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日本は研究不正大国なのか

学術研究における不正が問題視されていますが、対岸の火事のように思っていませんか? 研究不正 をする日本人研究者がいたとしても数は少なく、それほど重大な問題は起こしていない――というのは単なる思い込みで、現実を見ていなかっただけなのだろうか。そんなことを思ってしまうような記事が科学雑誌Scienceに掲載されました。

嘘の大波(TIDE OF LIES)

8月17日のScienceに掲載された「TIDE OF LIES」と題された記事には、世界的に有名な葛飾北斎の『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』を模した画が掲げられています。この記事は、弘前大学の医学部元教授による研究不正行為について取り上げたものですが、加えて、研究不正などの理由で撤回された論文の監視を行っているRetraction Watchによると、論文撤回数の多い研究者ランキングの上位10名に6名もの日本人が含まれていることが記されています。この現状への痛烈な皮肉が日本芸術として有名な版画に込められているのです。


記事は、弘前大学の佐藤能啓(Yoshihiro Sato)元教授の研究不正に関する詳細なレポートとなっており、彼のねつ造は科学史上最悪な不正のひとつであると述べています。2017年11月、弘前大学は、同大学の佐藤元医学部教授が筆頭著者として2002年から2006年に米国や日本の医学雑誌に発表した14本の研究論文のデータにねつ造などがあったと発表しました。この問題は、米国医師会誌JAMAなどの学術雑誌が佐藤元教授の論文を取り消したことから発覚し、調査の結果、13本の論文でデータのねつ造が、1本で盗用が行われていたと認定されたのです。論文の中には、著名な医学雑誌に掲載され、多数引用されていたものもありました。どんな研究であれ不正は認められませんが、医学研究の不正は被害が甚大になる可能性もあり、佐藤元教授の研究不正は非常に悪質であったと言えます。なお、この佐藤元教授は2017年1月に他界していますが、本記事では、真実は分からないが不正が明らかにされたことで佐藤氏が自殺したと言う人もいると書かれています(ただし、本記事中で佐藤氏は2016年死亡となっている)。

佐藤元教授は、Retraction Watchの研究不正ランキングの6位に入っています。では、他の5名はどのような研究者なのでしょうか。それぞれ順位の上から見てみると、1位が元東邦大学麻酔科准教授の藤井善隆氏、8位が元東京大学分子細胞生物学研究所の加藤茂明氏、9位が佐藤氏の共同研究者だった元慶友整形外科病院の岩本潤氏、10位が藤井氏の共同研究者だった元東京女子医科大学八千代医療センターの斎藤祐司氏、13位が現役の琉球大教授である森直樹氏、となっていました。中でも1位の藤井氏の論文撤回数は183本と突出しています。森氏以外は、不正によって所属大学などを追われることになったようですが、この6人の内の5人が医師もしくは医療に関わる研究者です。日本には医学系の研究者が不正を起こしてしまう何らかの原因があるのでしょうか。しかし、原因はともかく、日本の医学研究はどうなっているのかと問われても答えに窮する状況です。不正なデータなどが書かれた論文を引用することで、後続の研究や治療に多大な影響を与え、最悪の場合、問題の論文に基づいた治療により患者に不利益をもたらす可能性すらあることを鑑みれば、早々に不正対策を行わなければ、日本の医学研究は世界から信頼されなくなってしまいます。

自ら捕食される不正-捕食ジャーナルへの投稿で業績を水増し?

直接的な研究不正とは少し異なりますが、もうひとつ衝撃的な記事をご紹介します。

2018年9月3日、毎日新聞に『粗悪学術誌 論文投稿、日本5000本超 業績水増しか』という記事が掲載されました。掲載費用すら払えば質の悪い論文も掲載する「捕食ジャーナル」――このような学術雑誌(ジャーナル)を出版する捕食出版社が存在するので、若手研究者のように経験の浅い研究者は捕食されないように注意しなければなりません、というのが一般的な言い分です。ところが、毎日新聞が行った分析結果は、研究者が論文発表数の水増しを行うために意図的に捕食ジャーナルを利用している恐れがあるというものでした。

さらに驚いたのは、日本の大学から捕食ジャーナルへの投稿数が5000本を超えており、しかも大学ランキングに名前を連ねるような有名大学からの投稿もかなりの数に上っていたことです。この分析では、特定の研究者が意図的に捕食ジャーナルを選んで投稿し、業績として積み重ねていたことも明らかになっています。いくら捕食ジャーナルへの投稿を防ぐための指南を行ったとしても、研究者自身が故意に捕食ジャーナルを選んでいるのであれば、防ぎようがありません。残念ながら、これは中国や韓国の話ではありません。日本の大学、研究者の話なのです。

研究倫理の大切さが叫ばれ、研究機関や学会、学術出版社が不正対策としてさまざまな策を講じている一方、世界の研究不正件数が減っているようには見えません。とはいえ、少なくとも世界の研究不正の上位の半分以上を日本人が占めているという衝撃的な事実を認め、日本の学術研究の信頼をこれ以上損なうことのないようにするのは急務ではないでしょうか。

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