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米国で働くのに必要なグリーンカード取得方法

研究者が母国以外で研究活動を続ける場合、当然ながら、その国の法律に従って居住権あるいは就労許可を得る必要があります。今回は米国(アメリカ)で研究者として働く(=給与を得て研究活動に従事する)ために必要な就労ビザとグリーンカードについて、概要をまとめてみます。

■ 米国で働くには何が必要?

米国内で合法的に就労するには、就労ビザ、労働許可証(EDA)、または永住権(グリーンカード)のいずれかを取得する必要があります。

・就労ビザ
就労内容によって種類が複数ありますが、雇用者による保証と、有効年数ごとの更新が必要です。

・労働許可証(EDA)
米国に滞在している人に発行されるもので、滞在に必要なビザ(例えば就労ビザ保有者の同行家族用ビザ)を有していることが前提です。

・永住権(グリーンカード)
外国人が米国に滞在する資格を証明するもので、これを取得すると就労する権利や社会保障など、米国市民と同等に近い権利を得ることができます。就労ビザと違って無期限、かつ雇用者に関わらず就労できます。

研究者が米国で研究職に就きたい場合、通常は大学や研究機関に雇用されて就労ビザ(H-1B:特殊技能職)を出してもらい、さらに長期で滞在したい、別の機関で研究を続けたい(転職したい)といった場合にはグリーンカードを申請する、という手順が必要になります。

■ グリーンカードを取得する方法

米国の移民政策の影響などにより、グリーンカードの取得は年々難しくなっているのが現実です。それでもグリーンカードがあれば、就労ビザに制限されることなく研究に没頭できるため、研究者にとっては大きなメリットと言えるでしょう。
では実際に、研究者が米国市民権・移民局(US Citizenship and Immigration Services,USCIS)にグリーンカードを申請する方法を見ていきましょう。USCISによれば、雇用に基づいて申請できるグリーンカードのカテゴリー(Employment-Based Immigration)は、以下のように分類されています。

EB-1
雇用ベースでのグリーンカード申請の中で最も優先されるカテゴリー。申請者の資格により3種類に分けられます。
1. 科学、芸術、教育、ビジネス、スポーツにおいて卓越した能力を有する人
2. 世界に認められる極めて有能な教授または研究者、少なくとも3年の経験を有する人
3. 多国籍企業の役員もしくは経営者として従事している人
USCISは、研究者がグリーンカードを申請するにあたり、受賞歴や出版件数などの卓越した能力の証明となる10項目を掲げ、そのうちの3つを満たさなければならないと示しています。EB-1の申請には、労働証明書(Labor Certificate, LC)が必要ありません。ただし、実際にはかなり要求が高く、ノーベル賞受賞者、オリンピックメダル保持者という国際的なレベルでないと取得は難しいようです。

BE-2
対象は高等学位(修士、博士等)あるいは同等の資格を持つ専門家で、専門分野において格別の能力を持つ人。あるいは、EB-2-NIW(National interest waivers、国益に基づく労働証明書免除*)として、米国移住することで米国経済、文化および米国の厚生に貢献すると認められる外国人です。

研究者がEB-2-NIWを申請する場合、雇用主とは無関係に、直接USCISに申請することができます。EB-2-NIWは、労働証明書や米国の大学・研究機関との雇用契約がない場合でも申請することができ、申請中に転職することも可能です。論文の発表数や被引用件数、専門家からの推薦状などを、審査に必要な書類に記入・提出します。研究者としての業績が米国にとっても重要であると示すことが求められますが、日本人研究者にとっては比較的申請しやすいカテゴリーではないでしょうか。

*National Interest Waiver (NIW) による申請(NIW申請)が認められれば、通常EB-2の申請に必要とされる労働証明書(LC)がなくてもグリーンカードを申請することができる。

EB-3
特殊技術を持つ専門家を対象としたカテゴリー。専門分野の4年生大学卒業者か、エンジニアや設計士など特殊職業において少なくとも2年以上の訓練あるいは経験を持つ人です。米国の会社によるサポートが必要です。

研究者にとっては、特殊技能職(H-1B)ビザなどで米国に滞在しながらグリーンカードを申請するのが一般的ですが、そもそも H-1B は申請受付の年間上限枠が65,000と定められており、追加で米国の博士以上を有する申請者を対象とした枠が20,000ありますが、いずれも年間上限数(2018年度分。年度により変更となることもあり、近年は発給条件が厳格化する傾向あり)に達した時点で受付は終了します。そのため、H-1Bを経てEBカテゴリーでグリーンカードを申請・取得するには、かなりの労力と時間がかかることを覚悟しておく必要がありそうです。

■ 申請の際のポイント

米国においてグリーンカードを申請する際に必要なものは、USCISのウェブサイトでも事前に確認することができます。以下にポイントを挙げます。

・詳細な学業成績書を作成し、修士号や博士号の取得者であることを示す。
・申請は速やかに。必要な書類を用意しておき、申請できるタイミングですぐに申請する。(2018年度分は申請開始5日以内に申請数が上限に到達)
・著名な学術雑誌(ジャーナル)に載った論文を目立たせ、専門分野での貢献度を示す。
・申請に関する法的事項を手助けしてくれる弁護士を雇うことも選択肢に加える。ただし、弁護士は必要となるサービスに応じて料金を請求してくるので、まずは自分で申請するための「do-it-yourself(DIY)パッケージ」をチェックしてみる。
・的確な申請を行うため、雇用者と仕事の内容についてよく話し合いをしておく。特にEB-2を申請する場合には、原則として労働証明書(LC)が必要であるため注意する。
・I-140(雇用ベースの永住権申請) の書類を正確に記入する。

■ 世界で活躍するチャンス

申請書を提出した後、USCISは内容を確認し、候補者を絞り込んで面接を行います。あとは結果を待つのみです。

大学職員、研究者、PhD保持者は、EB-2-NIWとEB-3を同時に申請するのが一般的なようです。近年は、NIWを申請して渡米し、研究を続ける日本人研究者が増えているとも言われています。優秀な研究者が米国に移動してしまうのは日本の学術界にとって残念なことかもしれませんが、一方で研究者が米国で研究を続けるための選択肢としてグリーンカードという手段があり、世界で活躍できる機会をつかんでいるのは喜ばしいこととも言えるでしょう。

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