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論文の盗用・剽窃を避けるコツ-前編

研究論文を書く時、文献を集め、自説を裏付けるエビデンスを揃えるのに苦心される方が多いのではないでしょうか。既存の考えや価値観を参考にしつつ、的確な所見を加えることは大切ですが、その時、盗用や剽窃(ひょうせつ)の間違いを犯さないように注意しなければなりません。
盗用・剽窃とは、他人の文章や考え方を許可なく使用あるいは部分的に使用し、自分のものとして発表することです。意図的かどうかを問わず、適切な手続きを取らずに引用されたことをいい、自分自身の過去の論文等の利用も含みます。盗用・剽窃は、学術的かつ倫理的に重大なルール違反です。発覚すれば、論文の撤回や執筆者の信用失墜を招きかねません。
近年の学術出版界では、この盗用・剽窃が大きな問題となっており、盗用・剽窃が原因で論文が撤回されることが多くなっています。論文の投稿・発表に際して思わぬ問題を起こさないために、研究者は盗用・剽窃について、よく理解しておかなければなりません。

■ 故意でなくとも…… 
国によっては、言葉の出所や考えのもとになった事実について、出典を明示することにこだわらないところもあります。しかし、学術界の世界的な倫理規範においては、適切な参考文献の表示は大前提です。すべての研究者は、この規範を順守しなければなりません。にも関わらず、盗用・剽窃が多数発生しているのはなぜなのでしょう。理由は「意図せぬ」盗用・剽窃です。特に、英語を母国語としない研究者が注意しなければいけないことがあります。自身の研究成果を英語で書き記す際、うまく表現できないと、ついつい参照論文の通りに書いてしまいがちではないでしょうか。剽窃の意図がなくとも、他の研究者が書いた文章をそのままコピーすれば剽窃にあたります。論文をチェックする編集者は、文法的に間違いの多い論文の中に、部分的に完璧な文章があると、それは剽窃である可能性が高いと見抜きます。
言語のハンディとは別の落とし穴もあります。IT技術の進歩により、情報入手が手軽になったことがあげられます。デジタル時代の今日、研究者はインターネット上で、他者の資料やデータを簡単に閲覧できるようになりました。オープンアクセスのプラットフォームをのぞけば、多種多様な研究論文にアクセスすることも可能です。これにより、デジタル化された文書から文章やデータをコピーすることが容易になり、検索した結果を「つい」借用することにつながりがちなのです。これも盗用・剽窃に当たります。
執筆した文章が「偶然」同じ表現となるような、偶発的な盗用・剽窃であったとしても、それが意図的でないことを証明することは困難です。研究者は疑いがかからないよう、初めから自衛手段を講じなければなりません。ここでは前後編にまたいで、いくつかの有効な手段と事例を紹介します。
■ 盗用・剽窃対策5つのポイント 
1 間接引用する
・参照文献を逐語的に引用せず、自分の言葉に置き換える。
・自分の言葉に言い換えるために、参照文献の内容を十分理解することが大切。
・参照文献の文章を部分的に切り抜き、それをつなぎ合わせるのも剽窃になるので、注意すること。
2 直接引用には引用符を
他者の論文から文章をそのまま使う時は、引用符を付けて引用すること。引用符の中の文章は、一言一句、元の文章そのままにする必要がある。
3 引用のルールを知る
・他者の論文から抽出したすべての言葉や発想は「引用」扱いとし、出典を明示する。
・過去に自分が書いた論文の一部を転載する際であっても「引用」扱いとすること。引用することなしに自分の過去の論文や資料を利用することを、自己剽窃と言う。
・自分自身が実験を行って得られた科学的エビデンスは、引用不要。
・事実や常識は引用不要。確定できない場合には参照を付けること。
4 引用元の記録を付けておく
・エンドノート(EndNote)やリファレンス・マネージャー(Reference Manager)などの引用ソフトを使用して、参照した文献の記録を残すこと。
・裏付けには複数の参照文献を付けること。例えば、書評を見るだけではなく、個々の論文を参照し、引用すること。
5 盗用・剽窃チェックツールを利用
iThenticate やeTBLASTなどの盗用・剽窃チェックツール、または英文校正会社が提供する盗用・剽窃チェックサービスを利用する。広汎な文献を参照して、意図せぬ盗用・剽窃がないかを数分で知らせてくれるツール・サービスを論文提出前に利用する。

注意事項:ほとんどの剽窃は、論文の書評から文章を引き抜いています。自ら論文を記す時、他者の論文を参照する際には、書評だけでなく論文の全体を注意深く読み、文脈を理解し、自分の言葉で表現しなければなりません。そして、参照したら引用を忘れずに示すことが大切です。
上に記した対策は、あくまで文章の盗用・剽窃対策についてのものです。文章ではなく他者の研究結果を盗用することは、もってのほかです。
当記事の後編では、パッチライティングや、直接引用・間接引用について、さらに深く考えてみます。


参考:
THE WRITER’S HANDBOOK:Successful vs. unsuccessful paraphrases (英語リンク

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