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変わる「利益相反」-Natureが新ルール適用へ

学術論文を投稿する際、著者は利益相反(Conflicts of Interest: COI)を開示するように求められます。これは、研究にとってバイアスをもたらす可能性のあるすべての利害関係、つまり研究助成金の出所や謝礼、特許権使用料やライセンス(商標や著作権)などの金銭的関係、および雇用契約などの個人的関係を含む経済的利害関係を開示する必要があるということです。通常、ジャーナルや学会が定めた投稿規定の中にCOIにつき何をどう開示すべきかが記されていますが、国際的には医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors : ICMJE)の規定が受け入れられているようです。
■ 非経済的利害関係もバイアスになる
経済的利害関係の中で直接的なものとしては、金銭的関係です。研究助成金はもちろん、旅費なども金額にかかわらず、すべて開示しなければなりません。また、個人的関係としては、雇用関係のような人間関係などが含まれます。研究結果が特定の企業の売上に影響を与えるような論文を執筆した著者が、その企業の社員や関係者である場合、経済的利害関係のある利益相反とみなされます。さらに、研究にとってバイアスとなるのは経済的な要素だけではなく、所属機関への忠誠心や個人的な野心など非経済的な要素も影響すると考えられるのです。そこで、ネイチャー・リサーチが出版するジャーナルは、利益相反の開示ルールを強化し、著者に対して、研究の中立性・客観性に疑問を抱かせる可能性のある非経済的利害関係の開示も求めていくと発表しました。
2018年1月31日に発表された記事によると、2月以降、ネイチャーおよびネイチャー・リサーチが出版するジャーナル(Nature Communications, Scientific Reports, Scientific Dataなど)に論文やレビューなどを投稿する著者は、非経済的利害関係も開示するよう求められることになります(詳細はネイチャーの「Competing interests」参照)。非経済的利害関係がどんなものなのか、見解は様々でしょう。金銭の受け取りを伴わない関係は目に見えないので、把握が難しいのです。しかし、特定の人物や企業・組織から報酬を受け取っていないからと言って、その人物や企業・組織が研究の客観性や中立性に影響を与える可能性がないとは言いきれません。今回、ネイチャーは非経済的利害関係として、幅広い意味での個人的な関係に加え、政府/非政府機関、支援団体との組織的/個人的な職務上の関係、専門家として従事しているような関係まで開示するよう示唆しています。
■ 利益相反の研究へのバイアスと開示方針の強化
企業が研究費を支援した場合、その経済的利害関係が研究デザインや分析、報告にバイアスを与えることは、かねてより指摘されてきました。一方、非経済的利害関係のバイアスを特定すること難しい状況です。とはいえ、非経済的利害関係も研究に対してバイアスを与えると推測できることから、ジャーナル(特に製薬会社などからの影響を受けやすい臨床研究や生物医学系のジャーナル)によっては数年前から非経済的利害関係も開示することを求めていました。研究にバイアスを与えかねない利害関係をすべて開示することによって研究の正当性と透明性を向上させることが、研究内容に対する読者の理解を促進し、社会的な信頼を守るために最良の方法であるとわかっているからです。今回のネイチャー・リサーチの方針強化も同様の意図があるものと考えられます。
ネイチャーのジャーナルは、今後、このCOI開示の対象を査読者にも広げるとしつつ、開示する内容、管理および開示内容の選択(除外)については著者およびその所属機関に委ねるとしています。経済的・非経済的、双方の視点から利益相反を加味することで公平な判断を行うことができるとするこのような動きは、他のジャーナルにも広がるのではないでしょうか。
著者は投稿先のジャーナルの投稿規定に示される利益相反について、理解を深めておく必要があります。一般的には、ICMJEの規定や世界医学雑誌編集者協会(World Association of Medical Editors : WAME)の掲載情報が役立ちます。投稿先のジャーナルにCOIを開示するための指定フォームがない場合は、ICMJEのフォーム(Form for Disclosure of Conflicts of Interest)を参考にするのが良いようです。著者は、投稿する都度、ジャーナルの最新の投稿規定をチェックし、利益相反の開示につき特定の要件が求められているかを確認すべきですが、英文校正会社らによる投稿規定チェックのサービスを利用するのも一案です。
開示を怠った投稿論文に利益相反があると判断された場合、論文の撤回や調査対象となる可能性もあるので、研究成果と自身の信頼性を守るためにもバイアスの疑いを晴らしておくことが大切なのです。


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