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Publons CEO アンドリュー・プレストン氏へのインタビュー

「専門家による論文査読を効果的に行うことで、科学を加速化する」をミッションに掲げて2012年に設立されたPublons(パブロン)社は、世界中の研究者や出版社などの学術関係者とともに、査読者の功績を評価する取り組みを進めています。今回お話を伺ったパブロン社の共同創設者兼CEOであるアンドリュー・プレストン(Andrew Preston)氏は、ヴィクトリア大学で物理学の博士号を取得し、ボストン大学でポスドク研究員をされていた経歴の持ち主。研究者から一転してパブロン社を設立された経緯や最近の取り組みを伺いました。


■まずはパブロン社を設立する前の話を聞かせてください。大学では物理学を専攻されたのですよね?
私は昔から、宇宙の仕組みに関心を持っていました。学びをもっと深めたいと思い、物理学を専攻したのです。宇宙の謎に向き合うことは素晴らしい経験であり、これからもずっと興味を持ち続けていくことでしょう。
ポスドクをやめる際は非常に悩みましたが、今振り返ってみても正しい決断でした。学問の世界から離れることは、ある意味で戻ることのできない一方通行の道を行くようなものです。しかし、決めるのが難しいということは、どちらの選択肢も同じぐらい良いものだということなので、自身の直感にしたがって行動してみるのが良いと思います。
■それがなぜ、パブロン社を設立するに至ったのでしょう?
査読の本来の意味を取り戻すためです。
研究者として経験を積み、素晴らしい出会いに恵まれ、世界のさまざまな場所でどのような研究がどのように行われているかを知ることができました。そこで論文査読が研究の要であることに気づいたのです。査読者の質によって、論文の質が変わってくるのを目の当たりにしたからです。それによって論文は信頼できるものになる。でも私たちはつい、査読者(レビュアー)の功績を無視して、研究者の出版実績だけを取り上げがちです。レビュアーこそが研究の発展に貢献している、と評価されるべきなのです。
■パブロン社設立にあたって苦労されたことはありますか?
設立当初、「レビュアーを評価する」という発想はかなり斬新なものだったので、出版業界がその重要性を認識し始めるまでには3年ほどを要しました。現在、出版業界大手7社中4社がパブロンを利用していますが、大学や助成金提供機関がその価値を認めるには、まだ時間がかかるでしょう。
■パブロン社の具体的なサービス内容を教えてください。
レビュアーがパブロンに登録すれば、論文査読の実績を履歴に登録できるようになります。私たちはレビュアーの実績を日々確認しており、レビュアーは査読作業中でも所定のボックス(1,000以上の学術誌が登録されている)をクリックするだけで、自動的に査読実績を追加できるようになります。
レビュアーは、蓄積された査読実績を公式の記録としてダウンロードできるので、履歴書の提出や実績評価、研究助成金への応募の際に利用することができます。
今や1,000以上の学術誌がわれわれパブロンのパートナーとなってレビュアーの評価を行っています。また9万人以上の研究者がパブロンに査読者として登録し、50万以上の査読履歴が記録されています。
■レビュアーとして評価を高めるのに必要な要素は何でしょう?レビュアーになるには何から始めればよいのでしょう?
重要なのは、査読は重要だと誰もが知っているのに、実際の査読の仕組みを理解している人は少ないということです。レビュアーになるための方法も明確ではありません。
そこで私たちは、パブロン・アカデミーという、研究者が査読方法を学ぶためのコースを設けています。アカデミーの修了者と主要学術誌の編集者を引き合わせることで、研究者がレビューのエキスパートとして専門分野で評価されるよう支援しています。
研究者がレビューについて学ぶ上では共通のリソースが不可欠だと考えています。特定分野のエキスパートでも、その研究者が優秀なレビュアーだと編集者に証明するのは非常に困難だからです。私は、エナゴのような会社がリソース、情報、サービスを提供することで貢献できると考えています。
レビュアーになることや、査読の仕組みを学ぶことに興味を持たれた方は、ぜひhttps://publons.com/academy/をチェックしてみてください。
■パブロン社の2016年の主な取り組みをお聞かせください。
査読の重要性についての認識を高めることと、世界的な大手出版社とのパートナーシップの構築によって研究者がさらにレビュー実績を積み上げやすくすることに重点を置いてきました。
認識を高めるということについては、 多くの出版社と協力して「査読週間」というイベントを開催し、国際学術誌が査読の最優秀者を表彰する第1回パブロン科学センティネル賞の授与を行いました。
■新たな賞を新設されたのですね。
いくつかの異なるカテゴリーにおいて最も優れた出版前査読を行ったレビュアーの表彰、全レビュアーの中で特に評価の高かった上位3名への賞の贈呈、さらに各研究分野の上位10%のレビュアーへの認定証の贈呈を行いました。
この賞のよいところは、出版社の垣根を越えて査読の評価ができることです。WileySAGESpringer などの大手出版社からも支援をいただけたことにより、レビュアーを評価する実質的な取り組みが行われているということを、社会に示すことができました。
私たちは、この賞を査読におけるノーベル賞だと考えています。画期的な研究の検証は専門的な査読にかかっている、つまりレビュアーの貢献は大きいと認識することが大切です。優れた査読によって画期的な研究の発表を実現させたエキスパートの功績を認めることが、この賞を創設した理由です。
このイベントを毎年開催するのはもちろん、レビュアーの功績に報いる方法をさらに検討していきたいと思います。
■御社のサービスのアジアにおける反響はいかがですか?
アジアでのパブロンのユーザー数は見込みを下回っています。出版社が、査読に興味を持つアジアの研究者を探し出すのに苦労しているのではと考えています。
■今後の意気込みをお聞かせください。
私たちパブロン社は何よりも、科学と研究に貢献したいと思っています。研究者をレビュアーとして評価することで、彼らが専門分野の見識を有することを示す手伝いをし、また彼らがさらに多くの査読を行うことで、結果としてプロセス全体を加速させることができると考えます。研究者にとって、レビュアーになることは自身のキャリアをスタートさせる最善の方法の一つだと思いますので、今後もサービスのさらなる活性化をめざして努力していきます。
■最後に、学術出版業界でビジネスを展開しようとしている若手起業家たちへアドバイスをお願いします。
とにかくやってみることです。重要なのは、自身が提供するサービスの利用者がどのような人たちであるかを考えることです。そして、やろうとしているビジネスについて、利用者とできるだけたくさん話すこと。誰かがみずからのサービスを利用するだろうと想定して何かを作るということは、避けなければいけません。


インタビューを終えて
アンドリュー・プレストン氏とお話しできたことは本当に貴重な経験でした。本インタビューのためにお時間をいただけたことに対し、プレストン氏に厚く御礼申し上げると共に、パブロン社の全メンバーのご健勝とご活躍をお祈りいたします。

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