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米国が 地球環境科学 分野でも中国にリードを奪われるか!?

いまだに反対論はあるものの、昨今の世界的な異常気象や例年にない高温や大量の降雨は地球温暖化が原因と考えられており、 地球環境科学 の研究者は、これらの現象の解析や予測向上、影響の緩和に向けた研究を促進しています。

■ 地球環境科学研究の特徴

地球環境科学の研究、特に気候変動の研究は、規模が大きく研究のために要する予算が膨大となるため、国レベルでの予算配分がその国の研究活動に影響をおよぼす傾向が見られます。例えば、米国では、米航空宇宙局(NASA)の温暖化ガスを調査する活動予算を削減し、炭素観測システムCMSへの資金提供を打ち切ったことが米国の地球環境科学研究に影響するのではと懸念されています。ちなみに、CMSには毎年1000万ドル(約11億円)の予算が割かれていたと報じられていますが、科学研究への損失は計り知れません。

また、地球環境科学の研究は政治との関わりが強いのも特徴です。地球温暖化対策を国の経済活動と切り離して考えることが難しく、トランプ政権の「パリ協定」脱退のように、国の政策による影響が避けられないのです。

そして、もうひとつの特徴は、国際協力が不可欠であるということです。グローバルな問題にはグローバルな対策が必要――という明快な理由はもちろん、研究に必要なデータや資金を工面するためにも国際共同研究で進めるほうが効率的なのでしょう。

■ 地球環境科学は国際共同研究の割合が大きい

実際に、地球環境科学研究は国際共同研究の割合が大きいことがNature Indexの分野別比較で明らかになりました。Nature Indexが6月28日に発表した「Nature Index 2018 Earth and Environmental Sciences」の分析によれば、自然科学4分野(生命科学、物理科学、化学、地球環境科学)ごとの高品質な研究論文の発表数の比較で、地球環境科学分野は、学術研究機関による研究発表数が少ない反面、政府研究機関による発表数が多く、また、国際共同研究の割合が4分野中で最も高かったことが分かりました。高品質な研究論文には国際的な共同研究によるものが多いという傾向は以前から見られましたが、特に2012年以降の地球環境科学分野では、その傾向が顕著なようです。また、地球規模の問題の解決策を探るため、異なる研究分野を跨いだ国際共同研究が多いこともわかりました。

■ 中国の猛追の裏に……

かつては、地球環境科学の研究では米国が圧倒的な強さを見せていました。現在、国別の発表論文数では、依然として米国が1位ですが、中国が猛烈な追い上げを見せて2位*となっています。2012年から2017年の5年間、中国の同分野における論文発表数は95%増加**。上位10ヶ国の中国以外の国からの発表数が減少傾向にあることと比較すれば対照的です。また、地球環境科学研究を実施している学術機関・政府研究機関を合わせた組織別のランキングでは、中国科学院(CAS)がトップになっています。この急速な伸びの背景には、中国政府の大気汚染対策や海洋学を優先する政策と、気候変動対策でイニシアティブを取りたいという思惑に基づく研究費の増額があります。過去5年、年間平均11.2%の予算増加率により、2017年の中国の研究開発費は2780億USドルに達しています。これは、中国のGDPの2.1%に相当する金額で、英国など他の先進国の予算より大きくなっています。中国政府は分野ごとの予算配分を公表していませんが、中国科学院の学長は報道機関のインタビューに答え、地球環境、エネルギー、材料、宇宙、海洋、生命および健康、資源と環境、学際的基礎研究といった8分野を、大きな研究費を投入する最も重要な分野であると挙げています。

潤沢な研究費だけではありません。現在の中国の強さには、多くの研究者の働きに裏付けられています。中国政府は、2008年に制定した海外から優秀な人材を呼び戻す政策「Thousand Talents Plan」を、2011年には若手研究者も対象とし、積極的な人材強化を図っています。国外の大学で学んだ研究者たちが帰国し、さまざまな研究分野で活躍しているのです。そして、国外で培ったネットワークを活用して国際的な共同研究を進めていることがうかがえます。

■ 追い上げられる米国では

一方の米国では、科学技術への予算が年々厳しくなってきています。中でも米環境保護局(EPA)の研究費確保は国の政策、つまりトランプ政権に大きな影響を受けています。そんな中、7月5日、地球温暖化懐疑論者でオバマ前政権時代の環境規制を改定しようとしていたプルイットEPA長官が、公費の無駄遣いを批判されて辞任しました。地球温暖化の主原因の一つとされる化石燃料の関連業界とのつながりが深いと言われていたプルイット氏は、トランプ政権による温暖化対策後退策を強行に進めてきました。辞任したとはいえ、彼の方針は残っており、さらに同じく温暖化懐疑論者と言われているEPA副長官だったアンドルー・ウィーラー氏が長官代行に就任することになったので、EPAおよび環境科学の研究者はまだまだ油断ができない状況です。研究者にとっては最悪の人事とも言われたプルイット前長官時代よりもトランプ政権の意向がより強くなる可能性もあり、米国だけでなく世界全体の地球環境科学に影響をおよぼす可能性も残ったままです。EPAの研究者が直面しているのは、研究費の先行きだけでなく、政治家が好まない証拠が出たとしても、その研究を実行・継続できる環境が保てるかどうかなのです。米国が地球環境科学の研究で世界をリードし続けられるか、今後の動きに注意です。
地球環境科学の研究者たちは膨大なデータを収集・分析し、日々刻々と変化する地球環境の問題の解決策、あるいは緩和策を見出すための努力を続けていますが、良くも悪くも国の政治や経済優先主義などの影響を避けきれません。地球環境科学分野の研究をどの国が牽引するとしても、”地球規模”での問題の解明・解決に向けた研究の発展を願うばかりです。

<脚注>

* 2位以下の順位は以下のとおり
1.米国、2.中国、3.英国、4.ドイツ、5.フランス、6.カナダ、7.オーストラリア、8.日本、9.スイス、10.オランダ
** 共著者の割合に応じて国に論文数を割り振るFractional Count(FC)計算方法を用い、該当国のFCを合計した数値の比較。


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