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文献レビューを成功させる論文マッピングとツール

多くの時間と労力をつぎ込み、何とか研究テーマが決まったのであれば、研究の成功に向けた第一歩を踏み出せたことに安堵しているかもしれません。次に取り組むべきは、文献レビューです。何人かで知恵を出し合ったとしても、研究論文あるいは卒業論文を書くのに十分な文献の量とはどの程度なのかを把握するのは難しいものです。図書館で何時間もページをめくって資料を探していた頃とは違い、インターネット上でオープンアクセスの論文やその他の出版社のプラットフォームが閲覧できるようになったおかげで、文献検索の作業は遙かに楽になりました。しかし、ITの普及と文献の検索および閲覧の利便性が格段に向上した反面、重要なデータのみを収集することがより難しくなってしまったのです。そこで、必要なデータを収集するための解決策、論文マッピングを紹介します。

論文マッピングとは

論文マッピングとは、自分の研究に必要な情報(文献)を探す方法のひとつです。過去の研究のまとめと言える文献レビューを執筆するには、同じ分野の論文を特定し、その研究成果を検討、批評、および解釈する必要があります。そのためには体系立てられた方法を取らなければならないことから、論文マップの作成が役立ちます。文献の主題(テーマ)、主張、および概念をマッピングすることは、文献レビューに不可欠な工程です。また、知識や思考のプロセスを外面化するための確立された方法でもあります。論文マップは、論文の著者、分野、テーマなどの項目に応じてそれぞれの関係性を図式、あるいは地図のように視覚的に表わしたものです。

研究者は、膨大な量の情報に圧倒され、自分の研究に必要な情報を特定したり整理したりするのが難しいと感じるようです。研究者は自分の分野において知識だけでなく、知識間の関連性においても、より豊富な知識を培っておくことが推奨されます。この知識の関係性をまとめることを、論文マッピングと言います。

論文マッピングのメリット

論文マッピングがどのような場面で研究に役立つかを挙げておきます。

  1. 研究分野について、どのぐらい学生が理解しているか、どのように解釈しているかを具体的に示すものとして、同僚や教授と共有するとき。
  2. 別の視点に切り替えることでパターンを形成し、それまで研究領域に隠されていた可能性を確認するとき。
  3. 関連する研究におけるギャップを特定するとき。
  4. 研究者が本来の研究領域の可能性やそれらの研究の限界を特定するとき。

論文マッピングへのアプローチ

論文マッピングは組織的なツールであるだけでなく、再帰的なツールでもあります。さまざまな分野の研究機関の特定に焦点を当てたアプローチをとることで、理論的かつ整然と、または根本的なマッピングをすることができます。

論文マッピングには2つのアプローチがあります。

  1. 主要な考えまたはディスクリプタ(キーワード文書の要約や文書中の重要な語句など)によるマッピング:研究テーマにおけるキーワードを使ってマッピングを作成する。
  2. 著者によるマッピング:該当分野における主要な研究者・専門家を特定する引用マッチングとも呼ばれ、引用を使ってそれらを相互に関連付けることも含むことがある。著者名で検索し、研究分野や作成した論文をマッピングする。

一般的に、論文マップは、学説、定義、または年代に基づく分類プロセスと、2種類のマッピング間の相互参照により、さらに細かく分けることができます。研究者は、演繹的処理、一般的な概念特化型マッピング(結果が正三角形になる)、または特定概念の帰納的処理マッピング(結果が逆三角形になる)として、マインド・マップを用います。

論文マッピングの種類

論文マッピングには次のような種類があります。

1. 特徴マッピング

サマリー記載ページから項構造を作成するマッピング。

2. テーマツリー・マッピング(研究テーマでのマッピング)

レベルの数を制限せずにサブテーマで研究テーマの発展を示すサマリーマップ。

3. コンテンツ・マッピング

階層的分類により論文コンテンツ(内容)の構成を線形構造のマッピング。

4. 分類マッピング

標準化された分類法によるマッピング。

5. コンセプト・マッピング

概念やプロセスを関連付けることで、宣言的知識から手続的知識を得られる。このタイプのマッピングでは、原因と結果、並びに問題解決の基本原則により、理論と実践関連性を示すことができる。

6. 修辞マッピング

議論する、影響を与える、または説得するために修辞的コミュニケーションを使うことは、社会政策や政治学において特に重要で、連結戦略と見なすことができる。エトス(ethos:価値観・信念・行動様式)、メタファー(metaphor:隠喩)、トロープ(trope:比喩的用法)、アイロニー(irony:皮肉)など、数々の修辞的ツールが事例を提示するために用いることができる。

7. 引用マッピング

引用マッピング(または引用マッチング)とは、論文を引用することで著者間の関連を具体的に確立するために用いられる研究プロセス。従来、手動で行っていた引用索引は、視覚的なマッピング作成(ISI Web of Scienceなど)ができる自動データベースで行われるようになった。よって、研究分野において引用マッピングを行うことは、著者および特定の論文が引用されている頻度を割り出すのに効果的。

役立つ論文マッピング・ツール5選

テクノロジーの進歩により、論文マッピングが簡単にできるようになりました。一方でオンラインには豊富な選択肢があるため、その中から効率的なツールを1つ選ぶのは至難の業です。論文マッピング・ツールは、幾つかの新しい機械学習技術の発展に伴い、系統立てられたメタデータと引用により構成されています。お勧めの論文マッピング・ツール3つと関連情報を2つ紹介します:

