ケースレポート(症例報告)の書き方【後編】
患者の疾患の症状や疾病の兆候、診断、治療、経過観察などに関する詳細報告であるケースレポート(症例報告)の書き方に関する10のステップを解説する『ケースレポート(症例報告)の書き方』後編(ステップ6以降)をお届けします。
【前編】はこちらをご参照下さい。
ステップ1:何についてのケースレポートを書くか、目的を明確にする
ステップ2:ケースレポートを投稿する学術雑誌(ジャーナル)を選ぶ
ステップ3:ジャーナルの投稿規定に沿ってケースレポートの構成を組み立てる
ステップ4:ケースレポートを書き出す
ステップ5:ケースレポートに記載する情報を整理する
ステップ6:ケースレポートに記載する内容を絞り込む
ステップ6ではステップ5で集めた情報を要約します。
- 介入歴や重要な所見、関連する発見
- 治療
- 治療後の患者の容態
ケースレポートは一般的に、アブストラクト(抄録)、イントロダクション(序文)、症例、ディスカッション(考察)、結論から構成されます。
アブストラクトは、とりあげた症例の新規性とそれに対する考察について簡潔に示しますが、学術雑誌(ジャーナル)によっては字数制限を設けているものもあるので、確認しておきましょう。該当症例の何が珍しいのか、その症例によって何が分かったかなどに関する細かい内容はイントロダクション以降に記します。ステップ7から、それぞれのセクションを書くときの注意点をまとめます。
ステップ7:イントロダクション(序文)
該当症例に注目した理由、臨床的な問題、その重要性を簡潔に記します。同じ問題に言及した公開済の論文の引用もこのセクションに記載します。
ポイント1:該当症例がいかに目新しいか、どう稀なのか、そのことにどのような臨床的意義があるのかを記すのを忘れないようにしましょう。
ステップ8:症例―患者のデータと症例
ケースレポートは、特定の患者あるいはグループについて書かれることが多いので、このセクションはとても重要な役割を担うことになります。また、ケースレポート作成にあたって患者の同意は不可欠です。患者の同意を得ておくことは、適切な医療行為を行うためだけでなく、自誌独自の承諾フォームをウェブで提供しているBMJのように、ほとんどのジャーナルでも必須事項とされています。
症例は、時系列に沿って解説するのが一般的です。期待される検査結果(アウトカム)と実際に出たアウトカムを対比して記述します。
ポイント2:関連する検査および臨床試験の結果(アウトカム)を述べる。関連しない検査結果まで羅列することは避ける。
ステップ9:ディスカッション(考察)と結論を書く
このセクションは、他の研究論文とは書き方が異なる部分です。考察を書くときのポイントを順番に記します。
まず、該当する症例について報告する目的を説明します。序文で述べた問題を発展させ、該当症例の新規性を明示します。該当症例の状況あるいは関連する特徴について過去にどのように書かれていたか、先行研究の知見についても説明します。ここでは、引用する文献についての情報も書きますが、不要な詳細は省くように注意します。
最も大切なことは、症例報告の査読者は、該当の症状が稀であることの証明およびそれに対する科学的な説明を求めているということです。例えば、以下の質問への回答を考察のセクションに盛り込んでみてください。
- 症状の原因あるいは、特定の治療、臨床的特徴を取り上げた理由を説明しているか
- 結果(アウトカム)にどのような影響を及ぼしたか
- 該当症例は一般的な症例とどのように異なっているのか、その違いについてどう考えるか
- 該当症例から学べたことはあるか
ケースレポートには、結論(Conclusion)がないこともあります。しかし、結論を付ける場合には、全体のまとめを幾つかの文章で簡潔に記すようにします。該当の症例報告が、他の臨床にどのように影響するか、貢献するかを書くのも良いでしょう。
ステップ10:参照文献を書式に従ってまとめる
参照文献を書き出すセクションは重要です。ケースレポート作成で引用した、背景に関連するもの、補完するもの、支持あるいは反ばくする論文を投稿先ジャーナルの指定する書式(バンクーバー方式かハーバード方式かなど)に準じてリストにします。書式の設定は、投稿論文が受理されるかにも大きな影響を及ぼしますので、余白、文の間隔、図式番号から英語の種類(米語、英語による書式の違い)まで詳細な指示に従うように注意します。スペルや句読点の付け方にも注意しましょう。
最後に、ケースレポートのセクションごとの要点をまとめると、次のようになります。
イントロダクション(序論):
3パラグラフ以内に簡潔にまとめる。
- ケースレポートの目的を明記する
- 背景情報と適切な定義を示す
- 患者症例の紹介
症例:
患者の症例に関して、読者が該当症例の有効性を確定するのに十分に詳細な情報が確実に提供されているようにする。
- 患者の人口統計的情報(年齢、性別、身長、体重など)-患者が特定できてしまう情報の記載は避ける(生年月日、イニシャルなど)
- 患者の不満
- 処置前の患者の現病歴、既住歴と治療、患者背景(家族/社会)、投薬に関する履歴
- 各薬剤の名称、強さ、剤形、投与経路、投与した日
- 症例に関連すること、患者をサポートするために実施された診断手順と、それによって得られた顕著な結果
結果:
- 組織病理、レントゲン、心電図、皮膚症状、解剖などの写真
- 患者の同意の取得および組織/機関のガイドラインの順守
ディスカッション(考察):
ディスカッションでは、該当の症例における特異性を説明する。
- ケースレポートと文献レビューを比較して差異を際立たせる
- 提起した問題の解決に至らなくても、どこまで迫れたのか、限界を踏まえつつ他の解釈などについて考察し、臨床試験の妥当性を説明する
- 記述した患者のケースレポートの正確性を確認する
- ケースレポートにおける顕著な特徴を要約する
- 推奨事項と結論を導き出す
結論:
結論は1パラグラフ以上にならないように簡潔に記す。
- 理にかなった結論を示す
- 証拠に基づく推奨事項を提供する
- 該当症例から得られたことの臨床的意義を示しつつ、将来の研究や治療の方向性を示す
症例報告を記すことは、病気の治療だけでなく、病気の予防、診断、治療におけるヒントとなります。ここで示した10のステップを参考にケースレポートの作成に挑戦してもらえれば幸いです。
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