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オープンアクセス論文の引用率は本当に高いのか

欧州の研究機関をはじめ、オープンアクセス(OA)出版を積極的に後押しする動きが高まる中、OAの普及が加速化していますが、その一方で、定期購読料につき大学などの研究機関と出版社との対立が膠着状態となっています。実際、OAに掲載された論文の方が、購読雑誌に掲載された場合よりも閲覧数・ダウンロード数ともに多くなることが判明しており、その傾向は一層強まると予想されています。

 

確実に読者を掴むOA出版

2014年にNature Communicationに掲載された研究情報ネットワークResearch Information Network (RIN)による調査の結果、OA方式の論文の方が従来の定期購読方式の論文よりも閲覧数、引用数ともに上回っていることが明らかにされました。例えば、2013年上半期にOA方式と定期購読方式の両方で提供するハイブリッド・タイプの学術雑誌であるNature Communicationsに掲載された722本の論文のトラフィックをRINが分析した結果、OA論文と定期購読方式の論文の閲覧数に明らかに有意な差が見られました。この6ヶ月のOA論文の閲覧数は非OA論文の2倍を上回っていました。さらに、2010年4月から2013年6月の間に同誌に掲載された2000本以上の論文の引用数を分析した結果には、購読のみの非OA論文とOA論文の被引用件数の比較において、第一四分位数(データを小さい準に並べたときの25%の位置にある数字)では非OA論文3に対しOA論文4、第三四分位数(同75%の位置にある数字)では15対21、中央値では7対11といずれの点でもOA論文の引用数が上回っていることが示されていました。

OAの影響は学術雑誌の枠を超える

OAのプラスの影響は、学術雑誌に留まりません。ドイツのライデン大学の博士課程のRonald Snijderの調査によると、研究成果の書籍をOAで閲覧可能とした場合、OAで読めない(非OA)書籍よりも引用件数が10%程度高くなっていました。ここで注目すべき点は、書籍をOAで無料提供しても、紙媒体の書籍の売り上げにマイナスの影響がほとんど生じなかったことです。インド、中国、インドネシアなどの国々では、OA版のダウンロード数の方が非OA版を上回っていました。この傾向は、スウェーデンのルンド大学が運営するDirectory of Open Access Journals (DOAJ)が実施したアンケート調査の結果とも符合します。2018年と2013年のアンケート調査結果を比較した調査により、インドネシアでOAの利用が飛躍的に増加していることが明らかになったのです。これは、OAが学術研究成果の世界的拡散の一翼を担っていることを示していると言えます。

このような傾向は学術出版社も無視できません。シュプリンガー・ネイチャー社が2017年11月に発表した学術書の購入・利用におけるOAの影響を検証した報告書は、OA・非OA書籍の利用データの初めての大々的な比較分析であり、書籍をOA出版することでどのようにメリットが得られるかといった情報を提供する内容でした。出版から4年間の書籍の閲覧・被引用件数を調査し、定量分析を行った結果、OA書籍は非OA書籍に比べて、出版初年のダウンロード件数が7倍以上、出版後3年間にネット上で取り上げられる平均回数が10倍、出版後4年を経過した書籍の被引用件数が平均50%増となっていたことが示されました。調査に一定の限界があるとはいえ、OAによる出版は書籍にとっても有望な方法と言えるでしょう。

OAの展望

このように、OA出版は論文執筆者にとって期待できるメリットがありますが、問題もあります。大きな問題の一つは、執筆者が出版社に支払う論文掲載料(APC; article processing charge)です。論文掲載料は出版社によって異なりますが、通常1,000から3,500USドル程度とされており、執筆者にとって大きな負担となっています。

国外では、欧州の11の研究助成機関と欧州委員会(EC)が、研究成果の無料公開を後押しする「プランS」を推進し、OA化を実現させるためのイニシアティブ「cOAlition S」を宣言しました。そして、この宣言に賛同している研究助成機関が出資を行った研究論文を、OA誌あるいはOSプラットフォームで公開するように求めています。当然、OA化の波は日本にも押し寄せており、日本の大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)は、国内研究者の論文公表実態調査や学術雑誌のOA化に向けたイニシアティブ「OA2020」対応検討チームを設置するなどして、情報収集および検討を行っています。同連合は、OA氏掲載論文数が増加傾向にあること、それに伴ってAPC支払額も増加すると見越されていることを把握しており、近年の学術論文出版が抱える数々の問題への対策を検討しているようです。

大学などの中にはOAを推奨する立場から、APCが発生しない独自のOAライブラリーを開設するところもあります。例えば、京都大学は独自のプラットフォームとして「京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI)」を構築し、同校の研究・教育成果をネット上で公開しています。2019年3月末時点での収録論文は18万2千件に及んでおり、2018年度の論文ダウンロード件数は540万件以上となっていました。また、日本学術振興会はOA化の進展を踏まえて、科学研究費助成事業の科研費の助成を受けた論文をOAで公表する方法をウェブサイトで紹介しています。

学術出版社を介さない独自プラットフォームでの公開の場合、被引用件数の統計やインパクトファクターが出ないなどの制約はありますが、研究成果に対するアクセスを容易にする効果は確保できるでしょう。今後の課題は多いものの、OAにはさまざまなメリットがあります。中でも、研究成果を広く拡散することができることと、多くの人々が研究成果に容易に接することができることの2つは大きなメリットです。学術コミュニティが主体的に、商業学術出版社に依存しない出版システムを創り出そうとする動きが各国で加速している以上、OAは今後も着実に広まっていくのではないでしょうか。


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