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インパクトファクターのライバル – Citescore(サイトスコア)とは?

ジャーナル(学術雑誌)の影響力(インパクト)を評価する指標として、「インパクトファク
ター」が広く知られています。本誌は以前、このインパクトファクターには多くの問題があると指摘されていることを紹介したことがあります。
インパクトファクターとは、簡単にいえば、そのジャーナルに掲載された論文それぞれが過去2年間に引用された回数の平均値です。たとえば、2015年の『ネイチャー(Nature)』のインパクトファクターは41.456です。『サイエンス(Science)』は33.661、『セル(cell)』は32.242です。
12月6日、学術出版の大手エルゼビア社は、「サイトスコア(CiteScore)」という新しい指標を提供し始めたことを発表しました。
かつてはトムソン・ロイター社、現在はクラリベイト・アナリティクス社が提供するインパクトファクターは、約1万1000誌ものジャーナルをランキングしてきましたが、サイトスコアは、その倍の約2万2000誌を網羅しているといいます。
ただ、サイトスコアが意味することや計算の方法は インパクトファクター と似ており、基本的には引用された回数です。サイトスコアでは、1本の論文が過去3年間に引用された回数の平均値を示します。
エルゼビア社は、このサイトスコアを「ジャーナルの影響力について、より包括的で、より透明性が高く、より最新の見通しをご提供する新しい標準」だと紹介しています。
サイトスコアの最も大きな特徴は、いわゆる研究論文だけでなく、「社説(Editorial)」や「編集者への手紙(Letters to the Editor)」、「訂正(Correction/Retraction)」、「ニュース」など、引用可能な記事すべてを数えていることです。「これらは学者からはあまり引用されていないので、平均を下げる」と『ネイチャー・ニュース』は指摘します。周知の通り、『ネイチャー』や『サイエンス』といったトップジャーナルには、研究論文以外の記事が大量に掲載されています。これらが点数に大きく影響するのです。たとえば医学における「トップジャーナル」として知られる『ランセット』は、インパクトファクターでは44点で、全体の4位ですが、サイトスコアでは、わずか7.7点に落ちてしまい、200位以下になってしまいます。
同誌は「このような違いは、出版社の行動に大きな影響を与える可能性がある」とも指摘します。つまりサイトスコアが普及すれば、出版社のなかには、研究論文以外の記事を掲載することをやめたり、ウェブサイトやほかの出版物に掲載したりするようになるかもしれない、ということです。
『サイエンス』の編集長は、自分たちはそうした「非研究コンテンツ」に誇りを持っており、被引用数にのみもとづく指標は、それらを「過小評価するだけでしょう」と同誌にコメントしています。
また、ある研究者たちの予備的な調査では、サイトスコアでは、あまり引用されない「非研究」記事を掲載する雑誌よりも、研究論文だけを掲載する雑誌のスコアが高くなり、その結果、研究論文だけを掲載するジャーナルを主に発行している出版社が高く評価される傾向があることが、早くも指摘されています。つまりネイチャー・パブリッシング・グループは不利になり、ワイリー社やアメリカ化学会、そしてエルゼビア社などは有利かもしれない、ということです(前述した『ランセット』の発行元はエルゼビア社ですが)。
さらにいえば、 インパクトファクター はこれまで出版社以外の企業が運営してきましたが、サイトスコアを運営するのはエルゼビア社です。出版社自体がジャーナルの指標を提供することに疑問を呈する専門家もいます。それに対してエルゼビア社は、同社は出版社であるだけではなくて、「情報ソリューションの提供者」でもある、と、前掲の『ネイチャー・ニュース』にコメントしています。
またサイトスコアもインパクトファクターと同じく、被引用数をベースにしています。そのため、実際には何十回も引用されている論文は少数であるため、ジャーナル全体を評価する指標としては疑問がある、というインパクトファクターに対する根本的な批判を克服できるかどうかは疑問です。
ある論文の重要性は、その論文が掲載されているジャーナルではなく、その論文の中身で判断される、という学術界の常識を思い出す必要があります。

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