験での非常に重要なステップである。
  5. リソース(資金や材料も含めて)と時間を無駄にしないように、研究の実現可能性を判断するのに役立つ。
  6. 資金調達の可能性を高めるために利用できる予備的なデータを確保するとともに、研究を成功させるために必要なスキルと経験を有していることを利害関係者に示す説得材料となる。

パイロットスタディはすべての研究プロジェクトに必要か

パイロットスタディは、あらゆる研究プロジェクトにおいて実施することが推奨されています。科学研究は常に計画通り進むとは限らないので、プロセスを最適化し、予期しないトラブルを最小限に抑える必要があるのです。パイロットスタディを行うことで、トラブルや予期せぬ事態に陥る可能性を見つけ出し、回避できるならば、パイロットスタディをやらないという選択はなくなるはずです。パイロットスタディで方法がうまくいかなかった、問題が見つかったといった場合は、計画を変更しない限り、研究プロジェクトでも機能しない可能性があります。方法を大幅に変更することになった場合は、改訂された方法を評価するために2回目のパイロットスタディが必要になる場合もあると覚えておいてください。方法に何も変更する必要がない場合には、そのまま研究プロジェクトを実行できるでしょう。

パイロットスタディは優れた研究デザインには欠かせない

パイロットスタディは、プロジェクトが実現可能かを判断するのに有用なだけでなく、その結果を公開する機会を得られるという点でも大変役に立ちます。というのも、研究者には他の研究者がリソースを最大限活用できるようにするために情報を共有する倫理的・科学的な義務があるからです。しかも、パイロットスタディが成功すれば、より広範なサンプルで大規模な研究を行うための予算の確保にもつながるかもしれません。パイロットスタディは、大規模プロジェクトを実現するための道を開く可能性を秘めているのです。

パイロットスタディが成功したとしても、研究プロジェクトの成功が保証されるものではありませんが、研究プロジェクトへのアプローチ方法を評価し、プロジェクトの実行に必要な技術を試してみるのに大変有用です。パイロットスタディの重要性について、さらに深く知りたい場合には、英国サリー大学のEdwin R. van TeijlingenとVanora Hundleyによる「The importance of pilot studies」を是非参照してみてください。

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