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「ミラージャーナル」はプランS対策になるのか

従来の出版ビジネスモデルからオープンアクセス(OA)モデルへの以降が急速に広がりつつありますが、学術コミュニティと出版社の攻防は尽きません。そこに登場したのが「ミラージャーナル」なる出版形態。OA出版をめぐる論争の解決策になるのでは――と考える出版社もいるようですが、その実態はどうなのでしょうか。

ミラージャーナルとは

ミラージャーナルとは、既存の購読しなければ読めない学術雑誌(ジャーナル)の完全に同一な内容ながら別モノとして公開されるOAジャーナルです。オリジナルなジャーナルにとっては鏡に映したように同一の内容であるため「ミラー」と表現されているもので、既存のジャーナルに別のISSNを持たせてOAで提供されます。タイトルはもちろん、出版に至る投稿、編集、査読の一連の流れはまったく同じものです。このミラージャーナルが、評判のよいOAジャーナルでの論文出版を望む研究者にとって、解決策となるかもしれないとの意見がある一方、反対意見もあり、賛否両論です。

サブスクリプション・モデルvsオープンアクセス・モデル

近年、インターネットの利用拡大や、科学研究の透明性向上と論文を利用しやすい環境整備に向けた後押しなどにより、OAジャーナルの数は増加の一途をたどっています。OAジャーナルでは、購読料を支払うことなく論文の閲覧が可能になることから、読者を広げ、引用数を増やすといった効果にもつながっています。

とはいえ、まだまだ多くの著名かつ需要の高いジャーナルが購読料を払った人だけが読める「サブスクリプション・モデル」の上に成り立っており、これに依存している学術出版社がOAへの完全な移行を渋っているのが現実です。科学雑誌「サイエンス」を出版するアメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science: AAAS)の最高責任者であるRush Holtのように、出版社は各種事業の運営を収益で賄っているため、購読契約に基づくビジネスモデルがなければ事業の継続は難しいと考える人は少なからず存在します。誰もが購読料を支払うことなく論文を読める「オープンアクセス・モデル」に反対する人は、当然ながら2020年以降、論文を即座に無料で公表することを義務づけるという構想「プランS(Plan S)」にも反対しています。

サブスクリプション・モデルの継続とオープンアクセス・モデルの推進を求める両者の折衷案として生まれたのが、著者が掲載料金を負担することで論文をオープンアクセスで公開するという「ハイブリッド・モデル」です。例えば、米国電気電子技術者協会(Institute of Electrical and Electronics Engineers: IEEE)は、査読付き論文を発表するにあたり、従来のサブスクリプション・モデルと、著者が料金を負担するオープンアクセス・モデルの両方式による公開を可能にするハイブリッド・モデルを提案しています。ハイブリッド・モデルを導入している100を超えるジャーナルの多くが、インパクトファクターで高評価を獲得している上、従来の学術出版で行われていたのと同じ査読プロセスをハイブリッド・モデルでも実施することにより、品質を保持しているのです。こうしたハイブリッド・モデルを採用するジャーナルは増えています。

しかし、さらに踏み込んだ対応を求める「プランS」は、2018年9月から2020年までの移行期の経過後には、ハイブリッド・モデルのジャーナルへの論文掲載も認めないとしています。このアプローチは意欲的ではあるものの、従来のサブスクリプション・モデルだけでなくハイブリッド・モデルにとっても脅威です。

ミラー・ジャーナルは抜け道となるのか

プランSは10の原則を提唱しています。そのひとつで、ハイブリッド・モデルはプランSの原則に適合しないと示されていることから、だったらミラー・ジャーナルで出せばよいのでは―と考える出版社もいるわけです。先述したように、ミラー・ジャーナルはOAで公開されるものではありますが、投稿から出版までのプロセスは従来のジャーナルと同じで、著者は論文の投稿時ではなく採択後に掲載先を、購読費を払うジャーナルとするか、ミラージャーナルにするかを決めることができるものが多いようです。

2018年11月27日にプランSが発表した運用指針(Implementation Guidance)によれば、ハイブリッド・モデルと基本的に同等であると見なされるミラー・ジャーナルも認めないとされています。ハイブリッド・モデルはジャーナル購読料と投稿料の2重取りになる(ダブルディッピング)になる可能制を指摘する研究者もいます。さらに、2019年1月18日のTHE掲載記事「Publishers ‘taking funders for a ride’ with mirror journals」は、出版社がミラー・ジャーナルで助成金を騙し取ろうとしていると指摘しています。ただ、プランSはImplementation Guidanceへのフィードバックを広範囲から集め、600以上もの意見を取りまとめた上ですべて分析・公開を行うとのプレスリリースを2月20日に発表しているので、批判も含めたフィードバックの内容によっては、なんらかの譲歩があるかもしれません。研究者の立場、出版社の立場、資金提供者の立場……さまざまな関係者からの意見がどのように反映されるのか、このフィードバックへの検討結果が待たれます。

今後、プランSがどれほど広く受け入れられ、実行されるか――プランSへの賛同を表明するかを検討している機関にとっても、助成機関にとっても大きな関心事項であり続けるのは確かです。


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