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査読レポートの公表は査読に影響するか?

研究者が実績を積み、経歴を高めていくために、論文の発表は必須です。しかし、論文を発表するには、査読プロセスで採択されなければなりません。査読の結果、学術雑誌(ジャーナル)の編集部がどのように掲載論文を選定しているのか疑問を感じている研究者が多かったことから、一部のジャーナルは査読の結果を「査読レポート」として公表することで応えています。

査読レポートは、査読の依頼を受けた研究者が、専門家の立場から投稿論文に対する意見や所見を示すもので、編集部が該当論文を出版するかどうかの判定を左右します。編集部が査読レポートを著者に送り、必要な修正を求めることもありますが、通常は非公開とされてきた査読レポートをプロセスの透明性向上のために公表することは、査読者の推薦判断に影響を及ぼすのではないかという新たな疑問が生じています。

今回は、査読レポートの公開に関する調査研究の結果を紹介します。

査読レポートの公表に関する調査研究

エルゼビアが発行する5誌を対象に、2010年から2017年にかけて査読レポートの公表が査読者の対応に影響するかを調査した結果がNature Communicationsに掲載されました。この調査にあたったのは、スウェーデンのリンネ大学、スペインのバレンシア大学、イタリアのミラノ大学、オランダのエルゼビア社の研究者のチームです。調査は次の4項目への査読レポートの影響に重点が置かれました。

1. 査読者が査読を引き受けるか否かの傾向
2. 論文を査読した結果の推薦判断
3. 査読に要する期間
4. 査読レポートの論調

この調査では、偏り(バイアス)を極力抑えるため、以下に配慮しています。

  • インパクトファクター、投稿数、投稿動態などが近似のジャーナルを調査対象とした。
  • 査読者の動向の変化を、査読レポートの公表を始める前と後で比較すると同時に、査読結果を公表しない対照グループを設定した。
  • 論文執筆者と査読者に対し、調査に関する説明を十分に行った。
  • 査読者から、査読レポートを公表することにつき了承を得た。
  • 査読者は、オプションで氏名を公表しない(匿名とする)ことを選択できるようにした。
  • 調査では、最初の査読のみを対象とし(つまり2回目の査読であるラウンド2を対象外として)、査読者に対する他の査読結果の影響を排除した。
  • オープンアクセスと購読限定のジャーナルの両方を対象とした。

調査研究の結果

査読レポートを公表する前後で比較した統計解析の結果、以下の点が判明しました。

  1. 査読者が査読を引き受ける傾向:
    査読レポートが公表される場合でも、査読者が査読を辞退する傾向は見られませんでした。査読者が論文の査読を引き受ける割合は43.6%から30.9%に下がっていたものの、対照グループでも同じ傾向が見られたことから、査読を引き受ける率の変化は、公表の影響ではなく、全般的な傾向だったと考えられます。
  2. 採択の推薦判断(結果):
    全般的に、査読レポートの公表によって、査読者による採択の推薦判断、つまり、投稿論文を受理したいか却下したいかの判定に変化は生じませんでした。推薦結果に唯一差があった要素として挙げられるのは、査読者の立場の違いです。査読者が若手や学術界に所属しない場合は、教授や博士号取得者に比べて、より前向きな判定を行う傾向が認められました。
  3. 査読期間:
    査読レポートが公表される以前は、査読者はレポートの作成に要する時間を特に気にしていないように見えましたが、レポートが公表されるようになると、レポートの表現と構成により長く時間をかけているようでした。
  4. 査読レポートの論調:
    査読レポートが、限られたジャーナル編集部だけでなく、より広範な読者の目にさらされるようになれば、レポートの書きぶりに変化が生じると予想されていました。しかし、結果的には、レポートの論調はやや前向きにはなったものの、特に大きな差は見られませんでした。

査読レポートを公開する際の留意点

予備研究の結果を考慮すると、査読レポートの公表は、査読プロセスの透明性の向上に十分に機能しうる策だと思われます。ただし、留意すべきこととして、次の項目があげられます。

  1. 今回の調査は予備研究であり、全ての分野を含めた調査研究が必要
  2. 査読レポートの公開は、論文の掲載前に査読者、編集者、論文執筆者の間で行われるやり取りよりも、高い透明性を示すことができる
  3. 自分の氏名が公表されなければ、査読者は自分の査読レポートが公表されることに対して抵抗感が少ないことから、査読者の匿名性を確保することは重要な要素となる
  4. 他方、査読者の氏名を明らかにすることは、ジャーナルが利益相反の追及を受けることを防ぐことに繋がる

査読レポートを公開することのメリット

査読レポートを公表することは、学術研究界の全ての関係者にとって、大きなメリットをもたらす可能性があります。上に述べた透明性の確保だけでなく、査読レポートから論文執筆者が学べることは、論文の質の向上に役立つでしょう。その結果、ジャーナルは、より質の高い投稿論文を受け取ることができるようになります。査読レポート公表の動きは、学術界の全ての関係者にとって歓迎すべきことなのです。


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