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米国NSFは海外での研究に対する支援を撤廃か?

アメリカ国立科学財団(NSF)は、科学研究の促進を図る米国政府機関であり、2017年度予算は75億ドルに達し、大学に対する連邦レベルの研究支援の約24%を占める、米国の科学政策の大きな担い手です。NSFは、2013年から米国の大学院生が海外で研究する場合の資金援助をGraduate Research Opportunities Worldwide ( GROW ) プログラムにより実施してきました。しかし、NSFが毎年秋に行うGROWプログラムの申込み受付の2018-19年分については、2018年12月11現在も行われていません。GROWプログラムは、廃止の可能性も含めて、先行きが不透明です。

■ 科学研究への圧力

今回、GROWの受付が行われていないことは、トランプ政権発足以来の米国政府の内向きの姿勢を反映している可能性があります。トランプ政権は、科学研究の資金援助に関して、種々の変更を加えようとしています。例えば2018年初めに、政府の科学政策に対してアドバイスを行う連邦レベルのさまざまな科学諮問委員会のメンバーから内務省、エネルギー省、食品医薬品局などを外して、これらの委員会の弱体化を進めています。科学関係の政府スタッフの採用を凍結し、気候変動に関する研究への圧力も多く見られます。また、トランプ政権はNSFの2018年度予算の大幅削減を提案しましたが、これは議会の反対により実現しませんでした。しかし、依然としてトランプ政権は削減を狙っているようです。NSFは2018年2月に、日本を含む3カ国の海外事務所の閉鎖をすると発表しましたが、これもトランプの「米国第一主義」の反映と解する向きもあります。

■ GROWが無くなった場合の影響

GROWは、既に米国内で年間3万4000ドルの奨学金(Graduate Research Fellowship Program: GRFP)をNSFから受給している大学院生を対象に選抜して、海外で研究を進める場合に、渡航・滞在費の補助として追加で5000ドル支給するものです。プログラムの提携国は18カ国(欧州8カ国、アジア4カ国、中南米4カ国、オセアニア、中東各1カ国)で、アジアは日本、韓国、インド、シンガポールとなっています。受入国の機関と提携して、受入国からもさらに助成が行われます。日本の場合は、日本学術振興会が年間約30名を上限に、採用期間を3カ月以上12カ月以内として、初期費用10万円、月次滞在費20万円、海外旅行保険費用を支給します。GROWから支援を受けた大学院生にとっては、海外の異なる環境での研究を通じて新たな研究手法や発想法に接することができる、共同研究の経験を積むことができる、プログラム期間中に獲得した人脈が将来の研究や就職に役立つ、などの効果が期待されます。こうした効果は助成を受けた大学院生本人に留まらず、受入国側で机を並べる大学院生などにも及ぶものでしょう。この制度が廃止された場合は、前述の効果が失われ、研究者個人の成長機会が減少するのみならず、国際的な共同研究や研究協力の広がりにマイナスの影響が生じることが懸念されます。

■ 今後どうなるか

NSFのGROW担当者は11月2日時点のコメントで、GROWプログラムについて検討をしており、今後の方向が決まれば発表すると述べています。GROWのウェブサイトには2017年12月15日締切りの2017-18の募集の案内が掲載されていますが、2018-19の募集アナウンスは2018年12月11日現在未だ発表されていません。検討の理由の一つとしてGROW担当者は、近年受給者数が減少(2015-16年に158名であったが、2017-18年は88名へ減少)していることを挙げています。この減少の背景にある要因について関心がもたれますが、NSFとしての分析は今のところ見られません。

トランプ政権の間は、米国の自国第一主義、内向きに回帰する動きが継続する模様です。科学研究に対する政策やGROWのような支援制度に今後も大きな影を落としていくのでしょうか。

 


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