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グリーンOA(オープンアクセス)のメリットとデメリット

オープンアクセス(OA)は、学術出版に大革命をもたらしています。制限のない知識の共有という目的の上に構築されるOAとは、基本的に、誰もが出版物をオンライン経由で常時、購読料を支払うことなく利用できることを意味します。研究知識を制限なく共有することは、著者、読者、そして研究資金提供者にとって非常に重要なことです。OA化の手法は、ゴールドロード(ゴールドOA)とグリーンロード(グリーンOA)と呼ばれる二つに大別されます。
この記事では、グリーンOAの概要と、そのメリットとデメリットに焦点を当てて紹介します。

グリーンOAとは

グリーンOAとは、論文の著者らが自ら自分のウェブサイトや所属する研究室や大学・研究機関のウェブサイト、あるいはリポジトリに論文をアーカイブし、誰もが自由に無料で読めるようにするものです。セルフアーカイブとも呼ばれます。購読型の学術雑誌(ジャーナル)がすべてセルフアーカイブを許可しているわけではないので、投稿先ジャーナルがセルフアーカイブを認めているのかを確認しておくことが必要です。さらに、著者がどの論文を外部に公開できるかは出版社/ジャーナルの規定によるので、セルフアーカイブされている論文が査読を経ていない場合もあります。査読の前後、それぞれプレプリント(査読前)またはポストプリント(査読と著者による修正が済んでいる論文)と呼ばれる―いずれの原稿をアクセス可能にできるかは論文の投稿先によります。

すべてのOAジャーナルまたは出版社は、セルフアーカイブ・ポリシーを作成し、論文のどの版を掲載し、リポジトリでアクセスできるようにしてよいかといった諸条件を定めています。購読型ジャーナルに投稿した論文でも公開版の論文をセルフアーカイブできるものもありますが、一定の期間を経過していることを条件としているものもあります。この期間は猶予期間(embargo period)と呼ばれており、数ヶ月から数年とジャーナルによって差があります。猶予期間を設けずに即時公開が選択できる場合もあるので、公開猶予期間に関しては、ジャーナルあるいは出版社の方針をよく確認しておきましょう。
また、OAジャーナルの中には、出版後の著作権を著者に付与しているものもあります。多くのOAジャーナルはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC licence)を採用していますが、著作権の扱いについてもジャーナルに確認しておくことが重要です。

ゴールドOAとグリーンOAの違い

グリーンOAとゴールドOAはいずれも、誰もがアクセスできるオープンサイエンスを提供するための手段ですが、多くの点で異なっています。
ゴールドOAは、出版社などが運営するサイトに投稿論文の最終版(公開版)を掲載し、誰もが論文にアクセスすることができるようにしたものです。論文の投稿者から掲載料を取るので、読者は無料で全文を読むことができます。これに対し、グリーンOAは、購読型ジャーナルに掲載した論文を著者らが自分自身や所属機関のサイト、またはリポジトリにセルフアーカイブし、誰もが自由に読めるようにするものです。セルフアーカイブで公開される原稿は、最終的にジャーナルに掲載された公開版とは異なる完成版(著者が仕上げた版、著者最終稿)もしくは出版社が許可した版になります。

グリーンOAとゴールドOAの主な違い

グリーンOA ゴールドOA
完成版(査読を経た公開版とは異なる)論文への自由なアクセス 公開版論文(最終確定版)への自由なアクセス
定められた猶予期間(情報を解禁してよい日時)は公開できない 猶予期間はなく、出版直後に公開される
論文掲載料を必要としない(出版費用には購読料が充当されるので、著者は料金を支払う必要がない) 通常、著者が論文掲載料(APC)を負担する
論文著者がどの範囲の再利用(二次利用)を許すかの意思表示としてクリエイティブ・コモンズのライセンスを付与する。 出版社/ジャーナルがクリエイティブ・コモンズを採用しているか、している場合はどのタイプの付与が認められているか(許諾条件)を確認しておく。
公開版(出版社に受理され掲載された最終確定稿)の著作権は出版社/学会に譲渡される。ただし、利用許諾はさまざまなので、再利用および許諾申請については著者や著作権者に確認が必要。 著作権の保持については出版社/ジャーナルに確認する必要がある。

グリーンOAのメリットとデメリット

ここまでに記したように、グリーンOAは論文著者が自分の意思で論文を公開し、誰でも無料で読むことができるようにするものです。掲載先はさまざまですが、その論文を投稿したジャーナルによって、公開版と同一の版が一定の期間を経て公開できる場合や、投稿時点の著者最終稿の掲載が許される場合など、公開できる版もさまざまです。猶予期間の長さも出版社/ジャーナルによって異なるので注意が必要です。とはいえ、学術論文のOA化が急速に進む中、多くの出版社がグリーンOAを許可するようになっています。助成した研究成果のOA化を義務付ける助成機関が増えていますが、猶予期間が長すぎなければ、ほとんど研究資金提供者のOA義務化ポリシー(OAポリシー)を満たすことができます。著者は、購読料を払わないと読めないジャーナルへの論文掲載を選択したとしても、そのジャーナルがグリーンOAであれば論文をOAで公開することができるのです。論文がOA化されれば、Google Scholarが機関リポジトリのコンテンツにインデックス(索引)を付けるので、全文へのリンクも表示されます。著者にとって自分の論文がより多くの目に触れることになる一方で、読者にとっても研究成果が無料で読めることは大きなメリットです。

グリーンOAのデメリットとしては、セルフアーカイブなので管理は自己責任という点が挙げられます。著者はセルフアーカイブする際に、どの版(著者最終稿なのかプレプリントなのか)を掲載して良いのか確認しておく必要があります。出版社/ジャーナルの定めた猶予期間内に公開版を掲載することはできませんが、最終版ファイルもしっかり保存しておきましょう。また、出版社などのサイトで公開された版に修正などが入った場合、出版社は即座に改訂作業を行いますが、リポジトリはそれほど迅速な対応ができないかもしれません。出版社やジャーナルによってはセルフアーカイブに複数の制限を設けているところがあるので注意してください。そして、猶予期間が長いと即時性が失われ、研究内容によっては時期を逃してしまう可能性もあることにも留意しましょう。

グリーンOAのまとめ

グリーンOAとは、出版社/ジャーナルが許可した版を著者が自らの意思でセルフアーカイブして公開することです。ここで公開される原稿は、出版社がジャーナル掲載用にレイアウト調整、校正等が行われた最終確定稿(出版版)とは異なるものです。多くの出版社は、投稿論文の公開後12か月間の猶予期間を設けているのが一般的です。猶予期間の経過後は公開版を誰でもアクセスできるように公開することを認めています。論文のOA化により研究知識がより多くの人に共有され、科学的進歩を後押しし、結果として社会全体に活力を与えることにつながるのです。ゴールドOAより情報の公開が遅れるというデメリットはありますが、費用負担などのメリットもあるので、比較検討し、どのように自分の論文を公開するのが良いか決定しましょう。

論文著者の判断で無理のない方法を選択し、オープンアクセス化を進めてください。


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