1. Connected Papers

Connected Papersは、関連する論文を簡単に可視化するツールで、検索結果が論文の類似度を一見して理解することができるようなネットワーク図で示されます。検索した論文の先行研究(prior works)や派生研究(derivative works)もクリックするだけで一覧表示されるので関連論文を調べることも簡単です。
論文を検索すると、その論文に関係のある論文がネットワーク図で表示されます。円が論文で、引用関係が線で示され、円の大きさは引用数、色の濃さが年代です。影響力の大きな論文やレビュー論文(総説)を探し出すことも可能です。検索した論文はZotero、EndNote、Mendeleyなどの参考文献マネージャ へエクスポートすることができるので、一括した文献管理に役立ちます。

2. Inciteful

Incitefulは学術文献のマッピングに役立つカスタマイズ可能な無料のオンラインツールです。特定の論文「Seed Paper」を入力して、その論文に関するテーマの概要を知ることに役立ちます。論文を執筆している場合は、参考文献リストの項目をIncitefulにインポートすることも可能で、従来のキーワードや引用検索で見つけられなかった論文を見つけ出せる可能性もあります。検索ボックスに論文タイトルやDOIなどを入力して検索すると、類似の論文(Similar Papers)、重要な論文(Most Important Papers in the Graph)、上位100名の著者による最近の論文(Recent Papers by the Top 100 Authors)、その他のデータ(Other Data)、上位著者(Top Authors)、上位ジャーナル(Top Journals)が表示されます。類似の論文はAdmic/Adarアルゴリズムを、重要な論文はPageRankランキングアルゴリズムを利用して生成されています。提示された結果から、さらにキーワードで絞り込みを行うことも可能です。

3. Litmaps

Litmapsは、引用論文のつながりを可視化するプラットフォームです。検索したい論文の研究テーマが他の論文にどのように関連しているかを動的な論文マップで示します。新しい論文がマップ上でどこにつながるかも示されるので、論文の組み合わせをモデル化するのにも役立ちます。基となる論文「Seed Article」を入力してマップを作成し、関連性の高い記事を見つけ出すことができるのに加え、複数のマップを組み合わせることもできます。Zotero、EndNote、Mendeleyといった大抵の文献管理ツールから既存のライブラリをBibTex形式でインポートすることも可能です。著者名、ORCID iD、所属機関などを使用してマップに追加したい記事を検索することができます。また、マップへのリンクを同僚や友人らと共有することができるので共同研究で成果を伝達するのにも有用です。キーワードと日付で論文を検索し、結果がマップにどう関連しているかを確認してマップに追加することもできますが、反対に読みたくない論文を非表示にすることもできます。マップ生成後に探索結果(上位5本)のアップデート通知をメールで受信できるようにする機能も有しています。

4. 引用ベースの検索ツール(3)

1)CoCitesは、科学論文を検索するための引用ベースの検索手法です。キーワードを使って関連する記事を検索します。CoCitesのプラグインを導入すると、PubMed掲載の科学論文に、その論文が引用された頻度を示すCoCitesのアイコンが表示され、それをクリックすると共引用(該当論文と一緒に引用されている論文)を見ることができます。
2)Citation Geckoは、引用ネットワークにつながる論文を検索し、見逃している可能性のある論文を素早く特定して可視化するツールです。「Seed Papers」に関連する論文をマップ、または年次順に関連度合いを示すグラフで表示することができ、論文検索時に年次フィルターを追加することも可能です。
3)VOSviewerは、学術文献および著者の関係によって形成される計量書誌学ネットワークを構築し、視覚化するソフトウェアです。ネットワークには、ジャーナルや、研究者、または個々の出版物が含まれることがありますが、これらは引用、図書目録照合、共引用、または共著関係に基づいて構築されたものです。VOSviewerは、科学論文から抜粋された重要な用語のネットワークを構築および視覚化するために使用できるテキストマイニング機能も有しています。使用するには、VOSviewerをインストールして、APIを選んで絞り込み条件を設定する必要があります。

5. 引用文脈ツール(2)

1)Sciteは、SmartCitationsを介して科学論文を検索、評価するためのプラットフォームです。論文がどのように引用されているかを確認することができます。SmartCitationは、引用の文脈や、引用のされた主張の裏付けとなる証拠、あるいは対照的な証拠を提供するかどうかを説明する分類システムを提供することによって、科学論文がどのように引用されているかを明らかにするものです。論文をより適切に見つけ出し、評価するのに役立ちます。引用は、ディプラーニングによって、引用の裏付けとなる証拠を提供するもの、対照的な証拠を提供するもの、有効的な証拠を提供せずに引用されたことを言及するものの3つに分類され、自分が引用している文献が他の人に支持的にあるいは対照的に引用されているのかを確認できます。
2)Semantic Scholarは、論文の影響力や引用回数などの情報を取り出せる無料の論文検索エンジンです。科学分野の論文2億本を越える論文データを参照し、重要なフレーズを探しながら、新しい論文の文章全てを分析します。科学論文向けのAIを活用した研究ツールです。

文献マッピングを作成したことがなければ、今回ご紹介したツールやソフトを使って自分が参照している論文のマッピングを行ってみませんか。今までに見落としていた有用な論文が見つかるかもしれません。論文マップの作成にここに挙げたツールを役立てみてください。


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