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ビル&メリンダ・ゲイツ財団、オープンアクセス促進に注力

従来、学術研究論文を読むには購読料が必要でした。学術論文にアクセスしようとすれば、お金を払わねばなかったのです。また学術ジャーナルの中には、執筆者が自分の論文を公的にシェアするのを一定期間認めないものもあり、研究論文の共有を阻んできました。これは、多くの学術出版社側にとっては収益を生む重要なモデルですが、研究者側にとっては成果へのアクセスを妨げるものでした。特に資金不足に悩む研究者にとっては深刻な制約であり、先行する研究成果に基づいて進められるような研究においては、後進の研究活動の発展を妨げることになりかねません。
■ 研究成果を制限なく公刊する
近年、前述の有料モデルとは正反対に、無料で学術論文を公開するモデルが普及してきました。オープンアクセス出版です。これはすべての研究者が生産性を上げられるよう、必要なデータへの公平なアクセスを確保するオンラインのジャーナルを指します。このオープンアクセスの流れを支える強力な支援者に、ビル&メリンダ・ゲイツ財団も名を連ねています。この世界最大の慈善基金財団は、” All Lives Have Equal Value”(すべての生命の価値は等しい)との信念のもと、世界中の人々が健康で豊かな生活を送るための支援を行っています。活動の範囲は、世界の病気・貧困の撲滅への挑戦から教育やIT技術に関わるものまで幅広く、学術振興への支援の一環として、オープンアクセスの流れも後押ししています。
ゲイツ財団は2017年1月1日、財団の助成を受けたすべての研究成果が購読料や制約の壁に阻まれないようにとの方針”Bill&Melinda Gates Foundation Open Access Policy”を発表しました。この方針は米国国立衛生研究所(NIH)やWellcome Trust(イギリスに本拠地を置き医学研究支援などを行う団体)などのような学術支援団体の方針にも近いものですが、ゲイツ財団はさらに踏み込んで、研究成果をクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス:インターネット時代のための新しい著作権ルール)のもと、商業目的を含んだ再利用をも制限することなく、公刊することを求めています。この要求は、その公刊物に関わるすべてのデータにも適用されることになります(学術ジャーナルの中には同財団のオープンアクセス方針に対応していないものもあるため、財団の助成を受けた研究者は、それらの雑誌に論文が掲載できないことになります)。
■ 既存のジャーナルにもたらす影響は?
NatureScienceNew England Journal of Medicineなど有名な既存のジャーナルは、オープンアクセスに対応していません。ゲイツ財団の方針に準じれば、こうしたジャーナルがオープンアクセスに参加しない限り、これらの誌面には財団が支援した研究成果を掲載できないことになります。Natureは妥協策として、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの一種で再利用の制限のないCC-BYライセンスのもとでの出版を模索しているようですが、natureブログの記事(201年11月21日付)が言及するように、容易な道ではありません。この問題について財団と交渉を行っているジャーナルもあるようです。
この最近の展開がどこまで学術研究を変化させるかは、時間をかけて見ていく必要があります。ただはっきりしているのは、このゲイツ財団の方針表明により、学術界でのオープンアクセスの運用について、新たな議論の道が生み出されたということです。NIHやWellcome Trustの方針同様に、ゲイツ財団のこの新方針も、研究者のデータアクセスにポジティブな影響を与えることが期待されています。
ゲイツ財団は、その活動の中で、熱帯地域、貧困層に蔓延している寄生虫、細菌感染症といった、いわゆる「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Disease: NTD)」との戦いにおいて、官民協力のもと国際的な共闘をめざすという新たな動きを取り入れました。財団の先見性と行動力にあふれたアプローチが学術界にも浸透するのか、そしてオープンアクセスにどのような効果をもたらすのか、目が離せません。
参考
Enago academy掲載の英文はこちら:Gates Foundation Accelerating Open Access

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