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電子ジャーナルプラットフォームIOPscience

IOPscienceとは、英国物理学会(Institute of Physics: IOP)の出版部門IOP Publishingが提供する学術雑誌(ジャーナル)のオンラインサービスで、IOP発行のジャーナルの検索や論文へのアクセスを可能にするプラットフォームです。今回は、物理学分野において重要な論文公開と出版を支えるIOPscienceについてまとめてみました。

論文の出版

研究論文を出版することが、研究者のキャリア形成で非常に大切なことは言うまでもありません。所属先から論文出版が必須とされている人もいれば、学術界に研究成果を知らしめるために出版するという人もいますし、自分の研究分野において専門家としての地位を確立するために出版するという人もいるでしょう。いずれにしても、研究成果を論文として出版するまでが「研究」であるとも言われるほど論文の出版は重要視されています。成果を発表してこそ、該当分野の研究を促進し、科学の発展に寄与することができるのです。研究者としてのキャリアを積むのであれば、できるだけ早くから論文の執筆にチャレンジしてみることをお勧めします。

とはいえ、論文発表はキャリアのためだけではありません。有名な物理学者、スティーブン・ホーキング博士の言葉に、研究を行うことの原動力は発見の喜びであると表したものがありますが、その喜びを他者と共有するためにも論文を出版することは意義深いことです。

「No one undertakes research in physics with the intention of winning a prize. It is the joy of discovering something no one knew before.(仮訳:賞を取ろうと思って物理学の研究に取り組む人などいません。誰も知らないことを発見する喜びがあるから研究するのです」

論文の出版の難しさ

いきなり論文を書いてみなさいと言われても、簡単にできる作業ではありません。論文執筆のハードルが高い理由をいくつか挙げてみましょう。

  • 研究分野に関して十分に理解している必要がある。
  • 自分が見出した結果を論文の形にまとめる能力が必要とされる。多数の発表済み研究論文などから必要な情報を選んで整理し、自分の論文を組み立てる力が求められます。
  • 適切な用語で、明瞭かつ簡潔に、理路整然と書く必要がある。
  • 過去の発表済の見解や知識を踏まえ、新しい情報、見識を発信する必要がある。
  • 該当分野における最新の動向を踏まえた内容であることが求められる。

IOPは物理学の論文出版のハードルを下げられるか

では、ここからは物理学分野の論文出版について見てみます。IOP(英国物理学会)は、「すべての人に恩恵をもたらす物理学の発展を」との理念を掲げ、学校教育から産業界に至る幅広い範囲で物理学を推進しています。事実、物理学は社会生活と深く関わっており、気候変動、医療、エネルギー、食料、水資源などの世界的な問題の対策には欠かせない学問です。そして、「未来を切り開く」活動の一環として、知識を共有し、人をつなぐために電子ジャーナルのオンラインプラットフォームIOPscienceを開設しました。

IOPscienceでは、IOP Publishingが発行する学術ジャーナルをオンラインで検索し、アクセスすることができます。 Metrologia、Nanotechnology、New Journal of Physics、Nuclear Fusion、Nonlinearityなどの著名なジャーナルが収録されていることからも、物理学分野の論文出版におけるIOPの存在の大きさが分かります。さらに、IOPscienceには、物理学の電子書籍や会議論文(プロシーディング)も掲載されています。

IOP Publishingは論文のオープンアクセス(OA)を支援しており、著者が論文掲載料(APC)を支払うOAモデル、購読型ジャーナルの中の特定の論文だけがOA化されるハイブリッドOAモデル、助成団体などから資金提供を受けるスポンサー付きOAモデル、さらに著者が購読型ジャーナルで論文を出版するのと並行してOAのリポジトリにも保存(セルフアーカイブ)するグリーンOAモデルなど、さまざまな手法を提供しています。

IOPscienceの役立つ機能

IOPscience には、ユーザーにとって便利な機能が備わっています。

1. 関連する記事の検索機能
検索フィルターは自分の研究に関連する論文を探し出すのに役立ちます。この機能を使えば関連の薄い論文に時間を取られるのを避けることができます。ジャーナル名、著者名、出版形式、OAの種類などを限定して条件検索をすることもできます。

2.検索結果の保存機能
この機能を使えば、以前の検索条件での再検索が可能です。また、関心のある論文にタグを付けることもできます。関係のない論文に惑わされることなく検索を再開することが可能です。

3.新たに出版された論文のアラート機能
RSSフィードとeメールで、新しい研究論文の公開通知を受け取れるようにする機能です。この機能は、常に最新の文献情報を把握しておくために便利です。

4.プレプリントやニュースへのアクセス機能
物理学に関連する情報に触れ、それらが世界的な問題にどのように関連しているか理解を深めることができます。

5.ソーシャルブックマークを利用した情報共有機能
ソーシャルメディアを通して論文を共有することにより、研究者のキャリア形成の鍵となる人脈(ネットワーク)作りに役立てられます。IOPscienceは、eメール、フェイスブック、ツイッター、、Mendeleyなどのアプリを使って簡単に論文を共有できるようになっています。

6.関連する研究の検索機能
分野ごとのカテゴリーコードを使って関連する研究を簡単に見つけることができます。

ここに挙げた機能はすべて、使用者の研究テーマにおける関心事項や研究のニーズに合わせてカスタマイズすることができます。

IOPscienceにアクセスするには、所属の大学や研究機関の図書館または司書に連絡して、どのようなジャーナルにアクセスできるのか確認してみてください。不明な点については、IOPのカスタマーサービスに問い合わせることも可能です。

IOPscience の著者のためのガイドライン

学術ジャーナルに論文を投稿する際、特に初めての場合、著者のためのガイドライン(投稿ガイドライン)は必読です。IOPscienceの著者のためのガイドラインには、研究論文の掲載先として最適なジャーナルの選び方、ジャーナルから掲載論文への期待、書式に関する注意、および出版までの手順などが説明されています。また、研究論文に必要な構成と参照の方法についても詳しく書かれています。投稿した論文が却下されたとしても、IOPscienceが投稿に適した別のジャーナルを提案してくれることもあります。

さらに、IOPscience は、論文を投稿した後の工程に関する情報、例えば査読(レビュー)の流れや、査読の所要時間などの情報も提供してくれます。また、書籍や会議プロシーディングの執筆や出版のためのガイドラインも提供されています。

論文を作成するときには、最初からIOPscienceのガイドラインの書式に準じておけば、時間を無駄にすることは防げるでしょう。送信直前に慌てることもないはずです。英語が母国語ではない場合には、投稿予定の原稿が言語的に整っているかをチェックするための編集者を探す手伝いもしてくれます。

「最新ニュース」で世界の情報をキャッチ

IOPscienceのトップページに掲載されている「Latest news from Physics World」では物理学関連の最新ニュースが紹介されています。物理学界の最新の研究を取り上げているだけでなく、わかりやすい画像などとともに掲載されているので、世界で実際に起こっている問題を議論し、問題提起し、さらに興味深い事実を考察することができます。このニュース記事には、学べること、知りたいと思うことが満載です。読者の知的好奇心が満たされること間違いなしです。

IOPscienceを積極的に利用して、論文検索や原稿執筆の効率化に役立ててみてください。


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